変態注意報

片手じゃいろいろ不便だろうと、雨の中結局シカマルがまた買い物に行ってくれて、なんとごはんまで作ってくれた。
正直そんなに上手ではなかったけど、愛があるからその分ちゃんと美味しい。


「左手じゃやっぱり食べづらいなー、あーんしてほしいなー」


無言であつあつのみそ汁をぶち込まれた。



変態注意報25 side リン



そうだ、私ほんとに馬鹿だったな、利き手がこんな状態なんだ、今の私は合法的に甘え放題な無敵女子。
みそ汁ふーふーはしてくれなかったとは言え一応あーんしてくれたシカマルはおそらく今日比較的やさしいし、チャンスだ。私は今日天下をとる。


「シカマルー私お風呂入りたいなぁ」
「わかった。じゃあ俺は帰るわ」
「ちょいちょいちょーい。いやいやわかるじゃん、私一人で入るの大変じゃん」
「…はぁ。サクラかいの呼んでくる」
「えーやだやだやだシカマルー!シカマルじゃないとやだー!」
「あーうるせぇどうしろっつーんだよ!」
「脱がせてっ。それで私の体の隅から隅まできれいにしてっ」


どうせそんなのしてくれないのはわかってる。
だけど言うだけ言ってその反応を楽しむのもいいものだ。

シカマル自身も私がそうやって楽しんでいるのを知っているから不機嫌になる。
むすっとした彼の顔を私はにまにまと眺めた。
するとシカマルは一瞬何かを考えるような顔をしてから、ふと真顔でこちらを見ると無言で私の着物の帯に手を伸ばしてきた。


「え、え!?」
「脱がせてほしいんだろ?」


ゆるく結んでいた帯はしゅるりと簡単にとけ、そのまま足元に落ちた。
きゃー!きゃー!きゃー!私は思わず左手で着物の前を合わせて掴む。


「な、う、あ、ありがとう!もういいよ!」


まさかほんとに脱がされると思わなかった私はパニックで、そのまま勢いで浴室に逃げようとした。
しかしそんな私をシカマルが後ろから抱き留めた。首にその吐息がかかって、肌が粟立つ。


「おい、まだだろ」
「え」
「隅から隅まできれいにして…だったか?」


自分の台詞を返されただけなのに、私は恥ずかしさで死ぬ思いがした。
くそ、まさかこんな反撃に出られるなんて…!あの奥手のシカマルが、こんな…!うれしいような悔しいような…いや、でもここは素直になっておく方が絶対得策…!


「や、やさしくしてね…」
「うるせぇ早く入ってこい」


結局風呂場に投げ捨てられた。

なんだよ!やるなら最後までやりきれよ!どうするんだよこの中途半端な状態の私!
しかし直接文句を言う勇気はなく、左手でなんとか包帯の上に専用のカバーをつけると大人しくシャワーを浴び始めた。
まぁなんかちょっと得したのは事実だし、今日はこれぐらいで十分かな。
今頃はシカマルの方も恥ずかしさにもだえ苦しんでいるだろうし。


「あー忘れてた!シカマル、私が出てきた後に着る用にパジャマとパンツ出しといてー!」
「はあー?」
「どっちも箪笥の中に入ってるからーおねがーい。出てすぐパジャマ着ないと風邪引いちゃーう」


数秒後、盛大な舌打ちが聞こえてきた。
考えた末にパンツ探しを了承してくれだようだ。
シカマルどのパンツ選んでくるだろう…やばいかなりドキドキする。


「…あー…」


なんかこんなに楽しいの久しぶりだな。
いいんだろうか、って気がしてきてしまう。
サスケはきっとすごく苦しんでるのに、私はこんなことしてていいのかな。

やっぱり考える時間ができてしまうとだめだ。もやもやが戻ってくる。
気持ち悪くなってきて、私は早々に浴室を出た。
洗濯機の上にパジャマとパンツが置かれている。…水色か…。

四苦八苦しながら片手でなんとかそれらを着て居間に向かう。
シカマルは机の前に座って、何やら折りたたまれた白い半紙を眺めていた。


「なにそれ?」
「…箪笥の引き出しの裏に張り付けてあったのを、たまたまみつけた」
「は…?」


渡された半紙を広げる。それは真っ白な紙に数行文字が綴られただけの、簡素な手紙だった。
シカマル以外で、私の部屋に来た事があるのはあいつしかいない。筆跡だって小さいころから見慣れたそれだ。


「なんで…あのばか…」


別れの言葉と感謝の言葉と、最後に一言"お前だけは幸せになれ"と綴られたそれは容易に私の涙腺を崩壊させた。

だけは、ってなに、なんでサスケは幸せになる気がないの。
確かに私はサクラのように、私も連れて行ってとは言えなかっただろう。サスケを幸せにできるのは私じゃなかっただろう。それでも……

…いや、だからか。そうか、そうなんだ。

わざわざ私が出る前日なんかに会いに来て、直接は何も言ってくれなくて、そんないつ気付くかわからないようなところに手紙仕込んだりして。
仕返しのつもりかな、今までずっと気付かなかった私への。


「ほんと…いじわるだなぁ…」


その晩私は申し訳なさと後悔と、手紙を残してくれた嬉しさでぐちゃぐちゃになりながら泣き通した。
その間シカマルは黙ってずっと傍にいてくれた。


散々泣いた後に見たこの日の朝日は感動するぐらいまぶしくて、どこかでサスケも見ているといいなぁなんて思った。

頭にかかったもやもやは晴れ、気持ちはもう前を向いていた。



堂々とした不届き者
(許してくれなくていい。私も許さないから)

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