CLOWN×CLOWN


無防備×弟子×思わぬ足止め


「今日からお前に念の修行をつけてやる。死ぬ気で身につけろ」
「ハイ、センセー!意味がわかりません!」

それがお互い、今日の開口一番の台詞だった。



***



「無防備な奴だな…」

毛布にくるまってぐっすりと眠りこんでいるガキだか大人だかよくわからんのを見ながら、俺は呆れて溜息をついた。
人気のない森の中、傍にいるのは今日知り合ったばかりの男。
もちろん俺にガキを襲う趣味なんかないが、仮にも女なら少しは警戒というものをしろ。
…もしかしたら、俺が少しでも何かしようとすればあの念獣が出てくるのかもしれないが。

「…どーしたもんかな」

こいつ。

中途半端に助言なんてしてしまったもんだから、ここで放り出すのも憚られる。
明日の朝『じゃあ俺はこれで』なんて立ち去るのも薄情だ。
知識を与えたところで、結局それが使えなければ意味がない。

このナッツとかいうの、纏はできているし練も凝もある程度は使えるようだが、まだまだ荒削りだ。
それに念はそれ以上にまだまだ覚えることがたくさんある。修行がまだ存分に必要だろう。

だが念というものは、一人では得ることも学ぶこともできない。
必ず、師というものが必要だ。
こいつに、それを探してやるか?

……いや…

崖を素手で登りきる筋力も、絶をした俺の気配を察知した感覚も、大したもの。
ナッツは間違いなく、鍛え甲斐がありそうな人間だ。
それなりの実力者であるというのは容易に想像できる。(本人はクラウンだとか何だとか言っていたが)

一からではなく、三ぐらいからのスタート。
大して苦労はしないだろう。

なら…

「俺がやるのが手っ取り早いか」

そう決断を下し、すっきりした気持ちで眠りに着いた。
そして寝ざめと同時に、冒頭の台詞へ戻る。

「念が使えるようにしてやるってことだ。言っただろ、お前は何故か能力は使えているが、その基盤が緩すぎる」
「はあ」
「だから俺が教えてやる。この森で。俺が師になってやるんだ、数か月あれば十分だろう」
「ええと…じゃあ僕は到底街には行けないと」
「そうだな」

引き攣った笑みを浮かべながら、「ええと、今僕は喜ぶべきですか嘆くべきですか」などとわかりきった問いをしてくるナッツ。
当然喜ぶべきだと答えると、失礼にも肩をがっくりと落としやがった。
そんな奴の顔を舐めまわし、なぐさめようとする犬が一匹。

……こいついつの間に現れた!?

「おお、ライトおはよう」なんてナッツはあっさりそれを受け止めているが内心俺はかなりびっくりだ。
ナッツが何をするわけでもないのに、すっと瞬時に現れる念獣。
発動条件が何もないどころじゃない。
これはもしかすると、この念獣そのものの意思なんじゃないだろうか。

しかしそんなことはあり得るのか?念が己の意思で、自分を具現化させるなんて。
…だが間違いなく、この念獣には自我がある。それは昨日一日見ているだけでもよくわかった。
ならやはりあり得るのだろうか、そんな念も。

「じゃあ今日からよろしくお願いします、師匠」
「んあ?お、おう」

ぺこりと小さく頭を下げるそいつに、意識を引き戻される。
そしてつられて頭を下げてしまった俺。


馬鹿な、俺が頭を下げる必要がどこにある。



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