CLOWN×CLOWN


念獣×ピクルス×ネンノーリョクシャ


僕は、宛てもなく。
大量の荷物を抱えながら、彷徨い歩いた。

何日も、何日も。




………………………何日も、だと…!?

一体なんで。
『明日には次の街につけるってさー』とかって話をしてたのに。
どうして街につけない?道間違った?…いやいやいや、ずっと一本道だったよ。

「どうしよう。もう食料少ない」

狩りでもするか。水はこの前の雨で補充できたから大丈夫だ。
でもやっぱ早く街に入りたいし、歩こうかな。街に入れば、大道芸でもなんでもやって稼げばいい。同じ場所に留まっても稼ぎは減るだけだから、転々とやっぱり移動しながら。

…なんだ、結局僕の人生は、大して変わんないのか。
日常は日常ではなくなったけど。結局僕は廻って廻って。漂うだけか。

「…まぁ別に、いいけど」

それにしても、僕は一体今どこにいるんだろう。
いつの間にか森に入ってるし、進むほどどんどん深くなってきてるし。
…街なんてありそうにもないんだけど。

「あーあ」

しばらくして日が暮れてきてしまった。夜の森は危険だから早めに火を焚いて、傍に腰を据えた。夕ご飯は、これが最後の缶詰。ってゆうかピクルス。…この単体オンリーで食べるべきものではないと思うんだ。

「ハンバーガーに挟んで食べたい」

そう文句を言ったところでハンバーガーが出てくるわけなんてなくて。僕は一人寂しくポリポリとピクルスをかじっていた。
…むなしい。
膝を抱えて俯いた。



―――――誰か傍にいて。



そんな時、背後の草木がガサガサと揺れた。反射的に立ちあがって、距離を取りながら振り返る。その際缶詰をひっくり返してピクルスをぶちまけてしまった。
ああ…最後の食料なのに。

「なんだなんだ、出てきなよ。野盗か?野犬か?ウサギさんか?」

ウサギなら食う。

「よしウサギこい」

効き手である右手は只今肩が故障中なため、左手にナイフを構える。
ごめんよウサ公。お前に恨みはないが僕はお腹がすいている。
しかし期待に反して、草陰から飛び出してきたのはウサ公ではなく…ワン公だった。

「なんだ、犬か。……犬…か…?」
「ワン!」
「あ、そう。犬なんだ」

初めて見たよ、オレンジ色の犬なんて。
…なんて犬種?なんか背中とか足に黒いしましま模様入ってるけど…もしかして病気?
いやでも元気そう。ブンブン尻尾ふってる。

「…かわいい」

尻尾を振ってるってことは僕のことは警戒してないよってことだろうか。
それでもこちらは警戒気味に、その子をじっと見つめた。
―――ポリポリポリポリ…

「………」

ポリポリポリポリ…

「………」

…なんかピクルス食べてるんですけど!?
え、マジ警戒心ないな君!僕心配になっちゃうぞ!

「…おいしい?」
「ワン!」
「…そっか」

僕は決して、動物と話ができるとかってわけではない。
でもなんとなくその子が言わんとしてることは伝わった。その尻尾の尋常じゃない振り具合で。
好物なのかな。…ピクルスが!?か、かわってるなぁ…何もかも。

「あ、全部食べちゃった?え、ええと…お粗末様でした?」

何て言えばいいのかわからなくて結局疑問形になった。でもそのわんちゃんは、満足気に頷いてくれる。どうやらこちらの言葉をちゃんと理解してくれているようだ。
なんだかよくわからないけどすごいなぁとその子の頭をなでなでする。

「君、賢いんだ――――」
「バフッ」

ボワァッ
その子を褒めようとしたその時目の前が一瞬オレンジ色に光った。
咄嗟に引っ込めた手が少し熱い。見れば手袋が若干焦げていた。

「…へ?」

え、今この子…火…吹きませんでしたか?

「え、えええ?」

オレンジの身体に黒い縞模様、ライムライトの尻尾にあどけない顔。
そして口から火を噴くという摩訶不思議。
…近頃の犬はおそろしいな。新種か。
でもすっごくかわいい。しかも何故かわからないけど僕なつかれてる。ピクルスあげたからかな、うれしい。

「お名前はー?」
「ガウガウ」

すごい、何かしゃべろうとしてるっぽい。でも残念ながらなんて言ってるのかわからない。
首輪もネームプレートも何もないし、野良かな。じゃあ名前はないか。

「僕が名前つけてもいい?」
「ワン!」
「えーと、えーと…」
「ワンワン!」
「ううーん………」
「……クウン」

待ってる。超待ってるこの子。
ああ、だめだそんな目で見ないで。なんだか妙にプレッシャー…!

