CLOWN×CLOWN


プリン×恋敵×気に入らない通話


「クロロ君、君はプリンを買うために来たのかい?」
「お前の荷物持ちのためだって言ってるだろ」
「ならそのカゴいっぱいのプリン、少しは減らしたら?『極上プリン』『クリームたっぷりプリン』『なめらかチョコプリン』『懐かしの焼きプリン』…言っとくけどこれ全部、名前は違ったところでプリンに変わりはなんだよ?そんなにいる?」
「ああ、いる」
「…そう」

だからこの子は連れてきたくなかったんだ。
僕は10sのお米五袋を抱え上げながらひっそりと溜息をついた。
クロロ君と買い物に来るといつもこうだ。プリンだのシュークリームだの賞味期限内に食べきれないくせに買い漁って。元来貧乏性な僕には考えられない。必要最低限の物をどれだけ安く買えるかと楽しむのが買い物だと思うんだ。…まぁ、お金に余裕があるのはいいことだけど。
けどやっぱり荷物持ちに彼は使えないから次からは連れてこない。いや前の時にもこれ思った気がするんだけど。次こそ絶対。素直にたくさんの荷物を抱えてくれるウボォー君たちを連れてくるんだ。今日は用事があるらしいから仕方ないんだけどさ…せめてフィンクス君にも来てもらいたかったなぁ。

「ナッツ姉、それ大丈夫?オレ持とうか?」
「ううん、いいよシャル君。全然平気。シャル君にはまだ持ってもらいたいものあるから!がんばって!」
「はは、うんわかった」

シャル君は可愛い顔して意外と力持ちだから、頼もしい。今も水の箱と卵の箱と野菜を適当に詰め合わせた箱を抱えてくれている。…前見えてるのかな。

「あとはお肉とパンとー…あ、忘れちゃいけないピクルスか」
「まだそんなに買うのか?」
「クロロ君が明日の朝にパンもベーコンもいらないなら別にいいけど」
「いる」
「でしょ?」

宅配便が利用できないから、食糧の調達はいつも大変。だってまさか盗賊団のアジトの住所を堂々と記入できるわけがない。みんなは『食糧がない=外で食べればいい』と思っちゃってるから、僕がしっかり食糧の管理はしなくちゃいけないんだ。やっぱり外でみんなバラバラに食べるより、ご飯は家で一緒に食べたい。そんな健気な想いを胸に僕は頑張る。たとえクロロ君が使い物にならなくても。

「…クロロ、ナッツ姉のこと手伝う気ある?ずっと自分のもんばっか買ってるし」
「馬鹿言え片手は空いてる」
「じゃあオレのこれ一箱持ってよ」
「嫌だ」
「………」
「あーいいよシャル君!怒らない怒らない。えっと、たまに僕もクロロ君のこのプリンもらったりしてるしさ、みんなも食べたりするでしょ?だから…」
「クロロはナッツ姉以外の奴に自分のプリンあげたりしないよ。オレ前に勝手に食べたらすっげーキレられた」
「………」

…薄々感じてはいたがこの二人、実は仲が悪いんだろうか。

「そうだ。俺がプリンを譲ってやるのはお前だけだ」
「…そうですか」

なんだこの子、せっかくの僕のフォローを…!
…あー…なんだろう、今のクロロ君って僕より年上なはずなのになんだかちっさい子供にしか思えない…

それからなんとか買い物を済ませ、店の外へ出た。段ボール箱が七箱(+プリンの山)だ。当然「郵送されますか」とレジの人に問われたが丁寧にお断りした。
ここまで乗せてもらってきた車には、これほどの荷物を乗せるスペースはない。
けれど問題もない。僕には頼りになる相棒がいるのだ。

「手伝ってくれる?ライト」
「ウオンッ」

人気のない裏道まで荷物を抱えて歩いて、それからライトに出てきてもらった。

「いつもごめんね」

彼は力持ちだ。だからこうして荷物運びを頼んでしまうことが多々ある。この子は何を要求されても嫌な顔一つしないからと、僕が調子に乗ってしまった結果だ。
持ちやすいようにと、紐でまとめて縛った箱3つ。それを彼は口にくわえて立ちあがる。そして僕は、ひょいとその背に飛び乗った。

「じゃああとそっちの箱、車に乗せてきてね」
「ああ」

僕が車に乗らない分、後部座席には荷物を置くスペースができる。これで無事、食糧運搬の手筈は整った。
まったくもって毎回毎回、大変な作業だ。これが週に一回はある。大変だ。

