CLOWN×CLOWN


買い物×カーテン×色に染まる


あいつって頭悪いわけじゃないし勘とかは鋭い方なのに、変なとこ鈍いんだよな。
俺はナッツの作った朝食とコーヒーを口にしながら小さく息を吐いた。

「ねークロロ君、今日はちょっと買い物に行ってきてもいい?」
「買い物?何を買うんだ」
「え、いやいつも通り普通に買い物。もう食糧庫空っぽだよ。九人で生活してるとそりゃもうサイクルが早い早い」

さすがのナッツもキスまでされれば俺のことも少しは意識しだすかと思ったのに。
あれからもう五日。まったくもっていつも通りってどいういうことだ。しかもそれを装ってるわけでもなく、素だこれは。
一体なんなんだ、こいつは。あんだけ直球だったのに伝わらないって、俺はどうしたらいいんだ。

「わかった。金なら好きなだけ持って行け」
「ありがとう。じゃあウボォー君とフラン君、荷物持ち付き合ってくれない?」
「ああ、いいぜ」
「構わない」
「…ちょっと待て」
「え?」

ここから外へ出るのには俺に許可を取ること、というナッツ用のルールをこいつは必ず守っている。
だから俺に買い物についての話を持ち出すのはわかる。だがどうしてその流れで俺を誘わない?

「なんでその二人なんだ」
「え、だって力持ちさんなんだもん。まぁただの買い物だし別にフィン君でもシャル君でもいいけど…」
「…俺じゃ力不足だとでも言う気か」
「は?」

意識的に避けられているのかとも勘繰ったがそうでもないようだ。単に俺には向いてないと判断されている。

「ナッツ、団長は自分を買い物に誘ってほしいんですって」
「あ、なんだそういうこと。買い物がしたいなら普通にそう言えばいいのに」
「俺は別に買い物がしたいとかいうわけじゃ…」
「じゃーナッツ姉、オレもいくー。フランクリンとウボォーはちょっと用事入っちゃったらしいからその代わりでいいよね」
「は?別に用事なんか「入ったんだよね?」

黒い笑みだ。
ナッツにはバレないようにしながら時々見せる真っ黒な顔だ。それに怯んだウボォー達二人は「そ、そうだな」と頷いた。「そっかー」と呑気に紅茶を飲むナッツはシャルの腹黒さにはまだ気付いていない。
買い物についてくるというそれ自体、こいつにとっては俺に対する妨害だというのに。ほらナッツ見ろ、俺に向けられる挑戦的な目。釣り上がった口元。「じゃあ俺も」と言いかけてたフィンクスは一瞬にして根負けさせられてる。今にも泣きそうじゃないか。

「マチちゃんパクちゃんは一緒にどう?」
「そうね…行きたいところだけど、今日は遠慮しとくわ」
「あたしも。でも…なんかいい布があったら買ってきてほしいな。師匠の部屋のカーテン作ろうと思ってるから」
「え、ほんと!?やったーありがとう、あー絶対選ぶの悩んじゃうなぁ」

…ナッツがあまりにも普通すぎて、つまならない。
カーテンぐらいで喜ぶなら、俺のプロポーズにこそ喜ぶべきだろう。




***




「ねぇねぇ、どの布がいいかな!」

買い物に来たナッツがまず一番に向かったのは手芸屋だった。カーテン用の布を先に買うらしい。

「僕今までテント暮らししかしてないし気にしたことなんかなかったけど、そうだね、部屋にはカーテンってものがいるんだね」
「必要なら別にそこらにある既製品を選べばいいじゃないか。いくらでも出してやる」
「えーやだよ、マチちゃんが作ってくれる方が嬉しい」
「な…」

瞬間、シャルが勝ち誇ったような笑みを向けてくる。
なんなんだ、お前は何もしてないだろ。むしろ俺が負けたのはマチだ。今どや顔をしていいのはマチだけだ。

「ナッツ姉はどんなのが好きなの?」
「んー…なんかよくわかんないんだよねぇ。今まで自分の持ち物にこだわったこととかもないし」
「あー確かにそうだね。ナッツ姉私物がそもそも少ないし。オレたちが渡したものとクラウンの道具以外」
「だよね。うーん…僕の好みってなんなのかな」

色とりどり、柄もいろいろな布の前に立ち並び、三人一様に頭を捻る。だが推測できる要素が何もないのだから、考えてわかるわけもない。
ならこれは別に好みがどうたらと考える必要はないんじゃないのか。使い始めて、それが気に入れば好み≠ノなる。
つまり…

「ナッツ、これはどうだ」

俺がこいつの好み≠作ることだってできる。

「えークロロ、カーテンに真っ黒はやめた方がいいでしょ、重苦しいよ。ほらナッツ姉、こっちの赤いのはどう?赤ってほら、人をコーフンさせる色だって言うし」
「だからなんだ。こいつの部屋に変なムードを取り入れようがお前には関係ないだろ」
「いつか関係してくるかもしれないし」
「ないな」
「あるよ」
「ない」
「…何の話?」

ある、ない、と応酬を続ける俺たちの間でナッツは苦笑いをする。
話についてこれないのはお前が鈍い証拠だ。

「ナッツ…黒は、俺の好きな色だ」
「うん、でも…シャル君の言うとおり、カーテンにそれは重いよね。もうちょっと明るい感じがいいな」
「ならナッツ姉、やっぱ赤でしょ!」
「それも…僕コーフンとかする必要ないし…」
「じゃ、じゃあこのピンクは!?ほら、今のオレの服と同じ色!」
「ああ、それ可愛いね」

小さな花の模様がついた淡いピンク地のそれを見て、ナッツはにっこりとほほ笑んだ。途端、再びシャルは俺に向かって勝ち誇った顔を向けてくる。当然ナッツには見えない角度で。
ぶっ殺してやろうかこいつ。

どうやら俺と同じことを考えているらしいシャルに溜息をつき、俺は辺りを見渡した。ローズピンク…それはたぶんナッツには似合わない。合わせるとするならそれはマゼンタのような、自己主張の強い色がいい。
こいつは道化だ。
普段は割と地味な格好をよくしているがやっぱりこいつに似合うのは、つい視線を向けてしまうビビットカラー。

もしくは、ふと目を引く宝石のような…
輝く色。

「…やっぱりこれかな」
「え?」

ナッツの瞳と、昨晩渡したペンダントと、同じエメラルドグリーン。薄いその布はまるでシルクのような手触りで、天井のライトの下にかざすとよく光を透過した。あまり遮光カーテンとしては働かないかもしれない。けれど光を通して見るその色は、さらに輝いて綺麗だった。

「…うん、それいいね。それにする」
「…ああ」

よしナッツの私物にはこの色を増やしていこう。
目を細めて穏やかに笑う、ナッツのその顔を見て俺は決めた。

「これでできるカーテン、楽しみだなぁ」
「…そうだね。ナッツ姉にはその色、似合うと思うよ」
「ふっ」

シャルの悔しそうな顔が見れて、とりあえず俺は満足だ。


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