「え、えと、えと…」

僕がさびしいと感じた時に現れた…いや、現れてくれた、

「…Light」

希望の光。

「ワン!」
「へ?ら、ライト…で、いい?気に入ってくれた?」
「ワンワン!」
「…ラ、ライト?」
「クウン?」
「えっと…お手」
「ワン!」

うん賢い!

「ねぇねぇ、さっきの火吹いたやつはどうやるの?」
「ワン!」

かぱり。元気のいいお返事と共に大きなお口を開けて…
ボワワァッ

「おおー!…げ、まずい火事!」

ライトの放った火の粉によって燃やされた草が炎を上げる。
僕は慌ててジャケットをそこに被せて消火した。結果、僕の数少ない服が焦げた。

「すごいね、君。一体どこから来たんだい?僕は知らない内に未開の地にでも踏み込んだのかな」

僕の言葉にライトは首をかしげながら、しっぽをふりふり。
なんかこの子の顔って常ににこーって笑ってるみたいに見える。癒しだ。
いっか、別に。ここがどこかとかどうでも。

「ライト、今日は一緒に寝てくれないかな。慣れない一人の夜は、やっぱり寂しくて」
「ワンワン!」

今一人じゃないとわかった途端、するりと簡単にその言葉は僕の中から溢れ出した。
僕は弱いどころじゃない。あまのじゃくだったんだ。
尻尾を激しく振り回すその子は、まるで最初からそれが目的であったかのように僕に寄り添ってくれる。触ってみると、確かに伝わる温度。
久しぶりの温もりだった。心臓の音を感じる。
僕はその夜、小さくも大きくもない、そのふさふさの体を抱きしめて眠った。

そして朝目覚めたとき、その子はいなくなっていた。

「…家に、帰っちゃったのかな」

焦げたジャケットも倒れたままのピクルスの缶もあるから、夢オチではないはず。
それに、確かに僕はこの腕に温もりを抱いていた。
でも何を考えたところで仕方がないので、僕は再び歩みを進める準備をする。
事実、今あの子はここにはいないのだし。それだけのことだ。
行ってしまう前に一言声かけてくれればよかったのに、とか森の出口まで案内してほしかったな、とか、そんな勝手を言う権利は、僕にはないのだから。

「行くか」

荷物をまとめて立ち上がった。
今日こそ街に行く!
…と、決意新たに一歩踏み出すはずだったんだが。
この森の奥、更に草木が多い茂っている方から聞こえた声に、それは遮られた。

必死な声。怯えている?相手を威嚇している?
とにかく、楽しんでるとか喜んでるとか、あまりよろしい感じには聞こえない。
ああもう、知ってる、知ってるよこの鳴き声。

昨日のわんちゃん―――ライトじゃないか。
大量の荷物を手に僕は走り出す。やっぱりこれは走りにくい。もっと荷物減らそう。むしろ今ここで投げ捨てて―――なんてさすがにそこまで割り切れないから、後で何捨てるか吟味しなきゃ。

「ライト!」
「ワン!!」

茂みから飛び出して、予想通りのその子の前に立つ。
彼(勝手に♂に決定)が対峙していたのは、いたって普通…うん、たぶん普通…の男性だった。少し――いやかなり薄汚れた服に、手入れのされていない黒髪。見苦しい無精髭。スラムの住人やそこらへんのホームレスさんのようだ。
も、もしやこの森の先住民のお方だろうか。
なんだか目が鋭いし。侵入者の僕を警戒しているのか?
だとしたら、対峙していたライトもこの森の子ではないのだろうか。
…もしくは、この子はこの先住民の方にとって食用の動物なのか…

『こんな可愛い子を食べようだなんて!』
―――と、言いたいところだが。

「うう、僕も昨日ウサギ食べようとしたから何とも言えないなぁ…」
「…その念獣はお前のか?」
「え?」

僕の独り言が聞こえないほどの距離ではないだろうに、それはあっさりスルーされた。
いいよ、いいけどね、別に。どうせ独りごとだもの。

しかしこの男性は、一体何を言ったんだろう?
ネンジュウ?なんだそれは。…ああ、この子の犬種?もしくは生物種?
―――で。僕は今、この子が僕のものか、と聞かれたのか。

…違うと答えれば。
この子は『じゃあ俺が貰う』と持っていかれてしまうんだろうか。
そして結果手足を括りつけられて丸焼きに…………

…そうだと、答えれば。
これは僕が先に見つけた獲物だ、などと答えれば。
諦めて去ってくれるんだろうか?それとも力づくで、とか?

…後者の前者に賭ける。=諦めてくれ。

「そうだよ、僕のだ」
「そうか」
「………じゃ、そうゆうことで」
「はぁ?」
「へ?」

え、駄目ですか?

