「シカマル!テマリさん!ホラ!誰だと思う!?」
ある日砂の使者のテマリを見送るために里を歩いていると、サクラからそう声をかけられた。
ふと見るとそこには久方ぶりに見る懐かしい顔があった。
「おい!ナルトじゃねーか!」
「シカマル!」
「お前今帰って来たのか?」
「いや昨日帰って来た」
大分身長も伸びて顔つきも変わったそいつを見て、これまでの月日を感じた。
サクラいわく何も変わってないらしいが。
「てかそっちもデートか!?リンが泣くってばよ!」
「そんなんじゃねーよ」
俺は自分が中忍試験の係で、テマリとはその打ち合わせで一緒にいることを説明した。
その際ナルトに中忍試験はどうするのかと尋ね、同期はみんな中忍になっていると言うとナルトは大層驚いていた。
「…ついでといっちゃなんだが、一期上のネジと砂隠れのカンクロウとこの人と、あとリンはもう上忍だ」
「ハァーーーー!?」
「あんたリンのことも知らなかったの?さっきまで一緒に鈴取りしてたのに」
「そんなん誰も言わなかったじゃん!」
「リンと一緒だったのか?」
「ええ、さっきまでね。用があるってすぐにどっか行っちゃったけど。いつも通り忙しそうだわ」
「そうか」
ナルトたちとはそこで別れた。
しばらく歩いてから門のところでテマリのことも見送る。
「お前、私といるのを見たら泣くような女がいるのか?」
別れ際テマリは揶揄う様に笑っていたが、俺は「そんな女いねーよ」と答えた。
変態注意報30 sideシカマルもともとリンは中忍の頃から任務任務と明け暮れるやつだったが、最近上忍に昇格してからはその仕事馬鹿っぷりがさらに加速していた。
かつての行き過ぎた俺へのストーカー行為といい、もともとあれはハマれば一直線なタイプだ。
おかげでここしばらく俺はリンの顔を見ていない。
あれだけほぼ毎日見ていたような顔をぱたりと見なくなったんだ、会いたくないと言えば嘘になる。
だがなんか意地みたいなものと、リンと自分の状況を比べてしまう気持ちも相まって、なかなか俺から足を向けることは出来なかった。
中忍になってすぐの頃そう予感した通り、俺はリンに完全に置いていかれていた。
リンはここ数年で多くの功績を上げて上忍にまでなったが、同じ時期に中忍なった俺はというとまだ中忍のままだし、今は中忍試験の係なんていう雑用でしかない仕事をして里で悠々と暮らしている。他はせいぜい家の手伝いにもよく駆り出されるようになったぐらいだ。
適当に忍者やって適当に稼いで適当に暮らす。
まさに今みたいな人生でよかったはずなのに、なんか今の俺は空っぽだった。
「あー…めんどくせー」
今やっていることも家の適当な使いっぱしりだ。
うちで採れる薬やその材料を木の葉病院まで持って行って薬師に渡す。ただそれだけ。
お前暇だろとか言って最近よく押し付けられる仕事の一つだった。
「最上さん、これ、いつもの」
「シカマル君!どうも、いつもありがとう」
俺はいつも通り病院のカウンター越しに、薬の入った袋を薬師見習いだという女性に渡した。
最近ずっと対応してくれるのはこの人だ。お互い慣れたもんだで短い会話で事足りるのでめんどくさくなくていい。
「じゃ、俺はこれで」
「あ、ちょっと待ってシカマル君!」
「なんすか?」
「あのね、私もう少ししたら今日は上がりなんだけど…一緒に晩御飯、どうかな?」
「は?」
一瞬何を言われているのかわからなかった。
一瞬どころか理解できるまで数秒かかったが、最上さんは辛抱強く黙って待ってくれていた。
「えっと…飯は母ちゃんが作って待ってるんで、すんません」
「そ、そっかそうだよね、引き止めてごめんね、じゃあ…またね」
「また」
俺は軽く会釈をしてからその場を去った。
少しして振り返ると、彼女は恥じらった笑顔で小さく手を振っていた。俺は驚いてとりあえずもう一度頭を下げた。
なんだ?いまの。
自慢じゃないが俺はリン以外にはモテた試しなんてない。
そのリンだってそもそもおかしい。俺はずっとイケてない系だ。
そんな俺にいきなりこんなことがあるか?
いやないだろ。
第一あんな"晩御飯どうかな?"なんて控えめな誘い方でこっちが乗り気になれると思ってるのか、リンだったら"晩御飯食べよう!今日はねー、ラーメンの気分!"とか言って強引に俺をラーメン屋引きずっていくぐらいするぞ。
あと母ちゃんが作ってるって言ったぐらいで諦めるのもどうなんだ、リンだったら"あ、じゃあ私の分もお願いできないか聞いてみる!"ぐらい言って食い下がるだろう。
しかも最後、なんだあの恥じらった笑顔と控えめな手の振り方は。俺に手を振るのは恥ずかしいことなのか、俺の視力が悪かったらどうすんだ、リンだったらもっと堂々と人目を気にせずぶんぶん振るぞ。
…いや最上さんが普通だわ。
だめだ俺の中の女の常識がリンで塗り替えられかけている、待て待て違うぞ、あいつは異常なんだ。
だったら…つまり、なんだ、あれか、最上さんはやっぱり多少なりそういう気があったってことか…?
まさか。いやでもそうじゃなきゃただおつかいで薬持ってくるだけのよく知らん男を飯に誘ったりすることもないだろう。
いやまぁだからこそなんでだってところもあるんだが。
そうか…リンが頭のおかしいやつだから俺なんかをずっと好き好き言ってんのかと思ってたけど、俺みたいなのが対象になる人間も一定数はいるもんなのか。
思ってもみなかったし今のところそんなに浮かれるようなことでもなかったが、当然わるい気はしなかった。
俺の意思に関係なく今までずっとリンが傍にいたから、良くも悪くもリン以外の女っていうのはあまり見たことがなかった。
リンの視野が狭すぎるのは言わずもがなだが、思えば俺だってそうだった。
こうやって今距離があるのはいい機会かもしれない。
この間に視野を広げてみれば、これまでとは違った世界がちゃんと見えるはずだ。
リンと会わなくなって以来ずっと空っぽだった場所に何かが埋まった気がして、この日の俺は上機嫌だった。
久しぶりに飯が美味しかったし風呂も最高に気持ちよかった。
リンにはまだ当分会わないことにしよう。
俺に会わないこの期間は視野狭窄的なリンにとってもいい機会になっているはずだ。
と、そんなことを考えながら俺は久し振りに落ち着いた気持ちで眠りについた。
それからどれぐらい寝たのかはわからない。
俺は誰かが部屋の前にやってきた気配で目が覚めた。辺りはまだ真っ暗だ。
「おいシカマル」
「親父…?なんだよこんな時間に…」
「リンちゃんの家が放火にあったらしい。消火のための水遁遣いは既に着いているようだが、俺にも捜査のために要請があった。お前も―――」
親父の言葉を最後まで聞くことなく、俺は家を飛び出していた。
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