変態注意報

第一印象は、綺麗な子だな、だった。


「あ、あの、」
「うん?」
「おともだちに、なってくれない…?」


つややかな黒髪が綺麗で、凛とした周りより少し大人びた空気がなんだかかっこいい。そんな姿が、あの頃はまだ仲の良かったいのに似ている気がして私は彼女に一方的に好意を持った。


「うん、いいよーよろしく!やった、さっそくかわいい友達げっと!」


でも話してみると、案外見かけとは違うと感じた。

彼女は言葉が素直すぎるところがちょっと子供っぽかったし、口を大きく開ける笑顔は綺麗と言うより可愛い。
ただ、ものすごく忍術や体術の才能に溢れてるところは、私がかっいいと感じた印象そのままだった。
おどおどしがちで背中を丸めてばかりの私と違って、いつでも堂々としている彼女はなんだか何でも完璧にできそうに見えていた。

でも彼女は、ただ才能があるだけじゃなくて…努力も惜しまない人だった。
何もしなくても結果がついてくる本当に羨ましい典型的天才型じゃなくて、彼女は典型的秀才型。

「リンは勉強はだめだめだけど、それ以外は何でもできていいよねー。まじ天才って羨ましい」

そんな言葉に彼女は笑うだけだけど、私は内心勝手に、そんなことを言う人間に腹を立てていた。
お前は何もしてないから再テストになるんだよばーか。
って、何度言ってやりたくなったことか。

―――で、一体何が言いたいかっていうと。

実は私、ずっと彼女…リンに憧れてた。
いろんな面を持ち合わせる、でも裏表のない、努力家な女の子。
そんなリンを、素敵だなって思ってた。尊敬してた。

…まぁ、もう昔の話だけどね。



変態注意報5 side サクラ



「シカマルおっはよー今日の寝顔も可愛かったよっ」

「んなもん見てんじゃねぇよ気持ち悪ぃ…」

「日課にしていいですか」

「今の俺の言葉理解できてねぇだろ」


演習は今日で三日目。つまり午後には終了。
やっとお風呂に入れると思うと午後が待ち遠しい。
このバカップルからやっと離れられると思うと余計に。

今さっき起きたばかりで顔も洗ってない寝癖だらけの私とは違って、リンは既に身支度ばっちりだ。
いつだって自然体!な彼女だけど「好きな人の前で寝ぼけたままなのはちょっとね」ということらしい。
意外と気を使っているところは使ってるんだ。こんなんでも。
普段から寝ぼけてるどころか頭のネジ何本か吹っ飛ばしてる状態だとしても。


「サクラもおはよー朝ごはん準備しとくから、あっちで身支度してらっしゃい」

「うん」


リンは基本シカマルが関わってこなければ、どうしようもないバカだということ以外まだまともだ。
まぁ発言とか行動とか、たまにぶっとんだこともするけど。
シカマルって存在を省いてリンを見る分には、昔からの彼女と何も変わらない。

今はもう、憧れとかそういう対象ではないけど。
こっちのリンは好き。…シカマルシカマル言ってる時は正直ウザいからそうじゃない。


「ほらナルト、あんたは逆。あっちで準備しな。サクラの方覗きにいったらはっ倒すよ。シカマルはもちろん私の目の前ね!」

「黙れ変態。行くぞナルト」


…よくやるわ。
でもいいな、リン。好きな人と同じ班になれるなんて。私もサスケ君と一緒がよかった。

そういえばこの演習中、まだ一度も会ってない。
つまりもう三日会ってないんだ…。

あーあ、やっぱりリンはいいなぁ。

だってなんだかんだでシカマルって満更じゃなさそうじゃない?
もういっそ早くくっつけよって思ったり思わなかったり。
今は今でどっちもウザすぎるんだけどくっついたりしたら余計ウザくもなりそうだし。


「…会えないかなぁ、サスケ君」


急に虚しくなってきた。

あの二人は毎日毎日あんなにイチャこらしてんのに、なーんで私は一人なの。
私だって添い寝されたい抱きしめられたいサスケ君の寝顔見たい一番におはようって言いたい。


「…ハァ」

「溜息つくほど恋しいの?なら会いに行けばいいじゃん、一緒に探してあげようか?」

「へ!?」


顔を洗うために手に掬った水を撒き散らしながら振り返った。
そこには野草を抱えて不思議そうな顔したリンがいて、独り言聞かれてた…とちょっと恥ずかしくなった。


「い、いいわよ別に、もう演習も今日で終わるし…」

「あのねーサクラ、思い立ったらすぐ行動だよ。大丈夫たぶんあいつのことなら私、ちょっと探れば見つけられるし」

「…幼馴染の特権?」

「特権って…私別にそれで喜んだことはないけど。…まぁ、普通に慣れだよね」


野草を川の水でじゃぶじゃぶ。アライグマみたい。
…サスケ君と幼馴染のアライグマ……ああああやっぱこいつ羨ましい!
何よ、家同士がどうのこうのって。私もどっかいい家に生まれたかったわ!


