変態注意報

「え!?今日シカマルも休みなの!?」

「おう」

「じゃあデート行こうよデート!!」


休みだからと贅沢に昼過ぎまで寝て起きたら、部屋着姿のシカマルがいた。
休みが重なるなんて奇跡か。いや、もしかして綱手様のはからいか?
何にせよこのチャンス逃してなるものか!しかし既にこんな時間まで寝てた自分が恨めしい!半日無駄にした!くそ!


「デートって…どこ行くんだよ」

「!」


ドコイクンダヨ?それって、デートしてくれるってこと?



変態注意報 sideリン



うわ、これは、きてる、確実に私の時代きてる!
結局キスのことは放置されてるしシカマルが何考えてんのかもわかんなくて割とびくびくしてたところもあったけど、開き直ってみたらこれはこれでおいしい!
シカマルなりにいろいろ考えてくれた結果がこれだとしたら、本当に私たちあと一歩だと思う!


「ど、どこ行こっか…!見る?なんか見ちゃう?歌舞伎とか?」

「普通デートで見るもんつったら映画とかじゃねぇのか…?」

「映画…!!それ!する!映画デートする!!!」

「じゃあまぁ着替えてくるわ」


すごい、シカマルがこんなに乗り気で私と出かけてくれるなんて…!
すき。すき過ぎる。もしかしたら今日告白とかされるのかもしれない。期待していいかな?いいのかな?いや期待せざるをえなくない?

少し前までの不安なんてどこへやら。
デートに応じてくれたという、それだけで私は幸せの絶頂だった。


だけどそこで、そんな私の幸せを妨害する訪問者が一匹。
コツコツという小さな音が聞こえて振り向くと、真っ黒なカラスが外から窓をつついていた。


「ん?カツキさんのカラスだ」

「あの男の…?」


部屋を出かかっていたシカマルが立ち止まる。声には不信感が滲んでいた。
昨日帰ってくるなり「カツキには気を付けろ」なんて言っていたことといい、二人の間で何があったんだろうか。

とりあえず慌てて歩み寄って窓ガラスを開けると、カラスはひょいと私の肩に乗って来た。
口を見ても足を見ても、特に手紙のようなものはない。カラスも何もしゃべらない。


「なんだろう……ごめんシカマル、よくわかんないんだけど私出るね」


手紙も何もないのにカラスだけが私のところにやって来たなんて、よっぽど緊急のことかもしれない。
何かあったか、先日の復元の際にでも私が何かやらかしてたか…
後者の可能性が非常に高い。

本当はシカマルとのデート以上に大切なことなんてこの世にはないはずなんだけど、さすがにこれを放置するわけにもいかない。
頷くシカマルを見てから、私はとても後ろ髪引かれる思いで家を出た。


それから私はカラスの誘導に従って里内を駆け抜けた。
するとたどり着いたのはおしゃれな雰囲気の喫茶店で、なんでこんなところにと不思議に思いながら中に入った。
見ると、カラスの主人は隅っこの方の席で優雅にコーヒーを飲んでいる。


「カツキさん!どうしたんですか?」

「あ、リン早かったね。ごめんね、やっぱりリンとデートがしたいなと思って呼んじゃった」

「は?」


は、はああ!?
なんっだそれ!カラスなんてシメて今晩のおかずにしてやればよかったわ…!

なんて迷惑な話なの!私これからシカマルとデートだったんですけど!?あなたとデートしてる場合じゃないんですけど!?