「でもさーせっかく一緒に買い物に来てるのに、帰り別々って寂しいよね」
「そうだね。でも仕方ないから……あ、ちょっとごめん」

僕の肩にかかる小さなポシェットから、小さな機械音。お電話だ。相手はもちろんジンさん。だって僕のこのケータイのアドレス帳には、ジンさんの名前しかない。

「え、ちょ、ナッツ姉ってケータイ持ってたの!?」
「うん、一応」
「…なんで言わなかったんだ」
「へ?言った方が良かった?ごめん」

別に、ほぼ毎日一緒にいるんだから番号交換なんて必要ないかなって思ってただけなんだけど。なんだかクロロ君が一気に不機嫌になっちゃった気がするから、一応謝っておいた。と、同時に通話ボタンも押した。

「もしもし?どーしたの」

ケータイ初心者の僕でも人前で電話なんてするもんじゃないというモラルは持ち合わせているため、ライトの背をぽんぽんと叩き、そっと移動してもらう。このまま電話しながら帰ろうと思って、「先行くね」のアイコンタクトを二人に送る。
しかし何故か彼らは僕の隣についてきた。
あれ、駐車場別方向だけど。しかもなんだかすっごく僕睨まれてるんだけど。

『ああ、あのな、俺明日から遺跡調査に出かけんだわ。電波自体は通じるが…まぁ忙しくなるだろうから、しばらくは電話してやれねぇし、でられねぇ』
「はは、わざわざそれ言うために電話くれたの?ありがとう。うん、わかった」

とりあえず二人は無視しよう。

『何かあったってお前にはライトがいるから、多少のことはなんとかなるだろ?』
「大丈夫大丈夫、何かが起こること自体ないから。心配し過ぎだよ」
『つってもよーお前の傍にいんの、盗賊なんだろ?普通心配するだろ』
「だから心配いらないって。僕はいたって平和に暮らしてるんだから」
『そうかー?』
「うん。だから余計なこと考えないでお仕事がんばって。それ終わったらまた電話ちょうだい。待ってるから」
『ああ、わかった。じゃあまたな』
「うん、また」

ピッ。
通話を切ってから、やっと僕は終始こちらを睨んでいた二人を振り返った。

「なーにを怒っているの?」
「今の電話の相手は誰だ」
「…僕の大切な人」

詳しくは言わないことにしておこう。
ジンさんはハンターの中でもかなり有名な人らしいし…この子たちの立場上、あまり関わりを持たせるべき人間じゃないだろう。

「お前…この世界に、俺たち以外の知り合いがいたのか」
「うん。でも、彼だけだよ」

なんせ僕のケータイはジンさん専用。

「ねぇ…それが誰か、教えてくれないの?名前だけでもさ」
「うん、だめ。ごめんね」
「なんでダメなの?」
「必要ないでしょ、別に」
「教えてほしいな」
「あはは、だーめ」
「…教えたく、ない?」
「うーん…まぁ、そういうことかな」
「…そう…」

あ、傷つけちゃったかも。
でも僕にだって、少しの秘密を持つぐらいの権利はあるはずだし。
ていうか僕が誰と電話しようと自由じゃないか。それなのに、僕の全てを把握しておきたいだなんて…シャル君ってやっぱりまだ子供なんだなぁ。やきもちかーかわいいなぁ。

「帰ったら、番号交換しよっかシャル君」
「うん」
「クロロ君も…」
「ケータイよこせ」
「…は?」
「俺の番号を入れる。そしてさっきの奴の番号を消す」
「ええ?!ちょ、それは遠慮させていただきたい…!」
「何故だ」
「な、なぜって…困るから」
「何故困る?そんなにそいつが大切か」
「う、うん」
「…特別なのか」
「?うん」

クロロ君の雰囲気が険悪になるにつれて、ライトがそわそわし始める。
空気がぴりぴりしてきた。やだな、この感じ。

「ナッツ…」

クロロ君の手が僕に伸びる。

「あ、ぼ、僕もう行くね!じゃあまた後で!」

言うだけ言ってライトに走りだしてもらった。
つーっと背中を冷たい汗が伝う。
クロロ君何で怒ってるんだろう。なんでケータイに手を伸ばしてきたんだろう。
―――壊されるかと思った…

「そんなわけないよね…」

一瞬でも、そんな恐ろしい考えを持ってしまった自分が嫌だ。


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