「…何渋い顔してんの。ほら、利用できるもんは何でも利用してさ。特攻あるのみだよ!昔から言ってるでしょ、私サクラのこと応援してるって」

「う、うん…でも、」

「なに」

「…なんでリンは、そんなに頑張れるの?」

「…?そんなの、頑張らないと結果は出ないからだよ。……いや、やっぱりそうじゃなくて…頑張りたいから頑張るんだろうな」


すがすがしい笑顔を向けられて、少し戸惑う。

頑張りたい
私って、そう思ってるのかな。
簡単に言うけどそれって、かなり難しいことだと思うんだけど。


「なーんかサクラって妄想は激しいくせにいまいち積極性にかけるよね。私を見習いなさい!」

「…あんたは積極性があり過ぎる」


誰も見習わないわよあんな変態活動。見習った日には私の中の何かがいろいろ終わる。
私はさすがにサスケ君のお尻撫でたいとかセクハラしたいとかは思わないの。

…それって愛の差なのかしら。
やっぱり私って………いやいやいや、私は間違ってない、はず。
駄目よサクラ、惑わされないで…!


「じゃあご飯食べてから、サスケ捜索に向かおうか」


洗った野草の水を切ってから立ちあがって、一瞬で後ろの茂みの中に手裏剣を放ったリン。

一体そこに何があるのか、私にはわからないし彼女の動きもいまいち見切れなかった。
けど確信を持って、ああご飯の準備整ったんだろうなって思う。

…リンは優秀。

頭が弱いせいで、完璧な人間とは決して言えないけど。
多少勉強ができるだけの私なんかじゃ到底敵わない、圧倒的な存在。
そんな彼女はどうして、


「…リンは、どうして私に協力してくれるの?」

「え?」


リンはいい子。
何を返せるわけでもない私を、いつも気にかけてくれる。傍にいてくれる。
初めて声を掛けたあの時から、友達でいてくれる。


「なんでってそりゃ…サクラが好きだからだよ?」

「………」

「…私、サクラが初めてクラスで声掛けてくれた時、すっごく嬉しかった。なんかもじもじしながら恥ずかしそうにしてさ、かわいいなーって思ったよ。すごく勇気を振り絞ってるんだってのも気付いてた。…あの頃からずっと、私はサクラの親友でいるつもりだけど?」


裏表のない彼女。
素直で正直で、本当にバカって思うぐらい、本音しか言えない。
そういう子。

誰よりやさしくてかっこいい。
シカマルなんかにはもったいないぐらい。

―――いつからだったっけ。

ずっとシカマルばっか追っかけるリンにイライラし始めたのは。
いつまでもそのリンを邪険にするシカマルにイライラし始めたのは。

いつからだったっけ。
憧れが本当の友情に変わったのは。


「…サクラは、私のこと好きじゃない…?」

「…バカ言わないでよ」


バカはバカらしく能天気に構えてなさい。


「大好きに決まってるでしょ」


尊敬はできないし今更憧れもしないしリンみたいになりたいとも思わないけど。
なんだかんだ私は今でも、頑張るあなたを素敵だと思ってるんだから。

さてシカマル、あんたはとっとと腹括りなさいよ。
私はさっさと安心したいの。

まぁ心配はしてないけどね。
リンの努力はいつも必ず実るって、知ってるから。




(サスケはっけーん!ほらサクラおいでー)
(…なんだ、リンか)
(サスケくん!あの、えっと、今暇?)
(…特に用はないが)
(ならい、いっしょにお茶でも、どうかな…)
(茶?)
(リンが作ったの)
(…お前何してんだこんな森で)
(私はサクラのためならなんでもするのさ!友情パワー!)

尊敬できない不屈
(それがなんだか眩しい)
[*prev] [next#]
[top]