変態注意報

「綱手様…なんでシカマルが中忍試験の係なのに私は違うの…?なんでシカマルは砂のくのいちと仲良くお仕事してるの…?私がぜんっぜんシカマルに会えなくて死ぬほど苦しい思いをしてるのは知ってますよね…?ねぇなんで…?私たちを引き離そうとしてるんですか…?そろそろ殴らせてもらっていいですか…?」

「殺気を出すな馬鹿者。お前がとにかく働きたいって言うから優先的に任務を入れてやってたんだろ、恨まれる覚えはないぞ」


二年半ぶりに帰ってきたナルトとの感動の再開もつかの間。
よくわからないまま第七班再結成、懐かしの鈴取り合戦再戦となって不眠不休で夜通し走り回る羽目になった。
そもそも私はあの日で既に三徹目だったというのに。結局四徹目突入となったわけだがそれまでの任務報告書の作成がまだ途中だったため、鈴取り後はそのまま慌てて再開。
それから日付をまたぐ前になんとか出来上がった報告書を手に報告に来た次第だった。


「明日からはしばらく休みをやるから、奈良のガキにでもなんでも好きなだけ会いに行け」

「休み!?ほんと!?やっと!?」

「そんなやっとってほどでもないだろ」

「いやいや私まともな休みもらうのもう半年ぶりとかですけど!ずっと半休ばっかりだったし、その半休も報告書作りとか書庫の結界の確認とかで終わるし…」

「あーすまんすまん泣くな泣くな。お前が働き者で助かってるよ」


こんな健気で働き者な私なのに、今は綱手様的にうざいらしくしっしっと追い払われた。
すごく殴りたい…だけど返り討ちは目に見えている…私は泣く泣く家に帰った。



変態注意報31 sideリン



もうシカマルにはどれぐらい会ってないんだろう。
数えるほどに涙が出てくる。会いたい気持ちはもちろんつのりにつのっていたが、さすがの私も物理的な時間の問題や体力的な問題を看破することはできず、会いに行くことが出来ない日々が続いていた。
かつてシカマルにコレクションのことを怒られたけど、この数か月そのコレクションによって私がどれほど救われてきたことか。コレクションがなければ私はとうに息絶えていただろう。

この日ももうとっくに限界を超えてへとへとで、時間はあれどシカマルに会いに行ける体力も気力もなかった。
仕方がないから私は自作のシカマル人形を数体抱え込んでそれにシカマルの汗の香り香水を振りかけ、風呂にも入らず着替えもせずそのまま布団に倒れ込んだ。
いいんだ、今日はもう。明日こそシカマルに会えるから。
香水の香りを一嗅ぎすると、その癒しのパワーに瞬く間に意識を持ってかれた。


感覚的にそれからそんなに長い時間は経っていなかったと思う。
私は一瞬の殺気を感じ取って、咄嗟に布団から転がり出ながら飛び起きた。
振り下ろされたクナイが私の代わりにシカマル人形に突き刺さる。

まだ部屋の中は真っ暗で目も慣れないままだったけど、続く攻撃もなんとかかわした。
敵は一人。完全に無防備に眠っていた私に殺気を気付かせる程度の実力。大丈夫、問題ない捕まえられる。

それから少し手こずったものの、数分後に私はその敵を捕縛した。
両手両足拘束したそいつを柱に括りつけてから、部屋の明かりをつけてやっと顔を拝む。
見たことあるようなないような、木の葉の忍だった。知り合いではない。


「えっと…?お兄さんなんで私を殺そうと…?」


尋問とかそういう心得がなくて普通に質問した。当たり前だけど答えてくれない。
早々に自分で聞き出すことを諦めた私は、とりあえず誰かに連絡しようと部屋の窓に手をかける。
すると外からとんでもない言葉が聞こえてきた。


「火事だーーー!小柳の屋敷が燃えてるぞーーー!!」

「まじで!?」


私は慌ててそのまま外に飛び出した。
ここから火の手は見えない、どこだ、どこが燃えてるんだ。
屋敷の裏手かと思ってとりあえず屋根の上に飛び上がった。


「うわ!」


確かに屋敷の裏手の方から炎が上がっている。
そして同じように、屋敷の隣の書庫からも火の手が上がっているのが見えた。

私はすぐさま印を組み、屋敷は無視して書庫に向けて自分の使える中で最大の水遁の術を繰り出した。
その間にも書庫は燃え、紙とインクの焼ける臭いが鼻をつく。なおも空気を巻き込みながら大きくなった火は、絶望する私の前でやすやすと空をオレンジ色に染め上げた。

飛んでくる灰のせいで涙を流しながらも、私は必死で消火を続けた。
しかし火は一向に収まらない。この勢いからしてもこれは自然の火ではなく、何かしらの術によるものなのは明らかだった。
だからといって手を止めるわけにもいかなかった。

この書庫は代々小柳が里から任を預かって管理し、守って来たものだ。
私がここで失敗してしまうわけにはいかない。一族の恥さらしだった私が、さらに恥の上塗りなんてするわけにはいかない。

その後徐々に忍たちが駆けつけて、屋敷と書庫共に消火にあたってくれた。
しかしやっとのことで火が消えた時には既に屋敷は半焼、書庫は一部の棟が全焼という散々な有様だった。

私は呆然と、そのまま屋敷の屋根の上に立ち尽くした。


「リン大丈夫か!」


そんな私に、久しく聞いていなかった、愛しくて仕方なかった声が降りかかる。


「え?あ、え、シカマル…?」

「怪我はねぇか!?」

「う、うん、怪我は…特に…」


なんでここに、どうしてシカマルが、しかも明らかに部屋着で、その上裸足で、そんないかにもなりふり構わず急いで来ましたみたいな様子で…

いや、いけない、そんな場合じゃないのについ癖でシカマル観察を行ってしまった。
なんでとかそんなことは今はどうでもいい、今私がしなきゃいけないことは…?


「そうか、無事ならよかった…」

「ぶ、無事じゃないよ!書庫が、しかもよりにもよって第六棟が…!」

「あ?命があっただけよかったと思えば、本なんざどうでもいいだろ」

「ど、どうでもいい…」


そうなのかな、大丈夫なのかな、確かに本はこれからどうとでもなるだろうけど、きっと周囲の小柳の評価は…


「それよりお前、やっぱ血出てんじゃねぇか。隠すな、どこ怪我してんだ」

「してないよ…これはたぶん、返り血…?」

「返り血?だれの」

「…泥棒…?」

「は…?おい、それが放火の犯人なんじゃねぇのか、そいつはどうした」

「え?あ、そうか!えっと、部屋の柱に括りつけてる!」

「でかした、とりあえずそっち行くぞ」


出てきた時のルートをそのまま辿って、私は駆け出した。
せめてなんとか、あの犯人の素性と犯行の目的だけでも割り出さないと…!
そうして焦って窓に飛び込んだ私だったが、それは叶わないとすぐに察した。

捕縛していた男は、既に舌を噛み切って息絶えていた。
拘束した敵に猿轡を噛ませるぐらいのことは基本中の基本だが、私はそれを怠っていた。

書庫およびその蔵書の焼失、犯人と思われる人物の死亡、もう何の弁解の余地もなくすべて私の失態だ。
私はまた故人たちの顔に泥を塗ってしまった。


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