CLOWN×CLOWN


ご飯×自己紹介×裏切られない予想


「お、いらっしゃいクロロくん。今から僕ご飯なんだけど、クロロくんは?一緒にどう?」

パンとベーコンを乗せた皿を持ったそいつは、フォークを持つ方の手でこちらに手招きをしてきた。
白のカッターシャツに薄汚れた短パンにブーツと、昨日とは打って変わって地味な格好をしたそれがナッツであるという自信がなかったため、向こうから声を掛けてもらえて助かった。

「一応食べてきたけど…」
「そう。でも男の子なら二食ぐらい食べれるっしょ。」

昨日の見た大きなテント以外に小さなテントがいくつか張られたそこは、朝からなんだか騒がしい。流星街の住民たちがかなり集まってきているようだった。

どうやら飯にありつくためらしい。
こんなに美味い飯は久しぶりに食った、と涙を流しながらパンにかぶりついている人間がいる。

このサーカスの連中は夢とやらだけでなく、食料も配っているのか。
やはり金があるんだろうか。
そう考えてみたものの、考えても無駄だと思ってやめた。
どうにも、奪おうとかそんな気にはなれない。

「はい、これどうぞ。僕はもっかい向こうで貰ってくるから。えーと、何人いる?」
「え?」
「向こうにいるの、お友達でしょ?呼んであげなよ。」

俺は驚いて振り返った。
パクは驚いたように。マチは羨ましそうに。シャルは不思議そうに。物陰に隠れてこちらを窺うあいつらの様子は、様々だった。

…ついてくるなって言って出てきたのが逆効果だった。気配消してまでついてきやがって。

「お前ら…」
「だ、だってクロロなんか楽しそうだったし…」
「気になるじゃない!」

パクとマチがそう開き直りながら物陰から飛び出してくる。それにつられるようにシャルも。

「そしたらじぶんだけごはんもらったりして、ズルい!」
「これは…」
「はいはい喧嘩しない。君たちの分も用意するから、そっちの椅子のとこで待ってて―――って、ああ、先客がいっぱいだな。仕方ない、あっち側まで行くか。おいで。」

くるりと俺たちに背を向けて、勝手にナッツは歩きだす。俺たちは黙ってそれについていこうとした。(誰かの命令を聞いたりなんかしないはずのシャルやマチまで)

でもそいつは数歩進んですぐ、ピタリと歩みを止めた。そしてまたくるりと180度回って、もう一度俺たちを見降ろす。

…一体何なんだ。

「…よし」

…何が『よし』だ。

と、急に手を繋がれたマチとシャルを見ながら思った。言えはしなかったけど。
驚いた様子をしながら、でもどこか嬉しそうなそいつらを見ると。水を差すようだと思ったから。

「ねぇ、あの人は何なの?」

俺の隣を歩くパクが、そうこっそり耳打ちしてくる。彼女はまだ幼いシャルたちと違って警戒を怠っていない。でも俺は面倒くさがって、まともに返事をしなかった。

「ナッツ」
「…誰?」
「ピエロ」
「クラウンだってば、クロロくん。」

…耳ざとい。

「じゃあはい、まず君から。お名前は?ああ、僕はナッツ。よろしくね。」
「あ、あたしはマチ」
「よろしく。じゃあ君は?」
「おれ?おれはシャルナーク!みんなからはシャルってよばれてる!」
「そっか、よろしくシャルくん。そちらのお譲さんは?」
「…パクノダよ」
「よろしくねパクちゃん。うん、みんないい子。」
「…俺は?」
「うん?もちろんクロロくんもいい子だよ。」
「………」

きっと、パクより少しだけ年上なぐらいなのに。やたらと年上っぽく振る舞うその様子が気に食わなかった。…いや違う。昨日もこいつはこんな態度だったけど、こんなにイラついたりはしなかった。

俺はたぶん、嫉妬してるんだ。ナッツに手を繋がれた二人に。それでイライラしてる。それでらしくない質問なんかした。
でも、一体なんで。

「よし、ちょっと行ってくるからここで待ってて。もう向こうもみくちゃだから、チビっ子が行くと踏み倒される。」

嫉妬なんてする必要がどこにある。

「…あんたはだいじょーぶなの?よわそうだし、すぐぶっとばされそう」
「ははは、大丈夫。慣れてるから。」

まぁ待ってて、と人ごみの中に紛れていくそいつをシャルとマチは心配そうに見送っていた。対して、俺は特に心配も何もせず、さっきもらったふわふわのパンを一人頬張りながら適当にそこらを見渡す。

心配なんて無用だ。あいつはデキる。何の保証も証拠もないのに俺の中には漠然と、でも確固たるそんな思いがあった。

…またはそれすらも、俺のあいつに対する希望だったのかもしれない。
あいつは俺の思いを裏切らないと。きっと人数分以上の飯を抱えて、あの人垣の中から平然と出てくるのだと。

「あ、やっぱお前らも来てたのか」

そんな声が掛って、振り返るとウボォーとノブナガがいた。よぉ、と片手を上げてこちらへ近づき、飯食えるんだってなと笑う。この分だと今にもいつものメンバーが全員集合してしまうんじゃないだろうか。
そんな予想通りに、今度はフランが現れる。…きっと残り二人も、俺の予想は裏切らないだろう。

「おまたせーって、あれ?お友達増えてる?まずいな、かなり多めには取ってきてるけど、足りるかな。」

そして当然、俺の期待も裏切られなかった。



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