CLOWN×CLOWN


結婚×ブラコン×君が恋しい今日この頃


姉貴ははっきり言ってよくわからない奴だ。

そもそも本当に姉貴なのかどうかが怪しい。本当にイル兄と結婚なんてするんだろうか。
結局一緒に風呂も入れてないから検証もできてない。これで男だったらどうするんだろうみんな。

もし男だった時…追い出されたり、しねーよな?
オレちゃんと、姉貴じゃなくて兄貴って呼ぶようにするし。
あれ?なんかそれは違うな。まぁいっか。

とにかく、姉貴にはここにいてもらわなきゃ困る。
よくわかんない奴だけど。ほんとに何にもわかんない奴だけど。
いなきゃダメだ。



「姉貴!フロ入ろうフロ!」
「キル君、今まだお昼だよ?」

ライトにピクルスを与え、チルにチーズを食べさせるナッツは呆れたように笑った(変な食事だ)
そんなことはわかってる。でも夜になったらナッツの奴、いつの間にかシャワー浴び終わってて風呂一緒に入ってくんねーし。
たとえ昼だろうが、今の内に実行するしかねーじゃん。

「というかキル君ってもうそろそろ、女の人とお風呂とか入るの恥ずかしがったりする年じゃないの?僕のこと一応女だと考えてるんなら……」
「そりゃそうだけど…………………姉貴じゃなぁ」
「たっぷり間空けてどこ見たよ、ええ?悪かったね何もなくて。…案外脱いだらすごいかもしれないよ?」
「…ありえねぇ…」
「…うん、子供は正直がよろしい」

姉貴は誰が何を言っても怒らない。いつもへらへら笑ってて、それが姉貴の不可解さを助長する。じいちゃんは「アレは器がでかい証拠じゃ」とかなんとか言ってたけどそれもよくわかんねー。
俺が知ってるのは職業が『クラウン』っていう、それだけだ。
俺は全然姉貴を知らない。姉貴は俺のこと知ってるのに、ずりぃ。

「なーんでそんなに僕の性別にこだわるかなぁ?心配しなくても僕、お兄さんと結婚なんてしないよ?」
「……は!?しねーの!!?」
「え、うん。しないよ。え、何言ってんの」
「何言ってんのはこっちのセリフだろ!?なんで!?なんでしねーの!?」
「えええ…だってする理由がないし」
「でも親父たちとかふつーにその気じゃん!兄貴もこの前ゆびわ買わなきゃとかなんとか言ってたぜ!」
「…マジ?」
「マジ」

…なんでこんなデカいすれ違いが生じてるのかわからないけどこれは何とかしなきゃならない。

「いいからしちゃえよけっこん。いいじゃん、みんなもうすっかりノリ気なんだし」
「いやいやいや。キル君、結婚っていうのは第二の人生のスタート地点と言われるぐらい大切なものでね…」
「イル兄じゃふまんってこと?まぁきもちはわかるけど」
「そういう問題じゃなくて」
「え、俺じゃ不満なの?」
「や、だからそうは言ってな――――」
「イル兄!」
「…お兄さん…気配消して部屋入んないでください…!」

…まぁ薄々気づいてはいた。
姉貴って、イル兄のこと苦手だよな。絶対。

まずい。やっぱこのままじゃまずい。

「なぁイル兄」
「うん?」
「さっさとゆびわ買ってきたら?」
「…どういうこと?」
「姉貴がどっかにげたりする前に、きせーじじつ作っちゃえよって話」
「…え?」
「…なるほど」

姉貴に睨まれた。というか『信じられない…!』っていう顔。姉貴がもう少し気性の荒い人間だったら『何言ってんだこのクソガキ…!』ぐらいになってたかもしれない。
ごめんな、まぁ姉貴なら許してくれるよな。

「でも既成事実って言っても指輪だけじゃ説得力足りないよね」
「そんなもん?」

イル兄の言葉に姉貴は何度も大きく頷いていた。
うーん、確かに。指輪とか、姉貴が受け取らなかったらそれまでだもんなぁ…やっぱだめかー

「じゃあキル、ちょっと出ていってくれる?」
「え?」
「今から作るから。既成事実」

つくる?

「……うん………わかった…?」

パタン。扉の外に出る。
カチッ。中から鍵が閉まった。

「………つくる…?」

そんな、まさかな。さすがにな。
ここからは大人の時間とか、そういうんじゃねぇよな。

「―――――」
「―――――」
「―――――!!」

な、何話してんだろ…

「―――――――!!!!!!!!!!!!!」

…………い、今姉貴の悲鳴が聞こえ―――てない。聞こえてない。オレは何も聞いてない。
いや、あの、姉貴ごめん。マジごめん。
オレはただ、姉貴が絶対この家からいなくならないようにしたいだけだったんだって。
悪気はないんだよ、不安だっただけで。

…姉貴…
オレ、甥っ子よりは姪っ子が欲しいな。


「(キル君のばかああああ)」




***




懐かれてると思ってたけど、実はキル君ってば僕が嫌いなんだろうか。

「お兄さん、なんでキル君追い出すんですかなんで部屋の鍵閉めるんですか、ちょ、とりあえず近づかないでください」
「近づかないと何もできないからそれは無理」
「だから何もしなくていいんですって…!」

