変態注意報

家を出ると最上さんが玄関のすぐ脇に立っていた。


「おはようシカマル君!今日は火影様に報告書提出に行くんだよね、一緒に行こ!終わったら一緒にお弁当食べようね!」


しかも昨日に引き続きリンのモノマネバージョンだ。
当たり前のように俺の予定を把握しているところなんてストーカーとしてのポイントも高い。忍でもないのにどうやって調べてるんだ。


「最上さん…あんた仕事は?」

「なるべくシカマル君と一緒にいたいからしばらくお休みもらうことにしたよー」

「は…?」

「だってシカマル君には早く元気になってもらいたいもんね」


もう俺はこの人に何をどう言えばいいのかわからなくて、口を開くことを諦めた。
とにかく心底めんどくせー…。



変態注意報 sideシカマル



ついてくるなと何度伝えてもまったく響かず、何食わぬ顔で隣を歩きながら最上さんは一人で何やらしゃべり続けている。
相手は一般人だ、撒く方法も置き去りにする方法もいくらでもあるが、一般人相手だからこそそこまでするのも気が引けた。


「お弁当の中身はなんだと思う?正解はねー、だし巻き玉子!シカマル君好きだよね?」

「………」

「あとねー、きんぴらごぼうとね、なんと!たこさんウィンナーも入ってます!」

「………」

「あ、カニさんウインナーの方がよかったかな?明日はそっちにするね!本当はサバの味噌煮も食べてもらいたいんだけど、お弁当には向かないよね…そうだ!今日の夜うちに食べに来ない?ねぇねぇ」

「…あんたさぁ、そうやって俺に近づいたところで何の意味があるんだ?もし仮に今のあんたに俺が惹かれたとしても、それは本当のあんたじゃないだろ」

「大丈夫!好きになってくれるならずっとこのままでいるよ」


ズレた回答だ。わざとなのか天然なのかもよくわからない。
リンのマネとしてはさっきからずっと大正解だ。
あいつはこういううるさくて自己中な女でまちがいない。
けれどちがう。当たり前の話で、こんなリンみたいなめんどくせー女が増えたところでただただうざいだけだ。
表面をなぞったところで代わりになるわけじゃないのが、皮肉にも俺自身にもよくわかった。


「あ、シカマル君!ちょうどよかった」

「ヒナタ」


懐かしい同期に声をかけられて立ち止まった。
リンとはそれなりに仲がいいみたいだが、俺は普段接点もないし話しかけられることなんてまずないからめずらしい。


「どうしたんだ?」

「あの、これ…さっきリンちゃんのお屋敷の前で拾ったの。たぶんリンちゃんのだと思うんだけど、私は次いつ会えるかわからないから…シカマル君から渡しておいてもらえないかな?」


そう言って差し出されたのは俺とリンが写った一枚の写真だった。
まだ幼いリンは満面の笑顔で、俺はうんざりしたような辛気臭い顔で校舎の前で立っている。
いつどうして撮ったのかも覚えていないが、どうやらアカデミー時代のものらしい。


「…なんで俺が?」

「え?えっと、リンちゃんはシカマル君のおうちに住んでるって聞いたから…シカマル君ならすぐ渡せるかなって…」


少し勘繰ったが、ただただヒナタの情報がどうやらだいぶ遅れてるだけのようだ。
何かまずいことでも言ったか?と不安になっている様子のヒナタに「わるい」と告げた。


「もうリンはうちにはいねぇんだ。それはヒナタから渡してくれるか?…もっとも、あいつにはもう必要ねぇだろうけど」

「え…そうなの?じゃあリンちゃん、もうお屋敷もないのに今はどうしてるの?」

「アパート借りて一人で住んでるよ」


そう答えてからヒナタの言葉が少しひっかかった。
屋敷がない?半焼したのは知ってるが今頃は修繕中じゃないか?それに対して“ない”という言葉を使うのは違和感がある。


「屋敷がないってのはまだ住める状態じゃないって意味か?」

「えっ?う、ううん、住める状態じゃないというか…今はもう撤去作業も終わって完全に更地になってたから…」

「…は?」

「へっ、変なこと言ったかな…?」

「…いや、わりぃ、初耳だったから驚いた…屋敷は修繕するもんだと思ってたから…」

「そうなんだ…私はてっきり、リンちゃんはもうシカマル君のところにお嫁に行って、お屋敷は必要なくなったから取り壊したのかと思ってたよ…」


嫁に来てるわけでもねぇし必要が無くなったわけでもないはずだ。
小柳の名前に拘って、小柳の復興を掲げるならあの屋敷にも拘るもんだと思ってた。
丸ごと建て直すのか?取り壊しはいつ決めたんだ?
それなりの期間一緒に住んでいたのにそんなことも俺は知らないのか。
そんなことを黙って考えていたら、隣の最上さんがむくれた顔で腕を引っ張ってきた。


「ねぇ、もういいー?元カノの話とか正直あんまり聞きたくないんだけど!」

「あ、ごめんなさい。…え?元カノ?シカマル君…えっと、この方は…?」

「シカマル君の今カノのハルカです!」

「い、今カノ…!?」

「ヒナタ…嘘だから真に受けないでくれ…」


リン以外がやるこの手のホラは本気で洒落にならねぇ。
ヒナタの見たこともないようなとんでもねぇ形相に腰抜かすところだった。


「嘘…?」

「今カノになる予定です!」

「これはただのストーカーだ」

「そ、そう…大変だね…」


そうは言いつつも「なんだ、ただのストーカーか」と安心している様子が見て取れた。
俺の周りはストーカーに慣れている。


「けど…ただのストーカーだって、リンちゃんはシカマル君に近づく女の人なんて許さないだろうし…えっと…気をつけてね」

「…あいつはもうこんなこと気にしねぇよ」

「ええ?喧嘩でもしたの…?けどそんな油断してるうちに、ハルカさん殺されちゃうよ…?」


こわ。
ヒナタの中のリンの解釈怖すぎるだろ。

けど心なしか最上さんも若干怯えた顔をしている気がするから、まぁちょうどいい薬にはなったかもしれない。

とりあえずリンとヒナタが普段二人でどんな会話をしてるのか気になった。




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