変態注意報

さすが命懸けのサバイバルなだけあって、森に入って数時間もしない内に雨隠れの忍に襲われた。
大した怪我もなく追い払うことには成功したが、どうやらサスケの闘志にはばっちり火がついたらしく、


「念のため合言葉を決めておく」


なんてことを言いだした。


「いいか…合言葉が違った場合はどんな姿形でも敵とみなせ!よく聞け、言うのは一度きりだ。忍歌『忍機』…と問う。その答えはこうだ」


"大勢の敵の騒ぎは忍びよし 静かな方に隠れ家もなし 忍びは時を知ることこそ大事なれ 敵のつかれと油断するとき"


「OK!」
「またまたぁ、そんなの覚えられるわけないじゃん」
「アンタバカね。私なんて即覚えよ!」


…正気かサスケ。
――――私はみんなとはぐれたその時が、この試験の終わりだと悟った。

そんな長い歌、まず覚える気が起こらんわばかやろー!
合言葉なんてせめて「海!」「山!」程度にしとけ、と言おうとしたその時、私たちは巨大な突風に襲われた。
それは地から体が浮くほどの威力で、私たち四人はそれぞれにぶっ飛んだ。

私の体は茂みの中に突っ込んだが、幸い大したダメージはない。
こんなペースで敵に襲われ続けたらゴールまでに何戦しなきゃいけないんだろうと考えながら起き上がる。
そして風が止むと、サスケとサクラの二人もどこからともなく顔を出した。


「サスケ君!」
「寄るな!まずは合言葉だ…『忍機』!」
「あ!うん…大勢の敵の騒ぎは忍びよし 静かな方に隠れ家もなし 忍びには時を知ることこそ大事なれ 敵のつかれと油断するとき」
「よし!」


やべぇ、私せっかくのチャンスだったのに、今のサクラの台詞ばっちり聞き流しちゃった。
せめて何かに書いてくれ!書いてくれたらまだ覚えられるから!


「さ、サスケぇ…」
「リン…『忍機』」
「む、無理に決まってんじゃんばかぁ…」


どどどどどうしようどうしようどうしよう。


「いってー…おい、みんな大丈夫か?」
「ナルト、ちょい待ちなさい!合言葉」
「分かってるって…大勢の敵の騒ぎは忍びよし 静かな方に隠れ家もなし 忍びには時を知ることこそ大事なれ 敵のつかれと油断するとき」


…な、ナルトのくせにぃぃぃい!?
ちょ、裏切りだ、お前だけは私と同類だと思ってたのに!!なんで覚えてんだよばか!
そんで私、今のでその歌聞いたの三回目なはずなのにやっぱりワンフレーズすら覚えてない!

ついに私は頭を抱えた。
無理だ。この状況打破は無理だ。

けれどその時、合言葉を言えたはずのナルトにサスケが攻撃を仕掛けた。


「サスケ君…なんで!?ナルトはちゃんと合言葉を…」
「今度はオレの攻撃をよけるほどの奴か…」
「!?な…何を言ってるのサスケ君!?」
「つまり…コイツもニセモノってわけだ」


…へ?


「よく分かったわね…」


ボンッとさっきまでのナルトが消えて、現れたのは一人の草忍。
…本当にニセモノだったらしい。


「なぜ分かった、私が偽物だと…」
「てめーが土ん中でオレ達の会話を聞いてるのは分かってた。だからわざとあんな合言葉にした。うちのバカ二人がそんな長い歌覚えられるハズないからな…だからこのリンは本物で、お前はニセモノってことだ」


す…すっげぇサスケぇぇぇええ!!
私感動した!久々にお前がかっこよく見える!



変態注意報19 side リン



「ふぅ…終わった…」


上記の通り草忍さんに襲われた後も、サスケやナルトが倒れたりサクラの髪がなくなったりいろいろ大変なサバイバルだった。
私たちはカブトさんという眼鏡兄さんの助けを借りてなんとか試験を通過。
もう多くは語るまい。とりあえずみんなでがんばった五日間でした。

あれに比べれば次の試験は簡単だ。タイマン勝負だって。


「きゃーシッカッマッルー!」
「ぐごはっ!」
「私この時を待ってた!この試験このために受けた!」


だってきっと久しぶりにシカマルが本気で戦う姿が見れるんだよ!
サバイバル中にも一回シカマルたちが私たちを助けに来てくれたことはあったけど、あの時は私もそれどころじゃなかったから…
今回こそはばっちりその姿を目に焼き付けるわ!


