CLOWN×CLOWN


進化×不安×縋りついた腕


クロロ君が僕に石を渡してくれた。

無理やり僕の手をとって、少し乱暴に。
でも僕は大してそれを気に留めず片手に石を乗せたまま、もう片方の手でクロロ君の頬を撫でた。
驚いて目を丸くしている彼の両目からは、今にも涙が零れ落ちそうだった。

どうしてだろう。どうしてこの子は泣きそうなんだろう。
この子は…そう、淡泊なように見えて、意外と感情豊かな子だったんだ。
嬉しい時は笑っていたし、悲しい時は泣いていた。
じゃあ今静かに涙する君は、何が悲しいんだろう。

「…どうしたんだい?」
「…嬉しいんだ」

ふっと笑ってそう答えた瞬間、彼は僕を抱き寄せた。
ボスッと彼の胸に収まってしまった自分に驚く。僕、そんなに小さかったっけ。
…いや違う、クロロ君が大きくなったんだ。とっくに背は抜かれてしまってる。きっと力比べも、もう勝てないんだろう。
本当に、十年もの月日が経っているんだとしたら…この子はもう二十歳になるんだっけ。
わぁ、もう立派な大人じゃないか。つい子供扱いをしちゃってたけど大丈夫かな。

「ナッツ…」
「ん?」
「会いたかった」

…本当に、あの頃から十年が経っているとしたら。
僕は当然この子にとって十年前に会った人≠ネわけで。
つまり、遠い過去の人なわけで。
そんな人間に『会いたかった』なんて、普通言うだろうか。

いやその前にさっきフェイ君は、みんなずっと僕を探していたと言っていた。
それはどうして?
今更用は問うまい。そうではないんだ。自惚れじゃなくこの子たちは本当に純粋に、僕に会いたいと思ってくれていたんだろう。

…僕はこの子たちにとってそこまで大きな存在だっただろうか。
僕はこの子たちに、何かをしてあげられていたんだろうか。
何も告げずにあのスラムを出てしまって、恨まれこそすれ、ここまで思ってもらえるものだろうか。

いろんな疑問ばかりが湧き上がる。僕の大して良くない頭はすでにショート寸前だ。
それも当然。短時間に一気に詰め込み過ぎである。
そして疑問の次に湧き上がるのは、不安。漠然とした掴みどころのないそれ。

正直に言おう。
この時僕は怯えていた。
自分の置かれている状況に。理解できない現状に。
だから僕は石を持っていない方の腕を、ゆっくりとクロロ君の背に回した。
その行為は子供をなだめるそれとも、親愛のハグとも違う。ただ僕は、縋りついただけだった。
少し見ない内に見違えるほど大きくなってしまった、記憶の中の子供に。

「…ナッツは、こんなに小さかったのか」
「そうだね。僕はあの頃から変わってないから」
「そうか…もっと大きいと思ってた」
「君の記憶の中の僕は、大きかったんだね」
「ああ。すごく、すごく…大きかった」
「そんなに?はは、なんかちょっと嬉しいな」

でも、淋しいな。
君はもう子供じゃないんだね。僕の知ってる『クロロくん』ではないんだろうね。
大人なんだ。きっと僕より。
君は昔から賢かった。ハグをしてるフリして、ただ必死に縋りついているだけの僕に今も気付いているんだろう。

「人の目の前でイチャついてんじゃねぇよ」
「ウザいね」

問答無用と言った様子で、フィン君にクロロ君からひっぺがざれた。おまけにフェイ君からはウザい呼ばわり。ちらっと目があったマチちゃんには、ふっとすぐに視線を逸らされた。…一番ダメージでかい。

縋りつく拠り所を失った僕は、むくれた素振りをしながらライトに抱きついた。警戒の必要がないと判断したのか、先ほどからずっと大人しくしてくれていた彼。僕が抱きつくと嬉しそうにブンブン尻尾を振ってくれる。可愛い。

僕は石を握ったままの手でライトの頭を撫でた。そして彼にみんなを紹介しようと口を開けた、瞬間―――
ライトは僕の目の前で、目も開けていられないほどの眩く白い光を放ち始めた。
それを危険と判断したのか、傍にいたクロロ君とフィン君は僕を背に追いやって庇うように立ってくれる。
僕は情けなくもポカンと固まったまま動けずにいた。

え、え、どうしたのライト。眩しすぎてよくわからないけど、気のせいかなんか君むくむくと大きくなってないかい?石が欲しかった理由って、もしかしてそのため…?
しばらくして光が消えた時、そこにいたのはライトではなかった。
そう、彼は…

「えーっと、まさかほんとに、魔獣ってやつ…?」

それを確認した瞬間、僕はとてつもない寒気に襲われた。思わず己の体を力いっぱい抱きしめる。しかも足には力が入らず、膝から見事に崩れ落ちた。
外に出ている℃桙フライトと僕は、完全に別の個体として存在していたはずなのに。成長(?)した彼に必要な分のオーラが、僕から彼に移っていったのだ。

僕のオーラが僕の体を離れて大きくなったライトに吸い込まれていく光景を、僕はチカチカする視界で見ていた。

そして一拍後、僕の視界は完全にブラックアウト。







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ガーディーからウィンディに進化。(イメージ)
もう一度言いますが主人公がポケ○ンを知っているわけではありません、
作者の都合でただポケ○ンのイメージをお借りしているだけです。
この念のイメージが率直に伝わるにはオリジナルな何かを作るより
既存の何かを利用する方がよっぽど理解していただきやすいと思って!


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