CLOWN×CLOWN


食後×名前×君という家族


「へーナッツが昨日のあのピエロなのか、化粧してねぇとわかんねぇな。」
「フィンくん、ピエロじゃなくてクラウンね。」
「くらうんって?」
「おおっと、ピエロはわかってクラウンはわからないのかい子供たちよ。まぁ本来の意味は大分違うんだけど、今じゃほぼ同義語かな」
「じゃあピエロでもいいてことね。」
「いや、まぁそりゃ、間違っちゃいないんだけどね…?」

飯を久しぶりにたらふく食べて、俺たちはナッツを囲んで談笑していた。飯を恵まれたからかめずらしく誰も警戒心は抱いていない。

「にしても、ナッツってなんか変な名前だな。」
「失礼だなノブナガくん。僕はこの名前気に入ってるんだよ。」
「趣味悪いね。」
「さらに失礼だな!まったく…この名前は、うちの団長が僕につけてくれた名前なの。僕の宝物。」
「…あの小太りのオヤジがお前の親なのか…?」

似てないなと思った。
ナッツの明るいブラウンの髪も、輝くエメラルドの瞳も、あの男とは異なる。

「うーん…育て親、になるのかな?僕、このサーカスに拾われた子供だから。」
「!ナッツ姉も、すて子だったの?」

いつのまにそいつを姉なんて呼ぶようになったシャル。
というかそいつは女であってるのか。どっちにも見えるぞ。

「うん。このサーカスはね、そういうの結構多いんだ。いろんなとこからの寄せ集めが集合しちゃった感じ」

…そんな風には見えなかった。ショーで見た連中は、どいつもこいつも生き生きと輝いてた。胸を張って生きていた。それが…

「寄せ集め…?」
「うん。血縁者は誰もいない。でもみんながみんな、大事な家族なんだ。」
「団員みんな、家族…?」
「うん」
「へぇー」

パクは不思議そうに。マチは興味深そうに。
…誰もかれも、家族というものに興味がないわけではない。常ならくだらないと一瞥して終わらすが、このピエロの前では反応が顕著だった。ほとんどの者が明らかに動揺を見せる。

別に、それが欲しいと思っているわけではないだろう。
ただ、俺たちはそれを知らないから。くだらないと言うにも、足蹴にするにも、知らなさ過ぎて…

「団長はみんなにとってのお父さんかな。家族みんなでいろんなとこへ一緒に旅して、いろんなものを見て、いろんな気持ちを共有して…」

まぁたまに喧嘩とかしたり、拾い食いして一家そろって死にかけたり、いろいろ大変は大変だよ。でも楽しいよね、そういうのも。
そう言って笑うとナッツは傍にいたシャルの頭を撫でた。

「…だんちょーってひびき、かっこいいね」
「ありがとうマチちゃん。僕もそう思う。」
「かぞくってひびきも、いいね。」
「うん。」
「…なんか、いいな。」

そう言葉を発したのは。意外にもウボォーだった。
みんなが彼を振り返る。けれどそれを茶化す者はいなかった。

「?団長≠ェ?ああ、家族≠ェ?」
「いや、響きがじゃなくてさ…」
「?何言ってんの、君にもいるでしょ、家族。」
「………」

…冷たい沈黙だった。まさにブリザードってやつが吹き荒れそうな。
どう収拾付ける気だ、俺は知らないぞ、俺は助けない。

「君たちみんな、家族でしょう?」
「!俺たちが…?」

…収拾どころか、俺たちの中で別の何かが広がった。

「…"家族"の定義は?」
「そんなもの、一緒のご飯を一緒に食べれば、それで家族さ。」
「じゃあきょういっしょにごはん食べたナッツ姉も、おれたちのかぞくだね!」
「!…ああそっか、そうなっちゃうね。…定義かえよっか?」
「定義をそうぽんぽん変えるな。」
「ナッツは不満なの?私たちの家族だと。」
「まさか。超うれしい。」

ナッツは屈託ない笑顔ではにかんだ。
馬鹿馬鹿しい、微かな羞恥を含んだ生ぬるく実のない会話だ。昨日今日出会ったピエロと家族ごっこなんかして何になる。

けれど本当に不思議なことに、なぜだか悪い気はしなかった。




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