「私しっかり応援するからねシカマルの試合ー!!がんばれシカマルふぁいとだシカマルー!!」
「うるせー馬鹿。黙れ馬鹿」
「あ、一試合目はサスケだって!」


心底めんどくさそうなシカマルの隣に立って、私はサスケにエールを送った。


「がんばれサスケー!」
「…あいつ大丈夫なのか?」
「え?」
「いや…あん時様子おかしかったし。なんか怪我もしてんだろ?」


あん時ってのは私たちが音忍に襲われた時に、目覚めたサスケが相手をふるぼっこにしてやった時のことだ。
あの草忍…大蛇丸ってやつに何かされたのが原因なんだとは思うけど、くわしいことは何もわかってない。


「まだ全然大丈夫ではないと思う。立ってるのもやっとだろーねー。さっきサクラにも棄権した方がいいとか何とか言われてたけど、意地で突っぱねてたわ」
「………」
「でもサスケは勝つよ」
「なんでんなこと…」
「あいつってそーゆー奴なんだよ。昔っからねー意地とプライドだけでなんでも完璧にこなしちゃうような人間なの」


付き合いは長いんだから、よく知ってる。
うちはが滅んでからのあいつは特にそんな感じだ。

私は特に心配することもなくサスケの試合を眺めた。
そして案の定あいつは勝った。
けれど辛そうな様子は変わりなくて、そこは大いに心配だった。
じゅいん、とかそういうのだったっけ、あれ。今日帰ったら書庫で調べてみよう。

サスケの傍に行きたかったけど、それより先にカカシせんせーに拉致られた。
私はしょんぼりそれを見送る。そんな私をシカマルは相変わらずの目つきで見ていた。


「あ、次はシノかー。まぁこれもシノの勝ちかなー」
「そんな断言できるほどあいつって強かったか?」
「?シノは強いよ、私この試合で一番やりたくないのはシノだなーと思ったもん」
「へー…」


シカマルは私の言葉を信じてるんだか信じてないんだかって感じだったけど、予想通り勝ったのはシノだった。
どや顔でシカマルを見ると「なんでお前がいばってんだよ」と当然怒られた。
しかも最後にボソッと「馬鹿のくせに」とか言われた気もする。

心外だなぁ、私こういうの考えんのは得意なのに。
だいたい私はね、周りが言うほど自分が馬鹿だなんて思っちゃいない。そんな自己紹介をした覚えもない。
確かにあの…今から言う合言葉覚えろ的なね、あんなのは無理なんだけどね。
でもこれでも一応あの頭脳派一族小柳の遺伝子を受け継いだ末裔。考えること自体は苦手じゃない、はず。


「…まぁシカマルの言葉には全部愛を感じるから別に許すけどぉ…」
「何言ってんだお前」


それからサクラといのの試合を終えて、シカマルの番が回ってきた。


「シカマルシカマル!試合中は静かにしててほしい?それともずっと『SIKAMARUシ・カ・マ・ル!』とか声援を送り続ける方がいい?」
「頼むから黙っててくれ」
「わかった。心の中でしっかり応援してる」


邪魔はしたくないもんね!
私は笑顔でシカマルを送り出した。けど傍の階段を下りる途中、彼はふいに振り返って聞いてきた。


「お前、この試合はどっちが勝つと思う?」
「とーぜんシカマル!」
「なんで?」


…シカマルが私に意見を求めるなんて。
めずらしいなとか思いつつ、何か試されてるのかなと考えた。
だから私は結果を導くに至った過程すべてを、いつもみたいには略さずに話してみた。


「…障害物のないこのフィールドはシカマルの技にとっては若干不利だよ、でもこの狭さはきっと有利に働く。それに相手は女の子だし、頭も悪そう。体力負けすることもなければ知力負けすることもない。まぁ女相手に本気になれないとか無駄に紳士なシカマルの精神が邪魔することもあるだろうけど……絶対シカマルは負けない」
「…根拠は?」
「なんたって私の応援があるんだから!何が何でも、勝ってくれるよね?」 


結局の根拠は最後のそれに尽きる。

世の中理屈なんてものは溢れに溢れてるけどそんなものはどうでもいいのが大半だ。
そんなどうでもいいものを重視する人間がこの世界には多すぎるけど…
私は知ってる。

たった一つの大きな理由。
それさえあれば世界は動く。


「ね?ね、シカマル!」
「…知るかよばーか」


返事をくれないシカマルに食い下がったら頭を小突かれた。
でもなんかシカマル、ちょっと機嫌よさげじゃないかしら。




(てかまた馬鹿って言ったー)
(馬鹿に馬鹿って言って何が悪いんだよばーか)
(私ばかじゃないもーん)
(…その割になに笑ってんだよ)

君の攻撃は愛の証
(言葉も拳も 君ならすべてが愛しい)
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