腕も無事完治してようやく明日から任務に復帰できるぞという日の深夜、私はシカマルの部屋に忍び込んでいた。
腕が使えない間はシカマルにお世話され放題甘え放題の私かと思えたが、生憎シカマルの方が任務で忙しく、結局これまで会えない日々が続いてしまった。
今日もシカマルは里外で任務だ。仕入れた情報によると帰りは明け方になるらしい。
その頃は私も出発準備で忙しくなっているだろう。またすれ違いになってしまう。
だけど私はもう耐えられなかった。限界だったんだ。
そもそもシカマルが悪い。あんな風に急に手出してきたり夜通し傍にいてくれちゃったりしてさ、そんなことされたら味を占めちゃうじゃないか。
それなのにここ数日は触るどころか見ることも声を聞くことも出来ないときた。こんなひどいお預け状態はもう我慢ならない。
会うことは仕方がないから諦めよう。
ただ、シカマルのフレッシュな匂いが嗅ぎたい。
私はシカマルのベッドの上に飛び込んだ。
変態注意報27 side リンシカマルの枕に顔をうずめて肺いっぱいに空気を吸い込む。
幸せの匂いがした。
シカマルの部屋にいるというだけでもちろんシカマルの匂いはするし十分幸せなんだけど、このポジションはまた別格だ。
この匂いを自分の家にいても堪能できるようにしたい。最近シカマルの汗の香りはなんとか作ることに成功したんだけど、このシカマル本来の匂いというのを再現することは未だに叶っていない。
どうすればいいんだろう。研究しようにも枕を持ち帰ったらさすがにバレる。バレたら怒られるから嫌だ。
とりあえず苦肉の策で、私は持ってきていたジップロックの袋を開けてその口を持って振り回し、パンパンになるように部屋の空気を入れてから念入りに口を閉めた。
とりあえずここに香りを閉じ込められているのか、帰ってからまた確認しよう。
さて次は…ごみ箱漁ろう。
私がこうやってたまに部屋に忍び込んでいるのはシカマルも気付いているみたいだけど、さすがの彼も私が部屋のごみ箱まで漁っていることは知らないだろう。
私だってこれが相当やばい行為なのは理解しているのだ。だからバレないように細心の注意を払っている。
持ち帰るものは一回につき三個までだ。
シカマルのごみ箱の中身は毎回、ほとんどが何らかのメモや書き損じた書類、お菓子の包み紙などだが、たまに使用済みティッシュが入っていたりする。
それが当たりだ。
使用済み割りばしやストローなんかも大当たりだけど、部屋のごみ箱の中にそれがあるのはかなりのレアケース。そういったものは大体出先でこっそり集める。
お、今日は当たりが二つもある!ラッキー!帰ったらコレクションに加えよう…
私は今日二つ目のジップロックを開けて、中に今日の戦利品を仕舞った。
その時、
スパンッッ!!!
飛び上がってしまうぐらい乱暴な音と共に、部屋の襖が開かれた。
し、しまった、浮かれ過ぎてて人の気配に気づかなかった…!
いやけど、うそ、やった、やっと…会えた…!
私は感動で胸がいっぱいになりながら、手を広げて彼に駆け寄った。
「シカマル!おかえり!早く帰れたんだね、ずっと会いたかっ―――」
張っ倒された。
「ひどい!平手打ち!DV!でもそんな男らしいところも好き!」
「何してんだてめぇは!勝手に部屋に入るんじゃねぇって何度言やわかるんだ!」
「大丈夫エロ本探したりとかはしてないし安心して!」
「ねぇわざけんな!」
任務から帰ってきたばかりで疲れてるだろうに、シカマルはとても元気だった。
よかった、特に怪我もなさそうだし安心した。
「ごめんね私、シカマルがどうしても恋しくて…明日からまた私も任務だし…生きて帰ってまたシカマルに会える保障なんて、なかったから…」
「…明日からの任務、そんなにやべぇのか」
「ううん普通にC級」
「なんなんだよもう帰れ!」
そう言うとシカマルは盛大なため息をつきながら、私を通り過ぎてベッドに腰掛けた。
やっぱり疲れてることは疲れてるんだろうな。負担になっても悪いから今日のところは大人しく、一回シカマルに抱き着いて充電できたら帰ろう。
「あ?なんだこれ」
「あ」
部屋の空気を詰めたジップロックをベッドの上に置きっぱなしにしてしまっていた。
シカマルはそれを摘みあげて訝し気に中を確認している。
どうしよう、なんと言ったものか、空気って言ったら怒るんだろうか。いやでも空気だしな。タダだし。いっぱいあるし、いいよね。
「部屋の空気つめたの」
パアアン
瞬時にシカマルに押しつぶされたジップロックは乾いた音を立てて破裂した。
だ、だめなのか…空気…
「…おい」
「…はい」
「それは?」
完全に据わった目をするようになった彼は、あごでくいと私が手にしたままだったジップロックを指し示した。
やべ、これも忘れてた。ティッシュは絶対怒る。空気で怒るならティッシュはもはやしばらく口聞いてもらえなくなる。
慌てて背中に隠したが時既に遅し。
私が適当に誤魔化す前に「ティッ…シュ…?」と彼は呟いた。
「おい」
「…はい」
「そんなもん持ち帰ってどうすんだ」
「食べる」
「ひっ…」
「ごめんさすがに冗談」
次の瞬間シカマルの背負い投げが決まった。
(やば…シカマルに背負い投げしてもらえるなんて…も、もっかいもっかい!)
(喜ぶな馬鹿!)
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