ティッシュだの空気だの本気でどうするのか気になるが、やっぱり聞きたくない思いの方が強かった。
いろいろ想像はできるがどれにしろぞっとする。
「…俺はもしかしたら相当な物好きか、実は変な性癖でも持ってんのかと思ってたんだけどよ…やっぱそんなことはねぇわ」
「なに?なんの話?」
「お前みたいな変態にゃ俺はついてけねーって話。もう帰れ。俺は寝る」
「えっじゃあ私も一緒に寝るー!」
「来んな馬鹿帰れ」
変態注意報28 side シカマル投げ捨てようが蹴り落とそうがしつこく這い上がってきやがるから、俺は仕方なくそのままリンとベッドに入った。
「なんなのあんたは何がしたいの?リンの想いに答えるわけでも突き放すわけでもなしに、中途半端にしたまんまで!そういうのが一番残酷だってわかんないの!?」ふと先日のいのの言葉を思い出す。
こんなとこ見られたらまたうるさく言われるんだろうな。
「…お前さ…」
「ん?」
「もし仮にだぞ?ほんとにありえねぇけどすげぇなんらかの事故とかがあって不本意だがもし俺とリンが将来結婚するようなことがあったとして、正式に夫婦になって一緒に住むようになったりしても、お前はそうやって俺の使用済みティッシュを集めたり空気をジップロックに保存したりすんのか?」
「え?!なんて?!結婚して夫婦になって一緒に住もう?!」
「脳みそだけじゃなくて耳までイカレてんのか」
ごく至近距離で興奮した声を上げられて俺は耳をおさえた。
もういい、と答えて背を向ける。その背中にリンはぴったりと張り付いてきた。
「んー…どうなんだろう…実際のシカマルがいるなら大丈夫かな…」
「聞こえてんじゃねぇか…」
「けど一緒に住むにしても任務とかで会えない日もあるんだろうし、そういう時は…やっぱりシカマルグッズがないと困るかも…」
「困る?…お前、ただの趣味でコレクションしてるわけじゃねぇのか」
「…え、そりゃあ、まぁ…趣味というより、実用に駆られて」
実用に駆られるってなんだ。下手すればただの趣味よりたちがわるい。
かといってこれ以上言い合いをする気にもなれず黙っていると、後ろでリンがきゅっと服を掴んできた。
「だって…寂しいから…」
つぶやくように告げられたその言葉に、一瞬心がざわめいた。
「…もともと本家のみんなが住んでいた家だから、、私一人で住むには大きすぎるの。シカマルコレクション部屋に今八部屋使ってるとはいえ、屋敷面積的にいえば私が使ってるスペースなんて全体の三分の一程度しかないぐらいだし…」
ちょっと待て。
途中までは雰囲気にのまれて若干許してしまいそうな自分がいたが、コレクション部屋が八部屋というところで現実に引き戻された。
八部屋分も何を作りやがった、何を集めやがった。
こいつ…ゴミ箱を漁ったのは絶対初犯じゃないな。
「いつも思うよ。あと何部屋シカマルで埋めれば私は満たされるんだろうって」
「馬鹿か。あの家出て、もうちょっと身の丈にあったところで暮らせばいいじゃねぇか。あんな広い場所に一人でいりゃあ寂しくなんのも当然だ」
「うーん、うちの隣に書庫があるの知ってるでしょ?あれを守るのも小柳一族の使命なの。だから私はあそこを離れられないんだ」
言わんとすることはもっともらしくも聞こえる。
だがこいつがその小柳の使命とやらを背負う必要があるのか。もう既に滅んだ一族だとさえ言われているのに。
そう言いたい気持ちは山々だったが、俺はこいつの一族についてなんてほとんど知らない。滅多なことは口にできなかった。
「…それで被害に遭う俺の身にもなれよな」
「じゃあシカマルうちで一緒に住も?」
「ざけんな。とにかくお前もうゴミだの髪だの空気だの、気持ち悪ぃもん集めようとするのはやめろ。じゃねぇと今後本気でお前と口きかねぇ」
「う…」
「代わりに…今なんでも欲しいもん一個やるから、それで我慢しろ」
「…なんでも?」
「ああ」
心底俺はリンに甘いな。
こういうのがよくないのは自分でもわかるが、どうにも厳しくしきれない。
いつだってそうだった。リンが寂しがっていたり悲しがっていたりすると、俺はそれを放置できない。
今こいつなら何を欲しがるだろう。
俺の服や下着という線が濃厚か。俺の歯ブラシとかこの枕っていうのもありえる。
…あ、ちがう。こういう時こいつは…
「じゃあシカマルが欲しい」
「…言うと思った」
俺は体勢を入れ替えてリンに向き直る。
闇に慣れた目は、思いのほか切なげな微笑みを浮かべるリンを映し出した。
「なんなのあんたは何がしたいの?リンの想いに応えるわけでも突き放すわけでもなしに、中途半端にしたまんまで!そういうのが一番残酷だってわかんないの!?」もう一度いのの言葉が頭をよぎる。
今これに応えられない場合は、突き放すしかないのか?
なんでそんな選択肢しかないんだ。そんなのはこいつも俺も望んじゃいないのに。
どんだけリンのストーカーにうんざりしようと、変態行為にドン引きしようと、そんなとことは関係なしに俺の中で、リンが大切な存在、なくてはならない存在になっているのはもう否定しようがない。
だけどそれは、好きかそうじゃないかとか、そんなどちらかしかないような極端な世界の話なのだろうか。
本当に俺たちの間にはそれしかないのか。必ずどちらかを選ばなければならないのか。
俺にはまだわからない。
受け入れるには俺は正常すぎるし、突き放すにはもう俺の中でリンの存在がでかすぎる。
俺はゆっくりとリンの首筋の後ろに手を回して、自分の胸に控えめに抱え込んだ。
「…今はこれで勘弁しろ」
リンの想いの上に胡坐をかいて…それがどれだけリンを傷つけているのかなんて、実際のところ俺には検討もつかない。
だがもう少しだけ許してほしい。
どちらにしろ半端な判断をすれば、よりお前を傷つけることになるだろうから。
「…ふふ、わかった!」
リンはそのまま俺の腰に手を回して嬉しそうに笑った。
…俺には十分こいつが幸せそうに見えるけど、本当にこのままじゃダメなんだろうか。
自主規制を身につけろ(とりあえずそう言っても意味はないんだろうな)[*prev] [next#]
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