CLOWN×CLOWN


孵化×名付け×生命を抱いた暗殺者


「キル君、そんな血まみれでどーしたの!」
「ああ姉貴。ちょっとさっき兄貴のしごとについっていったんだけど、ミスッて思いっきりかえり血かぶっちゃった。まだやっぱうまくいかねーや。もっとれんしゅうしねーと」
「うまくって…?」
「親父とか兄貴はあいての血出さずにしんぞーぬき取ったりできるんだ。オレにはまだムリ」
「…ふうん」
「なあ姉貴は?」
「ん?」
「姉貴は、できる?」






僕が誘拐されてから早三日。
僕のあずかり知らぬところで婚約がどーたらと話は進んでいるようだがもうそんなことは知らない。
とりあえず二人のちびっ子がかわいい。とにかくかわいい。

「なーなー姉貴!ライトってすげーな!さっき庭のほう見たらあいつとあのミケが、なんか仲よさそうにあそんでた!オレあんなのはじめて見た!」
「へーライトにお友達ができたのか、そりゃよかった。たまごの方は一向に孵らないし、あの子もさびしかっただろうからね」
「たまご?」
「うん。見る?」

僕の唯一の荷物であるトランクを広げ、僕はあたかもそのトランクの中から取り出したかのように見せながら卵を具現化した。

「うわっ何ソレ!オレそんなでかいタマゴはじめて見た……って、マジでこれそのトランクに入ってたの?すげーな、どうやって入れてたわけ」
「コツがあるんだよいろいろと」

まだ十歳にも満たない子供にもさすがに、この卵の直径がこのトランクの幅に収まる大きさじゃないということはわかるらしい。
ちょっとキル君舐めてたな、まぁ僕の適当な言葉に「ふーん」と簡単に納得するあたりやっぱまだ所詮子供だけど。
カルト君いたってはひたすら無言で卵の方に興味津津だ。

そうこの卵は、ジンさんとの山籠り中にうっかり創ってしまったあの子である。
あれから結構経ったと思うんだけど、まだ孵らない。なんか最近はよく動くようになってきたし、もうそろそろかなとは思うんだけど。未だ殻を破るのに手間取っているらしい。これはかなりどんくさい子だと見た。

「何、これがライトのキョーダイってこと?」
「あーそうなるのかな。妹か弟か?」
「へー」
「…いつうまれるの?」
「うーん、もういつ生まれてもいいと思うんだけど。それがなかなか…」
「出れねーの?どんくせーな」
「あはは…」

おい、どんくさいという感想二人目だぞ、そろそろ本当にがんばれ名も姿もわからぬ我が子よ。

「…てつだってあげなきゃ」
「「え?」」

―――ガンッ!

…僕はこの時初めて子供って恐ろしいものなんだと知った。無知とはなんて暴力的。

善意からのカルト君の拳によって、見事に卵は粉砕されていた。
僕は目を点にして固まる。中の子が無事なことを祈るばかりである。

「チ…チル…」
「あ…よかった生きてる」
「お前よくぶじだったな…」

お星さまを頭上に飛ばしながらふらふらしてるこの子が果たして無事と言えるのかどうかはさておき。
僕は卵の殻まみれになっているその子を抱き上げて、心から安堵の息を吐いた。

「カルト、お前だめだってあーゆーのはあいつの生まれてくるためのしれんだったんだから。手伝ったりするもんじゃないんだ」
「そうなの?…ごめんなさい」
「お前のせいであいつはきっと一生どんくせーままだ」
「え…」
「ま、まぁまぁ。カルト君は何もわからなかったんだし、過ぎたことは仕方ない」

でも本当に一生どんくさかったらかわいそうだな。

「チル…チル…」
「あーよしよし」

生まれたのは青い体に白い翼の鳥だった。感触的にはかなり気持ちいい。羽がふわふわ。
でもなんか変な鳴き声してるな。

「てか姉貴、これぜったいライトの兄弟じゃねーじゃん。あいつ犬なのに、こいつ鳥だし」
「あはは、まぁ種類は違うよねー」

そもそも哺乳類は卵から生まれない、という知識はまだこの子にはないらしい。

「…さわっていい?」
「ん?いーよ、どうぞ」

恐る恐るカルト君は僕の腕の中のその子に手を伸ばした。
そしてそっと羽を撫でて、驚いたような、それでいて嬉しいような、なんとも見ていて微笑ましくなるような表情をした。
それからキル君の方も「オレも!」と手を伸ばしてきて、カルト君と同じような顔になった。

「すげー…こいつ、今生まれたんだよな」
「そうだよ」
「今までずっとがんばって、生まれてこようとして…けっきょくさいごはカルトが手伝っちまったけど、でも、それまでずっとあのタマゴの中で一人でがんばってきたんだよな…」
「うん」
「…あったかい」

…この子、なかなか孵らなくて心配したけど。今この時に生まれてきてくれて、本当によかったと思う。
だって子供が生命の誕生の瞬間を見ることなんて、まずないだろうし。暗殺なんてもんを職業にするこの子達にとっては、これはすごくいい体験になったに違いない。
それに…この子たちが、こういうことに感動できる子なんだと知れてよかった。もっとこの子たちを好きになった。

「な、なぁ、もうこいつの名前とかかんがえてんの?」
「んーん、全然。どうしようかな」

もう孵化の瞬間の衝撃も忘れ、チルチルチルチルと鳴きながら羽を動かそうとするその子。
もう飛べるのかな。そう思って、抱きしめていた腕を少し開放的にしてやると、その子は羽ばたこうとして―――ぼたりと床に落ちた。
…どんくさい。

「ならオレが名前つけていい!?」
「え?あー…うん、いいよ」

落ちたその子はカルト君が拾ってくれた。
僕の承諾を得たキル君の目はキラキラ。にーさま、どうする?と視線を向けるカルト君の目もキラキラ。
これが人殺し経験者の瞳だと思うと末恐ろしいな。ていうかこんな子たちが暗殺に来たりしたら僕はあっさり殺られちゃうと思う。勝てないわ、これは勝てない。無理だ。

「じゃあ、じゃあ…さっきからずっとチルチルないてるから、チルって名前、どう?」

ものっそい安直な付け方だなと思った。
あ、別に悪いことはないけどね。変に凝った名前じゃなくてよかった。

「うん、かわいい。いいね、それにしよう」

笑って頷くと、キル君はそれはそれは嬉しそうにはにかんだ。


僕の新たな家族は、二人の小さな暗殺者の手によって生まれた。

さあ共に、君の誕生に祝福を。

そしてどうか…
このちびっこたちが、大きくなってもこの今の気持ちを忘れませんように。

奪われる命があればもちろん生まれる命があるということを。
それは多かれ少なかれ誰かに祝福され、歓迎された命であるということを。

忘れませんように。





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イメージはチルット。
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