変態注意報

リンは、俺と同じぐらいバカだ。
いやたぶん俺よりもっとバカだ。
でもあいつは間違いなく、いい奴だ。

"あのねナルト、想いは全部言葉にするんだよ。そしたらぜったい伝わるからさ"

あいつはどこまでもまっすぐで…まっすぐ過ぎて、バカなだけだから。



変態注意報3 side ナルト



「シカマルっあのねっこれ、読んでほしくって!昨日徹夜して書いちゃった…」

「んあ?」

「はいなんとラブレター!頑張って口紅塗ってキスマークもつけてみたんだけど、」


ポイッ


「あああああああ!一秒も視界に留めずに捨てた!!ひどい!捨てるにしてもせめてゴミ箱にして!誰かに拾われて見られたらどうするの恥ずかしい!!」

「…お前に恥じらいなんて精神があったとはびっくりだぜ。本気で」


放り捨てられた手紙を回収するリンに背を向けて、シカマルは「頼むからお前は恥じらいに全身くるまって生きてくれ」なんて言って歩いてった。
女の子からラブレターもらえるなんてすげぇのに、我儘だよなあいつ。

まぁ確かに俺も、リンも恥ずかしいなんて思うことがあるんだってびっくりしたけど。


「…大丈夫か?リン」


拾った手紙を懐に戻したのに、しゃがみこんだまま動かないリン。
落ち込んでんのかと思って声をかけた。


「ナルト…」

「ん?」

「なんで手紙受け取ってもらえなかったんだろう」

「………」


…なんか前ばっか見過ぎて周りが見えてないとこは、きっとリンのいいとこだってばよ。
普通にウザがられてるからだって、気付いてショック受けることもないし。

なんていうんだっけか、こういうの。ポジティブ精神?…いややっぱこいつの場合バカなだけ。


「何が気に入らなかったのかな…」

「…その封筒じゃねーの?」


俺はすげぇ適当にそう答えた。


「あ、やっぱり!?そっかー!白かピンクかずっと迷って結局白にしたんだけど、やっぱピンクの方がよかったかー!」

「…おう」


幸せだなぁこいつってば。頭が。


「…なぁリン」

「なに?」

「辛くなったりしねーのか…?」

「え?」

「相手してほしいのに全然相手してもらえなかったり。頑張ってんのに全然上手いこといかなかったりさ…しんどくねーの?」


しんどいとか、そんな顔リンは見せたりしたことないって知ってるけど…
実はどっかでそんな風に思ってたらいいなって思った。
わかるよ、仕方ねぇよ、って、言える気がして。


「辛い、かー…そりゃさっき手紙ポイ捨てされた時はガーンってなったけど…辛いってほどじゃないかな」

「…そっか…」


わかってるってばよ、リンは強いって。
それでも少しだけがっかりする俺がいた。


「だって好きだからさ。シカマルが大好きだからさ。辛いより好きの方がおっきいんだ」

「!…お前、いつもいつもよくそんな恥ずかしいこと堂々と言えるよな!」

「言えるよ!てか言うよ!気持ちってもんはなかなか、言葉にしないと伝わんないらしいから」

「!」

「逆に言うと、言葉にすれば想いは絶対伝わるって思ってる!…あれ、なんか前にもこれ言ったことなかったっけ?」


そう言いながらも記憶が曖昧みたいで、リンはきょとっと首を傾げた。

ああ、聞いたことあるってばよ。もう何年も前に。
俺が本当に一人ぼっちだった時。
お前が教えてくれた。



"ねぇ、君。泣いてるだけじゃわかんない。言いたいことがあるならはっきり言いなよ"
"うぐっ…ひぐっ…"

"…はぁ。なーんでさっきいじめられたりしてたの?親なし、とか言われてたっけ"
"――っ!"

"親がいないぐらい何さ。…私にもいないよ親なんて"
"え…?"

"でもこうしてそれなりに図太く生きてる。辛いことも多いけど、だからって泣いてたって仕方ないじゃん。君はそうやってうずくまって、ずっとめそめそするの?"
"……いやだ…"

"あ、なんだしゃべれるじゃん。いやー途中からちょっと自信なくしてたんだけど、よかったよかった。よし、名前は?"
"…ナルト…"

"よしナルト!今日から私と友達になろう!"
"え!?"

"私は小柳リン、もうすぐ6歳よろしく!"
"ふぇ、あ、う、うん…"

"あのねナルト、いいこと教えてあげる。想いは全部、言葉にするんだよ。そしたら絶対伝わるからさ"

だから明日は、あのいじめっこにも言い返してやれ。
『バカにすんな』って。



「…俺あれから、思ってること言えるようになったんだってばよ!そんで結構すっきりするもんだってわかった!」

「"あれ"?」


突然飛んだ話にリンはさらに首を傾げる。
でも勝手に「うん、そっか、よかったよかった」って適当な納得をし始めた。コノヤロウ。


「…うん、やっぱり言葉は、直接伝えるのが一番だよね。あー手紙なんて、らしくないことした!よし、今から私シカマルの前でこれ読んでくるよ!!私のラブと汗とちょっとのヨダレが入り混じったこの手紙を!」

「おー頑張れ」

「まかせろ!」


あいつはバカだ。
どこまでが言ってよくて、どこからが慎むべきかだってわかってない。
とにかく言えばいいって、ただ伝わればいいって、それだけを思ってる。

でもやっぱそれは、異常なほどのまっすぐさ故で。
本当はただ、びっくりするぐらい純真なだけ。




(シカマルはっけーん!さぁ腕を広げて!飛びこむから!)
(マジ来んな)
(照れなくていいよマイダーリン!)
(うぜぇ…!)

純真アブノーマル
(この際潔く受け入れなさい)
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