「…俺に用があったんじゃないのか?」
「は?貴方に?いいえ?」
「ならなんで念獣を…」
「?」

…どうやらネンジュウ≠ヘ食用の動物を指す言葉ではないらしい。ペット、とか?
もしかしてこれは、この人がライトに何かをしたわけではなく…ライトの方がこの人に何かをやらかした感じなのだろうか。

「すいません、この子、何かしましたか?」
「あ?いや、そうゆうわけじゃないが…」
「…この子は何故、あんなに吠えていたんでしょうか?」
「…いきなり念獣が飛び出してきたもんだから、俺が警戒しちまったせいだな」
「…なるほど」

つまりはお互いばったり会っただけ。
…うん、何も問題ないじゃないか。

「…それじゃ、そうゆうことで」
「ちょっと待て」

え、まだ何か?

「あー…なんだ…その念獣は、もしかしてずっと創られた≠ワまの状態なのか?それが通常か?」
「?すいません、ちょっと意味が理解できなくて…」
「…お前、念能力者だろ?」
「?いいえ?僕はクラウンです」

ネンノーリョクシャが何かはわからないが、そうではないということはわかる。僕はクラウン以外の何者でもない。
そう意志を持って、堂々と答えたのに。なぜか目の前の男性は眉を寄せて、訝しげな顔をした。怪しんでる、という感じかな。何も嘘なんて言ってないのに…

「ああ、」
「?」
「さっきこの子は僕のだって言いましたけど…あれは嘘です。この子は僕のじゃありません。昨日出会って、一晩を共に過ごした友人です」
「ワン!」

嬉しそうに、尻尾ふりふり。
ああ、可愛い。

「友人か…そりゃあいい。だがな、んな嘘はバレバレだぞ。そいつのオーラは間違いなくお前のそれと同じだ」
「オーラが?」
「ああ」
「………」

『創られた』『ネン獣』
それがこの子。
『ネン能力者』
それが僕。

…ネン≠チてもしかして、あのネン≠ネの?
僕はそれを肉体強化等に使える魔法の力だとしか知らないけど…
この人の言っているそれは、つまり、

「この子は僕が創ったって、言いたいんですか?」
「…本当に無意識なのか?」

質問に質問で返さないでほしい。

「…少なくとも僕は、僕がこの子を創ったなんてことは思ってないです。この子と僕は、昨日偶然出会った。そしてこの子は警戒する僕にあっさり近づいて、僕のピクルスを勝手に食べて…ああごめんライト、別に怒ってるわけじゃないよ、ああ、しょぼんってならないで」
「そのライトという名は、お前が?」
「ええ、まぁ」
「ふうん」

ふうんってなんだふうんって。聞いといて興味なさ過ぎるでしょ。

「すいません、僕先を急ぎますので。失礼します。ついてきてくれるのかい?ライト」
「ワン!」

男性に背を向け歩きだした僕の隣を、当然のようについてきてくれる彼。思わず顔がほころぶ。
背中に視線が突き刺さっているのはもちろんわかっているが、そんなもの微塵も気にならなくなった。

「このまま森を突っ切って、街へ行きたいんだ。出口までの道、わかる?」
「ワウン!」
「うん、頼もしい。ありがとう」
「街へ行く?」

ほっと、安心したのも束の間。
後ろから投げかけられた声に、安堵を上回る不快感を覚えた。まだ何かあるのか。

「歩いてこの森を抜けるっていうのか?悪いことは言わねぇから、大人しく引き返せ」
「…どうして?」
「この森の危険さを知らないのか。奥へ進めば進むほど、獰猛な獣も人食植物なんかも増えてくる。それにお前、ここから向こうの街まで行くのにどれだけ時間がかかると思ってんだ?山を登って谷を降りてを繰り返して、休息なしで歩いたとしても、普通二週間はかかるぞ」
「に、二週間!?」

ば、馬鹿な僕はいつの間にそんな壮大な迷子になった!
いやいや待て、この男性が嘘を言っている可能性も、無きにしも非ずだ。
そんなことをして何のメリットがある、というのが最大のツッコミポイントだがあえてそれは考えずにいよう。じゃないと僕が救われない。
二週間食料もなしにこの薄暗い森で過ごすとか、僕可哀想。

「…と、とにかく行きます。僕、早く次の街へ行かないといけないんで」
「次?」
「…僕は流れ者のクラウンですので」

それでは、と一礼をして。今度はさっきと違って、逃げるように立ち去った。
これ以上足止めを食らいたくなかった。







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わんこのイメージは一応ポ○モンから。
大して大事な設定ではないです。

ちなみに主人公がポケ○ンを知っているわけではありません、
作者の都合でただポケ○ンのイメージをお借りしているだけです。
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