変態注意報

「そんでね、シカマルその時どうしたと思う!?」
「え、どうしたの?」
「なんとほんとに私の帯ほどいてきたの!しゅるって!」
「「ええー!?」」
「でしょ?びびるでしょ?でさ、私つい咄嗟に逃げちゃったのね、そしたらシカマル…私のこと抱きしめて、"隅から隅まできれいにしてやるよ"って!!!」
「「きゃーーーーー!!!!」」


うそでしょ?また全部あんたの妄想なんでしょ?とサクラと二人で疑ってかかったけど、リンいわく今回はガチらしい。
その日の女子会は大盛り上がりだった。



変態注意報26 side いの



「って話だったんだけど結局どこまでが本当なのよ?」
「…いの、あいつの話はまじで信じるな」
「わかってるわよ、だからこうして確認してんじゃない」


久しぶりのアスマ班での任務を終えて、用があると言って先に帰ったアスマ先生を除いた私とシカマルとチョウジでご飯を食べながら、私は先日リンとサクラと開催した女子会を思い出していた。
リンは全部本当だって言ってたけど、やっぱり正直疑わしい。リンが嘘つきだとかいうわけではないけど、あの子はたまに本気で妄想と現実の区別がついていない時がある。

それでシカマルに確認してみたんだけど、シカマルの反応を見ると今回は本当にガチかもしれないと思うようになった。
口では今信じるななんて言ったけど、実際はめずらしく顔を真っ赤にしながら頭を抱えている。チョウジと私は目を丸くしながら思わず顔を合わせた。
え、まじでか。


「え、え…?」
「…きれいにしてやる、とは、言ってねぇ…」


そこだけ?近しいことは言ったの?


「まじでー!?」


頭いいくせにこういうことに関しては嘘がつけないシカマル。
にやつく私を赤い顔で疎ましそうににらみつけるくせに、それ以上否定はしてこなかった。

こいつら二人に関してはいつくっつくのかとアカデミー時代からずっと見てきたけど、ついにこの時が。
リンが無理やり押し倒してゴールインかと思ってたけど、まさかシカマルの方から手を出すなんてね…


「それでシカマル、ちゃんとリンに好きだって言えたの?」


同じくアカデミーから見守ってきたチョウジがにこにこと嬉しそうに尋ねた。
私たちはまたシカマルの照れ顔が返ってくると思っていた。けれど想像とは違い、シカマルは急に訝し気な顔をする。


「あ?んだそれ、なんでそんな話になるんだよ…」
「は?…え?あんたら付き合ってんのよね?」
「付き合ってねーよ」
「付き合ってねー!?なに!?つまりどういうこと!?体だけってこと!?」
「はあ!?」


付き合ってないのに?代わりに買い物してあげて?ごはんあーんしてあげて?服脱がせて?一緒にお風呂?


「一緒に風呂はしてねぇ!」
「十分よあんた何してんの?それって異常でしょわかる?あんた私が服脱がせてって言ったら脱がせるの!?」
「い、いの落ち着いて…」


興奮のあまり私はテーブルの上の食事をひっくり返す勢いで、向かいに座るシカマルの胸倉を掴みあげていた。
落ち着けって言ったって、こいつのこの態度はあんまりにもあんまりでしょ。
リンはそりゃアプローチの方法はずれてたけど、シカマルへの想いはずっと真剣だったし、それがわからないはずないのにシカマルはいつまでもそれを放置して、今回も期待だけ持たせてどうするつもり?


「ったく、女は群れると特にめんどくせぇ…」
「女はとかそういう問題じゃないでしょあんたいい加減にしなさいよ!」
「いのってば、ちょっと落ち着こうよ」
「なんなのあんたは何がしたいの?リンの想いに答えるわけでも突き放すわけでもなしに、中途半端にしたまんまで!そういうのが一番残酷だってわかんないの!?」
「確かに今回必要以上に世話焼いたのは反省してるし、現在進行形でめちゃくちゃ後悔してる。けどそもそも異常なのはあいつであって俺じゃねぇし。大体お前のその普通の女はって感じの考え押し付けんなよ。あいつは普通じゃねぇんだから」


言い訳は理解したけどまったくもって納得できないわ。
リンが異常なのも普通じゃないのもわかる。それは知ってる。けど言ったって、普通に恋する女の子なのよ。シカマルのしてることはその気持ちを弄んでるのも同義。
女の敵としてぶん殴ってやろうと思ったけど、チョウジに半ば無理やり抑え込まれてしまった。


「ねぇシカマル、実際シカマルはリンのことどう思ってるのさ?」


チョウジの言葉には何も棘がなかった。
リン贔屓な私と違って、チョウジはあくまでシカマルに寄り添おうとしていた。


「…別に、俺は…」
「俺は、シカマルはリンのこと好きなんだと思うな。アカデミーの頃からずっと」
「…前にもそれ言われたことあったっけ。なんでお前はそう思うんだよ」
「うーん。シカマルがリンのことを特別扱いするから、かな」


シカマルの戸惑いを含んだ瞳がチョウジを見る。
私はまさかまだそんな段階だったとはと、怒りも呆れも通り越して愕然としていた。
今更「どう思ってるか」って?なにそれ?しかも「別に」って何?こいつまだアカデミー通ってるガキだったっけ?あれ?この前中忍になったの誰だったっけ?

すごく馬鹿らしくなってきた。デザート注文しよ。


「特別扱いっつったって、だからそれはあいつがおかしいから…」
「それでも、特別には違いないんでしょ?自分でもわかってるでしょうに。なんで好きだって認めらんないのよ」


私がオレンジシャーベットを注文すると、チョウジもチョコレートパフェを注文した。
そんな私たちを横目に見て、シカマルは吐き捨てるように言う。


「…普通好きになんかなんねーだろあんな変態」


…あー。なんとなくわかってきたわ。


「お前らは知らねぇだろうけど…あいつ未だに俺の部屋に忍び込んで落ちてる髪の毛集めたりしてんだぜ。あと自作した俺の人形とか盗撮した写真とか自分の部屋に飾ってたりするし、他にも―――」
「知ってるわよ。毛が結構集まったからそれでカツラ作ったってのも、人形は最近ちょうど百体目になったってのも、あとシカマルの汗の臭いの香水の発明に成功したってのも。他にも―――」
「待て。もういい。やめろ。やめてくれ知りたくない」


ふん。私の方が上手だったようね。
隣では何も知らなかったチョウジが本気でドン引いていた。


「とにかく、わかるだろ。そんな変態を好きになるような奴はいねぇ」
「そうね、普通ならね。だから、あんたも普通じゃないんじゃない?」
「っ…」


気持ちはわからないでもない。
リンは里でも有名な馬鹿で変態で、普通、そんな変態に付きまとわれたらうんざりするし、好意なんて抱かない。ていうか私だったら半殺しにでもして金輪際私に近づけないようにする。
だからまさかそれが好きだなんてなったら、自分を疑うし悩むだろう。自分が普通じゃないだなんて認めるのも難しい。

けど好きになっちゃったなら仕方ないでしょう。第一リンだし。仕方ないじゃない。あの子は間違いなく変だけど、幸いなことにいい子だから。
そこらへん腹括れないなら男じゃないわ。


「自信持ちなさいよ。あんたは十分どっからどう見ても、変態好きなド変態よ」


運ばれてきたシャーベットを口に含む。冷たい甘酸っぱさが心地よく広がった。



変態はお前だ
(お似合いなようでよかったわ)
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