後ずさりしたらベッドに膝カックンされた。そしてベッドに座り込んだ勢いのままお兄さんに肩を押されて後ろに倒れる。
ボフッと羽毛の布団に沈み込んだと同時にスプリングの軋む音がして、僕はお兄さんが本気であることに嫌でも気付いた。
だってこれってあれでしょ、そういう状況でしょ?
…正気かお兄さん。

「落ちついてくださいお兄さん。いくら可愛い弟の頼みとはいえやっていいことと悪いことがあるでしょう」
「俺は別に落ちついてるけど?何?俺が取り乱してるようにでも見えるわけ?」
「…いや見えませんが」
「でしょ?」
「…お兄さん、僕が何か勘違いをしているかもしれないので聞きますけど、今から一体何をする気ですか?」
「え?子供作るんでしょ?」
「NOおおおおおおおお!!!」

何とんでもねー既成事実を作ろうとしてるんだこの能面があああああああ!!!
そんでなんで肯定疑問文形!?
もう嫌だこの人なんなの、誘拐されてからもう結構経つけど未だこの人だけはどーしても慣れないよ!
道化の僕がペースを崩されまくるううううう。

「弟くんが扉の前にいますよ!」
「大丈夫、もう行ったみたい」
「な、なんだと…」

びっくりだ、キル君本当に僕を見捨てたな。
しかもいつの間にかリボンタイが抜き取られてベッドの隅に放られていた。能面のくせに手が早い。びっくりだ。

「ていうか僕のかわいい家族がそこでまだお食事中なんですけど!」
「そうだね、なんだかニヤニヤしながら見てるよね」
「ちょっと君たち!?そういや何傍観決め込んでんの!?僕を助けようよ!」

君らさてはこの家のピクルスとチーズが気に入ったからって僕を売るつもりだな…!?
なんという下克上!ごめんよ、これからは安物じゃなくて高級なの買ってあげるから!チルにいたっては生まれたてのひよっこのくせに何ちょっと照れ照れしてんのマセガキか。

「俺は別に動物に見られてるぐらい気にしないよ」
「気にしてください!ってか、お兄さんは何で僕なんかと結婚したいんですか!ぜったいぜったい後悔しますよ!僕のせいであなたの戸籍に一個バツがついたことに限りなく後悔しますよ!」
「なんで結婚生活が続かないこと前提?大丈夫だよ、俺家族は大切にするから」
「他人も大事にしてください、現在他人な僕を大事にしてください」
「まあ別に、結婚しなくてもお前がこの家にいるって言うならそれでいいんだけど」
「は?」
「ナッツも気づいてると思うけど、キルって変なんだよね」
「…はあ」

まぁそこらの一般人の子供と比べればそりゃ変わってるところはあるとは思いますが。
それはこの家の環境のせいでしょ。
…で、それと今のこの状況に何の関係が。

「友達がほしいとか外の世界に出たいとか言ってさ。そんなの必要ないのに。けどお前がこの家にいてくれたら、変なこと言うのやめてここで大人しくしといてくれると思うんだ。お前、むかつくぐらいあいつに懐かれてるし」
「ああなるほど、だから僕と結婚がしたいんですか………って、いやいやいや。お兄さん、おかしい。なんかいろいろおかしい。友達作ればいいじゃない、外出ればいいじゃない、一体それの何がダメ―――」

ダメなんですか、と言い切る前に僕のシャツのボタンが全部弾け飛んだ。
やりよったよこの人、これ今の僕の一張羅だってわかってんのかしら。僕大した抵抗もしてないのにシャツそんな無理やりに脱がす必要がどこにあったの、ボタンそんなにめんどくさかった?こんなんを無表情かつ淡々としてくるからマジ怖いんだよこの人。

「胸ないね」
「不満ならどいてください」
「別にどうでもいいよ」
「いやそろそろ本気で抵抗しますよ」
「本気って?君の念ってあのペットたち出すのだけでしょ?」
「おい、やめろしゃべりながらベルト外すな。…そうですよ、僕の念はこの子達だけ。でもそれで十分」
「!」

ゴウッ と僕の眼前が一瞬真っ赤な炎に染まった。
それまで僕に跨っていたお兄さんはさすが、軽く炎を避けていらっしゃる。一気に僕達から離れて部屋の隅に立つその人には、服の端にもこげ跡一つない。
僕は前髪がコゲた。
助けが遅い上火加減まで間違えるなんて。ライトってば案外困ったちゃん。

「ふうん、こんなことできるんだ」
「さ、この部屋今から火の海にされたくなかったらどうぞお引取りを」
「…部屋なんかどうでもいいけど、まあ今日は諦めようかな。またね」

そうしてお兄さんは相変わらずの無表情で何事もなかったように立ち去った。
長い嵐だった。

「…ふう」

タイは取られシャツは引き千切られベルトは外され、なんということだこれは犯罪だ。いくら暗殺者といえモラルがなさすぎる。クロロ君はもう少し紳士だった。たぶん。

「でも主、クロロより絶対あいつの方が甲斐性あるよ」
「…それはそうだろうけど」

この子は本当にクロロ君が嫌いだな。定職者(?)とスラム育ちの盗賊とで甲斐性を比べてやるなよ。拠点が廃墟っていう盗賊団と違って、金持ちの家ならそりゃ豪華な部屋で豪華なピクルスフルコースも食べ放題だろうさ。

「でも僕は…クロロ君と一緒にいる方がいい」

まあこういうわけで、この日から僕とお兄さんとの不毛な攻防は始まった。

クロロ君、やさしい君が恋しいです。


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