変態注意報

試験合格に安心しながら、なんだこれカンニングする必要もなかったんじゃん、と私は妙な脱力感に襲われていた。
シカマルの手の動き見て一字一句間違うことなく字をトレースするとか、ほんと私写輪眼ばりの働きを素でやったんだからな。どんだけ疲れたことか。


「おいリン、何ぼーっとしてんだ。移動だぞ」
「あ、うん。…あー…シカマル」
「あ?」
「解答写させてくれてありがとね。結局いらなかったけど」
「…お前が勝手にやったことだろ」


シカマルはちょっと不機嫌そうだ。
なんだろ、ネタばらししたあたりからこんな感じだな。
何が気に入らなかったんだか、まったくわからないんだけど…



変態注意報18 side リン



第二の試験は、森の中での五日間サバイバル&巻物争奪戦らしい。
同意書とやらを手に、私は震えていた。


「…?おいリン、大丈夫か?…安心しろ、お前のことは俺が守ってやる」


サスケが私の震える手をそっと握ってくれる。
思わず私は、それを強く握り返した。


「シカマルが…シカマルが…」
「…シカマル…?」
「シカマルが五日間も、飢えた野獣たちの前に晒されるなんてぇ!」
「…は…?」
「知ってる?人間って命の危険にさらされてしかもリラックスする時間が一切与えられないような状況に三日以上陥ると食欲より何より性欲が高まるんだよ!きっとこのサバイバルも三日目以降あたりからケダモノだらけだ!」
「おい…」
「実際、処理のために男同士で性行為を行うのだって戦場では普通の習わしだし…こんなところで…こんなところでシカマルの貞操が失われるなんてダメぇ!!」


力が入って、今まで手に持っていた紙をついぐしゃりと潰してしまった。
何の紙だっけ、まぁいいや、今はシカマルが先。


「ごめんサスケ、私この五日間はシカマルを背後から見守る役に徹しないといけない!」


―――バシンッ

…殴られた。
痛みを堪え、潰れた紙を握りしめたまま、私はシカマルの方へ走りだした。
サスケに怒られたって…私は、私はシカマルのために…!


「シカマルー!安心してね、シカマルの貞操は私が守るから!」


―――バシィィン!!

…殴られた。
しかもサスケより痛い。
涙が出そうだ。あ、すでになんかしょっぱいな。


「真面目に試験受けろ、わかったな」
「…はい」
「俺なんかより自分の心配だけしてろ、わかったな」
「私シカマルより強いし大丈夫だよ」
「わ か っ た な !?」
「…はい……―――ぐっ!?」


仁王立ちのシカマルの前に正座でうなだれていると、急に誰かに襟首を引っ張られて首が締まった。


「悪かったな、シカマル。五日間、お前にこいつは近づけねぇようにするから安心しろ」
「ちょ、サスケ、私がいないから安心ってそれどういう…うっぐ!?」


ずるずるずるずる。
サスケさん、扱いがぞんざい過ぎます襟持って引き摺るのはやめてください死にます。
もう本当に泣きそうになりながらシカマルを見た。
でもシカマルは私なんか見てなくて、サスケの後頭部を睨みつけてるだけで、やっぱり更に泣きそうになった。
お願いだからこんな可哀想な私を見て。


「…サスケ」
「ああ?」
「リンのこと、頼んだぞ」
「…ふん」


…それは私がシカマルに近づかないようにちゃんと見張っとけよってことですか?
ひどい、マジ泣くぞ。

でも、もしかしたら…
単に私を心配して言っただけかも、なんて。
そんな期待は自惚れだろうか。


「おいさっさと同意書書けよお前」
「へ?どーいしょ?」
「…お前が握りつぶしてるそれだ」
「…ああ、」


つまんなそーだな、五日間。
読みもせずそのくちゃくちゃな同意書にサインをしながら、私は似合わない溜息をついた。

そして思ったとおりこの五日間は、これっぽっちも楽しくもおもしろくもなかった。
ああ、私は早くシカマルの勇姿が見たいです!




(ていうかお前、バカのくせになんであんな偏った知識ばっか持ってんだ)
(え?私必要な知識はちゃんと蓄える人だよ?)
(…お前はもっと他の知識を必要とすべきだ。常識とか)

君の貞操は僕が守ります
(誰だお前が一番危険って言った奴)
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