変態注意報

ナルトがネジに勝ったりめんどくせー任務させられたり木の葉崩しが起こったりといろいろあった本試験。
そのいろいろの末中忍試験が終わった。

けれど本当は、いろいろなんて言葉で片付けられるほど現実は甘くはなく。
木の葉が受けた被害は絶大だった。
その一つが、三代目火影の死。


「………」
「………」
「………」


里の人間総出での追悼式は小さな嗚咽と沈黙とで噎せ返っていて、それが耳に痛いと思った。
時々聞こえる泣き声は、どこぞの子供のもんだろう。忍は涙を見せたりしない。

だが、泣いてくれた方がいっそどれだけ楽だろうと、俺は自分の隣に立つリンを横目で見ながら思う。
顔には一切血の気がなく、虚ろな目はどこを見ているのかもわからない。
火影という人物がこいつの中でいかほどの存在だったのかは知らないが、この様子を見る限り、よっぽどだ。
これはまるで、本当の家族が死んだかのような…



変態注意報22 side シカマル



「おいリン、いつまでこんなとこにいるつもりだよ」
「………」
「リン…」


追悼式は何事もなく終わった。
朝から重い雲がかかっていた空はそろそろ本格的に泣きだしそうになり、周りにはもうほとんど人の姿はない。

そんな状況になっても、リンは三代目の遺影の前から動かなかった。
俺の言葉にも、何一つ返してきやしない。


「…雨だ」
「あ?あ、ああ、そうだな」


ぽつりと唐突に呟かれた言葉を、なんとかギリギリ拾った。
はじめはポツポツと静かに降り始めた雨も、すぐに地面を叩くような土砂降りになる。
それでもリンは動かない。そして俺も、動かなかった。


「…やっと降った…」
「…え?」


その瞬間、ツーと、リンの頬を涙が伝ったのを見た。


「…リン」
「…何」
「泣いてんのか」
「泣いてなんかないよ」
「泣いてんじゃねぇか」
「違うよ雨だよ」
「…なんで隠す」
「…忍は泣かない」


周りはどしゃぶり。
もう、それが涙なのか雨なのかはわからない。

でも俺はそれを涙だと信じていたかった。
こんなにも辛そうなこいつが、忍であるが故に泣けないなどとは思いたくなかった。


「リン…」
「…っ泣かないよ…!私がこんなとこで泣いちゃったりしたら、じいちゃん安心して逝けないじゃんか…!」


だから泣いてない。
頑なに、その言葉を変えないリン。
俺は黙って目を伏せた。


「…親しかったのか、三代目と」
「…早くに親を亡くした私の、親代りをずっとしてくれていたの。じいちゃんは私を学校に行かせてくれたし、いろんな話聞かせてくれたし、寂しい時は傍にいてくれたし、それに…それに…」
「…っ、わかった、わるかった、無理してしゃべるな」


もういい。もういいから。
俺は震えるリンの身体を抱きしめた。ほんのわずかに、すすり泣く声が聞こえる。


「私、わたしっ…何もできなかった…!じいちゃんが結界の中に捕らわれている間も、ただ外で見ていることしかできなかった…!」
「リン…」
「私…もっと強くなりたい…もっと、もっと…!」


リンが噛みしめた下唇から血が滲み始める。

それはリンが初めて俺に見せた弱さだった。
守ってやりたいと、素直にそう思った。強くあろうとする、このか弱い存在を。

打ちつける雨がただただ冷たかった。




「今後はより一層、その額当てに恥じない活躍を見せてくれ。おめでとう、今日からお前たちは中忍だ」

後に、俺たち二人は新たな火影から中忍の称号を与えられた。


「やったねシカマル」
「…めんどくせー」


俺だけ合格ならよかったのに。
俺はお前を守るということの難しさを知った。

お前はきっと、まだまだ上に行き続ける。
そうして俺から遠ざかるんじゃないか。

動力は君
(頼むから置いていくなよ。)

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