CLOWN×CLOWN


外出×衝突×ロンリークラウンのご挨拶


「黙って出てきちゃった…」

天候は良好。洗濯物日和。
そんな今日、僕はみんなの洗濯物を外に干してから、ライトに跨ってふらっと家を離れてみた。
ちょっとした散歩のつもりだったんだけど、いつの間にか知らない土地。知らない街。

初めての、無断外出。

ちょ、ちょっとドキドキするとか、そんなことないよ別に。
帰ってから怒られるかなとかそんな子供みたいなこと、か、考えてないんだからね。
ただ僕は、ちょっと一人でゆっくりする時間がほしかっただけだし。
いろいろ考えることが増えてきたというかなんというかさ…

「だってクロロ君どうしよう…」
「主、ボクが守るから大丈夫だよ」
「その割に昨日ライトが出てきたのって僕がベッドに引き倒されて結構経ってからだったけどね」
「…ごめんなさい」
「うそうそ、いいんだよ別に、ありがとう」

街の中心部が近づいてきたようで人も増えてきたため、それからライトには僕の中に戻ってもらった。
この子はやっぱり体が大きいから目立つ。
害なんて欠片もないいい子だけど、普通に見れば怖いだろう。

「…ハァ」

昔のフィン君にしろ今のクロロ君にしろ、趣味悪いとしか言いようがないよね。
とりあえず何が困るって、僕は彼らをそんな目で見たことがないということだ。
見た目は変わってたって、僕にとってあの子は一生懸命面倒見た子供なわけで。急にそんなこと言われても、正直ついていけない。
クロロ君はそりゃ好きさ。でもやっぱりみんな好きだもん。どれだけ特別≠セったら、気が済むって?

僕は立ち止まって頭を抱えた。
ジンさんに相談してみようかな…あ、駄目だ今忙しいんだっけあの人。


―――ドンッ

カクンッ

「おお!?」

こんな往来で突然膝カックンを食らった。懐かしい感覚だ。
膝をつくまでには至らなかったけど、わずかに体勢を崩す。

「いってー…」
「あ、えーっと、ごめんね。僕がこんなとこで止まってたせいかな」

後ろを振り返ると、すぐ傍では5・6歳ぐらいかと思われる子供が尻もちをついてそこに座りこんでいた。
どうやら僕にぶつかった反動でダメージを食らってしまったらしい。泣いてはいないがキッと大きな目で僕を睨みつけてくる。立ち止まっていた僕も悪いけどぶつかってきた君にだって非はあるはずなのにな…

「そんな不機嫌そうな顔しないでよ、これお詫び」

しゃがんでその子供の脇に手を入れて立ちあがらせてから、ポンッと僕は手の中にペロペロキャンディーを出現させた。
子供は少しきょとんとした様子だったが、その程度。
つまらないなと思って、調子にのってそれから次々へとお菓子を手の上に溢れさせた。
するとやっと子供の目が輝いた。

「よかった、お菓子好き?」
「好き!くれんの?ありがとう!」

第一印象に反して、割と素直な子だった。現金だとも言える。
調子にのって出し過ぎたお菓子を、僕は適当な袋に入れて子供に持たせた。
でも知らない人から物をもらっちゃいけないってことをこの子は知らないんだろうか。いや、まぁ僕が言えたことじゃないけど。

「あんたこの町のにんげん?」
「ううん、違うよ。まぁ近所だけどね。君は?」
「オレは仕事でたまたまこのちかくに来ただけ」
「仕事?その年でもう働いてんだね」
「まあね」

僕も丁度これぐらいからだったかなぁ、サーカスで雑用係し始めたのって。
さっそくチョコレートを頬張る子供を見て、なんだか懐かしい気分になった。

「そういえば君、大丈夫なのかい?」
「え?」
「ぶつかってきたぐらいだし、何か急いでたんじゃ?」
「ああ!そうだよオレ、兄貴からにげてて…!」
「やっと思い出したのキル、ばかだね」

ビクゥッと、キルと呼ばれたその子の肩が大きく震えた。
そしてギギギとでも音のしそうな具合で振り返って「イル兄…」と。

その人なら君のすぐ後ろにずっといたけどなぁ…と思いながら黙っておいた。
まさかその彼から逃げているんだとは思わなかったし。

「俺から逃げられると思ってるの?」
「だって…」
「面倒掛けるなよ」

ポカッと、キルくんの頭にお兄さんの拳骨が降った。

「いってー!」
「そんなに痛くしてないよ」

僕は目の前で繰り広げられる光景に小さく笑った。
キル君が何をしでかしたのかは知らないが、お兄さんの方は甘やかさない教育方針らしい。
お兄さんはたぶん僕と同じぐらいの年だろうから、キル君とは結構年が離れてるんだと思う。
やっぱりその分弟は可愛いけど、賢い子に育ってもらいたいんだろうな。

「ああ、君、ありがとね」
「?」
「お菓子。こいつ甘いの好きだからさ」
「ああ、いえいえ。お気になさらず。僕の仕事は人に喜んでもらうことですから」
「君ってマジシャン?」
「いいえ。クラウンです」

ぱっと両手で顔を隠す。
次にその手をとった時には、ばっちりクラウンメイクが施されるように。

ちょうど人通りも多い。
腕が鈍っていないか調べるためにも…久しぶりに働いてみようか。

「クラウンって?」

大きなぺろぺろキャンディーで口がパンパンになりながらもそう尋ねてくるキルくん。
僕はクラウンメイクの状態でにっこりと笑い、小さな旗が連なったヒモを手先からぴらぴらぴらーと取り出した。

『道化師のことだよ』

旗一枚に一文字。
仕事中のクラウンは、すべてパントマイムがポリシー。


―――プホォォォォォオンッ


間抜けなラッパの音。
一番近くでそれを聞いたキルくんとお兄さんは耳をふさぐ。
通りを歩いていた人々は歩みを止めて僕を振り返った。





Ladies and gentlemen


ロンリークラウンのショ―の始まりだよ。



top

- ナノ -