…本当はそう文句を言ってからすぐにでも帰りたかった。
けれど、私は何故かこの人に弱い。
いきなり回れ右はさすがにそっけなさすぎるかと、一応カツキさんの向いに座り、ほどなく店員さんが来てオーダーを聞いてくれたのでカフェオレを頼んだ。飲んだら即刻帰ることにしよう。


「あのですねカツキさん…私これでも一応、休みの間はカツキさんの護衛がないから家にいた方がいいのかなとか、結構気を使ってたんですけど…」


だから昨日は一日、修行にも行かずに奈良家でお手伝いをしてたっていうのに。いやまぁそれはそれでいいんだけどさ。無駄ではないんだけど。
とにかく、そんな気苦労も空しく結局一人で里内を走らされるとは、まったくどうなっているんだか。
しかしそれを申し訳なさそうにするわけでもなく、カツキさんは笑顔で言った。


「ああ、ごめんごめん、その護衛の話、嘘だから」

「…は?うそ?」


さすがにそれはどういうことだってばよ。
私に護衛なんて必要ないだろとはずっと思ってたけど、そんな嘘の必要性だってどこにあったんだ。


「なんでわざわざそんなこと…」

「出来るだけリンの傍にいたくてついた嘘なんだ。仕事中だとそんなに話は出来ないし、口説けるのは休憩中と送迎の間ぐらいだと思ったからね」


頭の中で処理しきれない言葉がたくさん並んだ。
…うん、カツキさんは軽い言葉を割とよく言うし、女慣れしてるし、うん、なんというか、そんなこともあるんだろう。本気になんてしないぞ、私はからかわれてるんだ。
よし、カフェオレが来たし、これ飲んで一旦落ち着こう。


「リン、僕と結婚しよう」


ぶーーーー!!!
素でカフェオレを吹いてしまった。

「大丈夫?」と相変わらずにこにこしながらカツキさんはおしぼりでテーブルを拭いてくれる。「ごめんなさい!」と私も慌てて手伝った。

えーっと、あんまりにもさらっとし過ぎていて受け止めきれないけど…今のはプロポーズ…なんだよね…?
この人もさすがに冗談でプロポーズなんてしないのでは?これ本気なのでは?

いやいやいや、そんないきなり!?

好きですとか付き合ってくださいとか順番ってもんがあるでしょうに!
これまでシカマルとの間でいろんなもんをすっ飛ばしてきた私が言えるようなことではないのもわかるけど、それにしても、ただの仕事仲間にいきなりプロポーズて!
しかもあんなに私がシカマル大好きなのを知ってて…?なんと無謀な…!
一体何を考えているんだ…


「いやあのカツキさん、ご存じの通り私にはシカマルが…」

「リンの望みは小柳一族の復興だろ?」

「えっ」


急に斜め上からの質問が降って来たもんだから、すぐには何を言われているのか理解できなかった。


「シカマル君は奈良家の長男だ、彼とでは君の望みは叶わない。だけど僕は協力できるよ。君と共に、必ず小柳を返り咲かせてみせる」


めずらしく真剣な様子のカツキさんは、そう言ってテーブルの上にあった私の手を握った。
…言葉だけ聞くと正直すっごい魅力的だ。

けど私はこの人に、小柳一族の復興について語ったことなんてあっただろうか…

いやでも"小柳の悲劇"について知っている上で、これまで手柄を得よう出世しようと必死だった私を客観的に見ていたら、そういう考えになるのも普通か。

シカマルとでは、復興の願いが叶わないのも事実だ。正真正銘、小柳は私の代で終わる。


「シカマル君でないとだめだなんてことはないはずだ。むしろリンのためにはシカマル君じゃない方が良い。それは君もわかってるだろう」

「うーん、カツキさん、あの…」

「…君は小柳の復興を目指すため、小柳の遺伝子と掛け合わせるに値する優秀な遺伝子を探しているんじゃないのか?」

「!」


どうしてかそれに対して確信を得ているような目が私を貫いていた。
この状況にいろんな意味でどぎまぎしている私を見て、彼は今何を思っているんだろう。
それにしてもちょっと怖いな。なんで、


「僕の優秀さは君も知っている通りだ。僕でも十分合格じゃないかい?」

「…なんでそんなこと…」

「だってそもそも君がシカマル君に近づいたのだって、そういうことだろう?それしか理由が考えられない」


なんで、


「…あはは、すごい。それ言い当てられたの初めてです」


なんでバレてんだろう。


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