CLOWN×CLOWN


おやつ×クッキー×穏やかな昼


毎日のご飯を作る(用意する)のは当番制。
そして毎日のおやつを作るのは、僕の仕事。午後の日課だ。
あ、もちろん強要されたわけじゃないよ、自発的なものさ。

「え、今日?ふうん、何時から出かけるの?」
「団長の話だと日没にはここを出るとのことだ」
「僕は普通にここで待ってればいい?」
「ああ」

今日の3時のおやつのためのお菓子作りを手伝ってくれているのは、体おっきいのに意外と器用なフラン君。
見た目ちょっぴり怖いけど、道に捨てられた犬とか枯れそうな花とかをほっておけないタイプ。
意外なギャップにきゅんっ作戦を素で行える子だ。

そんな彼と僕はクッキーの生地をこねながら、彼らの仕事についての話に花を咲かせていた。
何時にどこへ何を盗みに行く、なんて、なかなかに物騒な話だ。
はてさて、それを笑顔で受け入れる僕は保護者失格か?

「まぁ、別に一緒に来たって構わないが」
「いや、遠慮しとく」

彼らが仕事の間、いつも僕はお留守番。
でもライトがいるから一人ではない。だから寂しくなんてないし、全然平気。
っていうかこの子達の仕事なんて、怖くてついていけない。

「…ナッツ…次はこれ、どうするんだ?」
「ああ、生地はもうそれでできあがりだからあとはこれで型を抜いて…」
「できたかーナッツー」
「えーまだだよウボォー君」

いつもこんな感じでおやつの時間を待ちきれないのは、規格外サイズの体がどこにいたって目に入るウボォー君。
喧嘩っ早くて早とちりさんなとこがあるけど、一番の年長者なだけあってお兄さん気質は強い。

「えーもう食えるんじゃねーのか?」
「あ、ちょっと!」
「…んー…いまいちだな」
「当たり前」

焼いてもいない生地を口に放りこんで彼は文句を言いながら咀嚼した。
生のまま食べるとお腹壊すよ。…君に限ってそんなことありえないか。

ていうかいつも思うことだけど…
この二人に挟まれると威圧感が半端ないな!
僕のテリトリーっていうかパーソナルスペースっていうか、それが一気に小さくなる。巨人の中に混じったパンピーだ。
まぁ二人とも傷ついちゃうから、そんなこと絶対言わないけどね。

「全部型抜いて焼かなきゃいけないから、まだ1時間近くはかかるよ」
「えーんなに待てねぇよ」
「さっきお昼ご飯食べたばっかなのに…」
「何か他にねぇのかよ」
「ウボォー君…いつも僕が何かを懐に蓄えていると思ったら大間違いだ。君らが流星街にいたあの頃から、僕はこうして自分で作ったお菓子を懐に忍ばせて君らの元へむかっていたわけだよ。つまりね、いつも君らにあげてたお菓子だ何だは決して魔法で湧いて出てたわけでも何でもないんだよ?」

この子らは僕を魔法使いか何かだと無意識の内に思い込んでいる節がある。
困ったもんだ、僕は万能でも何でもないのに。
今朝なんてパンツ一枚でひと騒動を起こしたばかりだ。

「ウボォー、ナッツを困らせるな」
「あー…わかったよ」
「うん、いい子。じゃあ待っててね」

にっこりと笑ってみせると、ウボォー君は何故か眉を寄せて困ったような顔をした。

「いい子ってなぁ…俺ぁもうそんな年じゃねぇぞ?」
「そうだねーでも僕にとっては、まだまだ可愛い教え子だよ」

もう何も教えてなんかないけど。
だって子供のころの彼らと別れてから、僕にとってはまだ一年しか経ってないんだもん。急に大人扱いなんて、ちょっと無理があるっていうか。これから徐々に直していくつもりではあるけど。

「あんたをガキ扱いしてくれる人間なんて師匠が最初で最後なんだから、喜んで受け入れなウボォー」
「あ、マチちゃん」
「師匠、何か手伝えることある?」
「じゃあマチちゃんにも型抜きしてもらおうかな」

よく僕のお手伝いをしてくれる、かわいくてやさしいいい子マチちゃん。とっても手先が器用で、お裁縫やお料理が得意な、まさに女の子。ちょっぴり男勝りなところも、いい味出してるよねきっと。

「そうだ、クッキーみんなお仕事の時に持っていく?ラッピングの準備もしようかな?」
「ナッツ…ピクニックに行くわけじゃないんだぞ」
「え、クッキー持っていっちゃだめなの?」
「いや、駄目とかじゃなく…」
「がはははは!ナッツはおもしれねぇなぁ」
「師匠ってやっぱりちょっと天然入ってるよね。朝はなんかパンツがどーたら騒いでたでしょ」
「え、見てたのマチちゃん!やだなぁ恥ずかしい」
「シャルが、急にレベルアップし過ぎだったかなって反省してた」

パ、パンツにレベルがあるだと…!?
僕は驚愕した。パンツにそこまで意識を払ったことがなかった。
ていうか駄目、パンツタイムは朝で終わったんだ。今はクッキータイムなんだ。…クッキータイムって…ああ、なんだか素敵な時間。

「…いいね、家族でお菓子づくりって」
「…家族?」
「あ、いや、ごめん何でもない」

しまった僕は何を言ってるんだろう。
一年前の感覚が抜け切らない。
僕とは違ってもう立派な大人になった彼らと、素で家族ごっこなんて。
恥ずかしくなって咄嗟に誤魔化すとがはははは!とウボォー君がまたもや盛大に笑った。

「やっぱ変わんねぇよなぁナッツは」
「うれしいよ。十年前からずっと、家族のままでいてくれたんだね」

つり目気味な目をすっと細めて、マチちゃんは綺麗に微笑んだ。
ぽかん。思わず素でそんな表情をしてしまう。
そんな僕を見て三人は笑った。

嬉しいって。
そんなの、僕の方がもっと嬉しい。
十年って、簡単に言っちゃうけどどんだけ長い時間なんだろ。僕の人生の半分相当だ。僕は十年前の記憶なんてそんなに鮮明じゃない。
なのにこの子達はそんなに長い間、僕を思ってくれて。今もあの頃と同じように慕ってくれる。

「ありがとう」

それってこれ以上ないほど幸せなことだ。
改めて今の自分がいかに恵まれているのかを実感した。…そんな穏やかな午後。


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