変態注意報

チームを組んで、何度も感じたことがある。
小柳の末裔はつくづく変な子だと。

彼女の持っている感覚≠ニいうものは、いつも周りとは異なっていた。



変態注意報21 side カカシ



第三の試験本戦まで、一ヶ月間の準備期間が与えられる。
各々休暇に使ったり修行をしたりと、受験生の過ごし方はそれぞれだ。

そんな中、俺がこれまた一ヶ月後に試験を控えた小柳リンの姿を見つけたのは、太陽がちょうど真上に上った頃。
ぷかんと死んだように川に浮かぶそれは、ちょっぴりホラーだった。


「何してんの?」
「別に何もー」


仰向けで川を漂うリン。
言葉の通り、浮いている以外は何をしているわけでもなさそうだ。


「修行?」
「んーん。息抜き」
「変わった息抜きの方法だーね」
「そう?気持ちいいですよ、こうやって空見ながらぼーっとしてるの。せんせーも一緒にどうですか?」
「遠慮しとくよ。邪魔しちゃって悪いけどとにかくいい加減服着てくれない?」
「カカシせんせってば、興奮しちゃう?」
「殴るぞおバカ。女の子としての恥じらいをもう少しは持ちなさい」
「シカマルにはあるんですけどねー…」


ぶちぶちと文句を言いながらリンは気だるげに水から上がると、体を拭きもせずにそこらへんの木に掛けていた着物に袖を通し始めた。
俺はその様子を見てため息をつくと、これまたそこらへんの木にかかっていた手拭を取って彼女の頭をがしがしと拭く。


「ちゃんと体も拭かないと風邪引くデショ」
「はーい」


返事だけはいい子のお返事だけど俺から手拭を受け取ろうとはしなかった。
拭け、ということらしい。この子なんでこんなに俺のこと舐めてんの。


「ところでせんせー何か用ですか?」
「ん?俺のかわいい生徒の様子を見に来たんだよ、どう?一ヶ月間師匠になってくれそうな人はみつかった?」


俺の質問にリンは「んーん」と首を横に振った。
ナルトは自来也さんの元で修行についてる。サスケは俺のところだ。
他の本選出場者たちもそれぞれ親だの何だのの元で修行をする。けどリンにはそれがなかった。
俺が引き受けてやれればよかったんだけど、さすがにいっぺんに二人はしんどいしサスケが身につけるべきものとリンが身につけるべきものは違いすぎる。
だから自分にとって必要なことが学べる師を探せとリンには言ってあったんだけど…やっぱり自力で探し出すってのには無理があったかな。


「んー…俺も一応いろいろあたってはみたけど、なかなかねぇ…」
「いいですよ別に、私一人で」
「そんなわけにはいかないだろ。強くなるにはやっぱり師が必要だよ」
「えー…なんか今更だしめんどくさい…」


…なんかこいつシカマルって子に似てきたな。かわいくない。


「ずっと一人でやってきたもん。別にこれからも一人でいいよ」
「…ナルトはナルトで修行をしてる。普段みたいに組み手はしてもらえないぞ?」
「…………」
「サクラぐらいのレベルじゃお前にとってはもう相手にならないから、修行はお前のためにはならなくなる。シカマルやキバなんかの特殊な術を特化させたタイプの連中はお前のスタイルと違いすぎて参考にはならない。今のリンがもう一皮向けるにはやっぱり上忍か、せめて中忍の―――」
「わかったわかったわかりまーしーた!修行みてくれる人探せばいいんでしょ探せば!」
「よろしい」


やっぱ本気で探してなかったなこのやろう。
手拭を頭に乗せたままかわいく睨んでくるリンににっこりと笑みを向けてから、さらにがしがしと頭を拭いてやった。
「いたいいたいいたい!」お前はやれば出来る子だって俺は知ってんだからね、ちゃんとやりなさい。


「ていうかせんせー…」
「なに?」
「サスケってちゃんと元気なの?なんか家帰ってないみたいだけど…」


そうか、そういやこの子らは幼馴染だったっけ。
俺はそこらの岩に腰掛けて、とりあえずサクラやナルトにでも話せるラインまでの話をリンにしてやった。
とにかく人の話を半分ぐらいしか聞かない性質のこの子にしてはかなり真面目に話を聞いていたように思う。


「…せんせー肝心なことなんも話しませんね」
「ん?そう?」
「ま、とりあえず元気にしてんならいっか」


本当にそう思ってるのかどうなんだか、リンは曖昧な笑顔を見せた。


「大蛇丸のこともじゅいんのこともうちの書庫でいろいろ調べました」
「………」


その割に呪印の漢字は使えないんだな…


「サスケが今どういう状況にいるのかはわかってるつもりです。だからすっごい心配」
「…ああ…」


この子は意外と記憶力がいい。いや、そう称してしまって正しいのかはわからないが。目で得た情報、とくに必要と判断した情報に関してはしっかり覚えているし、時間をかければ理解も出来る。
情報収集という面でこの子の頭に何も不自由はないことは知っている。むしろ単純なその作業だけならこの子の得意分野だ。
小柳の純粋な遺伝子を受け継ぎ教育を受け、図書館にある本以上の量の情報に囲まれて生きてきたこの子の持っている知識自体は豊富。情報の引き出しさえ間違えなければ正しい処理も行える。

今回のことも、彼女が「わかってる」と言うからには本当にわかっているんだろう。
俺が説明しなかったことも全部。

この子が苦手なのはそこからだ。
それまでの過程を正しく出して理解できても、なぜか結論がとんでもない方向に至るということがこの子の場合多々ある。
その結論を今回この子は、


「信じてますよ、カカシせんせー。あいつのことよろしくお願いします」


俺に託した。


「…了解しました、っと」


本当は、自分もサスケの傍にいさせてくれとか、サスケを本試験に出させないでくれとか、言いたいことはいろいろあるんだと思う。
でもそれを全部押し殺して、俺の判断が正しいと信じて、健気に笑顔を見せる。

ふっ…誰だよ、この子が俺のこと舐めてるなんて思ってた奴。
これだけ信頼されればせんせー冥利に尽きるってもんでしょ。


「んーさて私は師匠探しかぁ…あ、お義母様のとこにでも行こうかなぁ…花嫁修業…」
「…………」


目的全然違うじゃんばか。
何か妄想でもしたのか、にたぁと笑うリンの脳天に俺はごつんと拳をお見舞いした。
さっきまでのちょっと知的っぽいリンちゃんはどこいったのさ。

花嫁になることばっか考えてないで、とにかく今は中忍になること考えてよね…



(なーんかねー…なーんかもったいないんだよねリンって…)
(何が?)
(持ってるものの使い方というか?方向性というか?ほんとはやる気になったらなんでもできるんでしょ、難しい漢字も使えるんでしょ)
(ええー?言葉なんて通じたらそれでいいし!)
(ああもったいない…)

残念なバイタリティ
(でもそれがこの子らしいか)
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