変態注意報

数か月に一回行われるサバイバル演習。
もう何度目かになるそれにはどいつも慣れたもんで。

実質すぐ傍には教師たちの目があるし大した危険が待ち構えてるわけでもないし、ただの山籠りキャンプとなればまぁめんどくせぇはめんどくせぇが気は楽……なはずだった。

だがそんな俺の予定は無情にも打ち砕かれ、今回は気が休まることなんて一切ない本気のサバイバルになってしまった。

それというのも、最悪なことにフォーマンセルであの、リンと組むことになりやがったんだ。

あんな変態バカでも忍術・体術にかけてはめちゃくちゃ優秀だし、同じくメンバーのナルトとサクラは普通に喜んでた。
リンの奴も喜んでた。女子とは思えねぇ勇ましいガッツポーズ決めながら喜んでた。

その中で、俺だけが恐怖を感じてた。

リンのそのただならぬやる気具合に、嫌な予感しかしねぇ。


「シカマルっ♪ご飯にする?お風呂にする?それとも…わ、た、し?きゃっ」

「おいナルト、演習開始早々ぶっ壊れてるこれどうにかしてくれ」

「お前にするって言ってやれば気がすむってばよ」



変態注意報4 side シカマル



「楽しそうねーリン」

「うん、別にこれといって何かしたわけじゃないしシカマルにはずっと無視られてるし特に何もイベントも発生してないのに何かすっげー楽しい。ビバ演習。そして今日も可愛いねサクラ、シカマル狙いのおめかしなら許さないけど」

「狙うわけないでしょ。天地がひっくり返ったってないわ」

「…そこまで否定されると逆に腹立つかも」

「…わがまま(どうしろって言うのよしゃーんなろー!)」


――――ぐぅぅ〜…


「シカマル!お腹すいた!」

「おめぇかよ今の腹の虫!ナルトかと思ったぜ…」

「な!しつれーだってばよ!」

「サクラ何食べたいー?」

「え、そうねー…水の音がしてるしたぶんここから川が近いだろうから、魚でも獲ればいいんじゃない?」

「えー私今は肉の気分」

「じゃあ最初から聞かないでよ!」


そんなことを言ってるそばから近くの茂みにクナイを投げ、リンはウサギを仕留めた。
女のくせに、小動物を食糧とすることに一切戸惑いというものがない。

迷いがないその行動にまごうことなき女子のサクラはげんなりとした顔をし、リンが耳を掴んで持ち上げたそれを見てヒッとわずかに声を漏らした。


「わ、私は食べないから!」

「なんで?あっちとそっちとこっちに、もう一匹ずつ仕留めてるよ?ね、ちょうど一人一匹ずつ!」


…いつの間に。

リンが指差した方を見、木や地面に縫いとめられているそれらを確認し、俺はどうしようもなくため息をつきたくなった。

全然気がつかなかった。こいつってこんなんのくせに腕は立つから、なんかめんどくせぇんだよな。

サクラにいたってはもう絶句だ。これは食べざるを得ない状況だと気付いたらしい。
ナルトは「すげぇ!」って一人はしゃいでる。やめろ、リンが調子に乗る。
ただでさえ今現在進行形で俺に「褒めて!」って視線を送ってきてやがるんだからな。


「…誰が捌くのよ」

「私がするよ?」

「できるの?」

「もちろん。ねっシカマル!」


知らねぇよ。
どうやらここで家庭的女アピールをしたいみてぇだが…ウサギ四匹を両手に歩く後ろ姿も、クナイでそれを綺麗に捌く背中も、なかなかに勇ましかった。

少なくとも、ウサギをたき火で豪快に丸焼きにする女は家庭的なんかじゃない。
お前はアピールの場を間違ってる。



***



「シカマルさむーい、あっためて」

「とりあえずそれ以上近づくな」


今回の演習はこの山の中で三泊する予定だ。
夕飯が済んでそれぞれに水浴びをし、日が沈んだ頃には俺たちはもうたき火を囲んで、各々眠る態勢に入っていた。

そう、もう寝るんだ、俺たちは。

それなのに何を勘違いしたかこのバカは、目を爛々とさせながらさっきからうるさく話しかけてくる。
しかもじりじりじりじりと近づいてきやがって気味が悪ぃ。

いいから寝ろよ、もうナルトとサクラは寝てるぞ。


「シカマル知らないの?あのね、寒い時は肌と肌を密着させるとね、」

「自分で自分抱きしめてりゃいいだろ」

「やだ足りない〜人にあっためてもらいたいの〜!」

「ナルトにでも抱きついて寝ろ」

「いーやーだーシカマルがいいー。あ、まぁ駄目って言われたって私今から抱きつくけどね、殴らないでね」

「つい殴っちまいそうだから来んな」


反射ってもんは俺自身で意識してコントロールできるもんじゃねぇから。
ちなみにこの反射作用を俺に身に着けさせたのはお前だから自業自得な。


「…抱きつかせてくれないとシカマルが寝てる間にチューしちゃうから」

「………」

「それに私におあずけ≠食らわせるなんて…後が怖いと思わない?」

「………」

「それにそれに―――くしゅっ」

「あ?」

「えっと、だから…うう、なんだ、くしゅんっ」

「…風邪でもひいたか」

「…かも。ヤバい本気でさむい」


…はぁ。

仕方ない、シカマルにうつしたくないから今日は離れといてあげるよ。
と、そう言ってじりじりと詰めてきた距離から元の位置まで戻ろうとするリンを、俺は引き留めた。

急に肩を掴まれたリンはぽかんとし、何?と首を傾げる。

ったく、ほんとマジでめんどくせぇ奴。


「…肌と肌を密着させると、なんだって?」

「え、あったかくなるんだよって、言おうと…」

「…さみぃんだろ、離れんな」

「!」


見開かれた目は今にも目玉がぽろっと零れ出しそうなほどだった。

けれど一瞬の間を置いてすぐリンは満開の笑顔を浮かべ、正面から俺に抱きついてきた。
俺の胸元に顔を押し付け、そりゃもう嬉しそうに頬ずりまでしてくる。
誰もそこまでしていいとは言ってねぇんだが。


「えへへ、シカマル大サービスだね。さっきまで近づくなって言ってたのにっ」

「うっせー寝ろ」


こんなのは今夜限りだ。

すり寄って満足そうにしているリンをそのままにして、共にその場に横になった。
添い寝添い寝!とリンは更に嬉しそうにしている。寝る気配がない。やっぱ間違った。


「ビバ演習!」

「俺ぁもう帰りてぇよ…」




(ちょ、ちょっとナルト!見て見て!)
(ん〜…?なんだってばよサクラちゃん…おお!?)
(ねぇ何これ一体どういう状況!?
 リンがシカマルにしがみついてるんじゃなくて、
 シカマルがリンのこと抱きしめてるわよ!?)
(ははは!リン幸せそうだってばよ!)

とりあえずそれ以上近づくな
(だけど結局許されちゃうから)
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