変態注意報

「オレの名はうずまきナルトだ!!てめーらにゃあ負けねーぞ!!」


そんなナルトの世間知らずな発言をも、リンはニコニコとしながら見守っていた。
「一瞬にして回り敵だらけにしやがって…」という俺の呟きにも「そうだねー」と笑うだけだ。
今、こいつは大層機嫌がいいらしい。

何といっても今日から、(リンだけが)待ちに待っていた中忍試験の始まりだ。



変態注意報17 side シカマル



ナルトはしょっぱなからバカやるし音忍とかいうのには絡まれるし、ったくめんどくせー…
別に俺は中忍になんかならなくていいってのに。
試験って何日かかるんだ?マジめんどくせー。

出てきた森乃とか言う試験官もどう考えてもクセ強ぇし。
人のことどぐされヤローだのブタ共だの、散々だ。


「ではこれから中忍選抜第一の試験を始める。志願書を提出して代わりにこの座席番号の札を受け取り、その席につけ!その後、筆記試験の用紙を配る」


この言葉を聞いた瞬間、俺は終わったなと思った。
俺が、じゃない。

リンがだ。


「「ぺっ…ペーパーテストォォォオオ!?」」


班員二人が頭を抱えてる木の葉の第7班はもう、全員揃っての合格はありえないだろう。


「シカマル…どうしよう…どうしようシカマルぅぅぅ」
「知るか。今更どーしようもねぇだろうが、諦めろ」
「そうだね、この数分で私がどれだけ何をしようが、今更サクラみたいなしわくちゃな脳みそにはなれないと思う」
「その言い方イヤ…」
「だからこれは私、カンニングしかないと思う…!」
「お前なぁ…」
「シカマル、見せてね!?ああサクラも!」
「「………」」


必死なリンを見ると、容易に嫌だとは言えなかった。
けど素直に頷くのも、それはそれで嫌過ぎた。



***



指示通りに番号札を受け取り、席についた。
班のメンバーとは席が離されている。カンニング防止か。

筆記試験…真面目に受ければ、俺はそこそこには出来るだろう自信はある。
だがこれリンはマジで…やべぇよな…

―――などと考えた直後。
背中から必死で押し殺したような、


「神は私を見離さなかったああ!」


という声が聞こえてきた。

………リンか!!俺の後ろ、お前かよ!?
振り返って確認するまでもない…今のはあのバカだ。

俺は何故か、衝動的に頭を抱えた。
後頭部にぐさぐさと期待の眼差しが突き刺さってきてる気がする。
いやでもおま、実際カンニングなんてどうする気なんだよ、俺はどうすりゃいいんだ?


「シカマルは普通に問題解いて、普通にしてくれてればいいよ」
「!?」


そっと後ろから囁かれて、俺は驚く。
既に前では試験の説明が始まっていたため振り返ることはなかったが、考えていたことを言いあてられるというのはそれなりに心臓に悪いと知った。

黒板に書かれたルールというのは、
一、筆記試験は全部で10問。そして減点式
二、チームの合計点数で合否が決まる
というもので、俺は7班全員の失格を容易に断定した。
リンが何を考えているのかは知らないが、ナルトにはどう考えても策がない。
まぁ俺らもどうなるかはわかんねぇがな…


「第3に、試験途中で妙な行為―つまり"カンニング及びそれに準する行為を行った"とここにいる監視員たちに見なされた者は…」
「(失格か…リンの奴マジでどーすんだ)」
「その行為1回につき持ち点から2点ずつ減点させてもらう」
「…?」


失格じゃねぇのか?あー…なるほど、カンニング自体が禁止されるわけじゃねぇってか。
なら、いのがいりゃ俺らの班は大丈夫だ。
リンも…まぁ、なんとかはすんだろ。


「そして最後のルール…この試験終了時までに持ち点を全て失った者、および正解数0だった者の所属する班は、班員全て道連れ不合格とする!!試験時間は一時間だ。よし…始めろ!!」


鉛筆を手に、解答用紙を裏返す。
それから部屋には、ひたすらペンが紙の上を走る音だけが響いた。

俺も一応問題に集中する。
背中からの視線が痛い気がしないでもないが、なんとか解けるものは解いた。
解けないものはねばったところで解けない。まだカリカリと周りの音は響いているが、俺は早々に鉛筆を置いた。
てかこれ絶対中忍レベルの問題ですらねぇしな…あえてカンニングさせるのが目的か。

さーて、俺は普通に問題解き終えて普通にしてんぞ、リン、こっからどーする気だ?
少し背後に耳を済ませる。だけどリンが何かを書いている音は聞こえてこない。
…諦めたのか?

気にはなったが振り返って見るなんてことができるわけもなく、俺は一度首を振ってあいつのことを頭から追い払うと居眠りの体勢に入った。
所詮あいつと俺はチームメイトでもなんでもない。必要以上に気にかけてやる義理なんかない。


それからしばらくして目を覚ますと、最終問題についての説明とやらがされていた。
そして結論から言えば、その最終問題さえ正解すれば合格というやつで、その場に残っていた全員は一次試験通過が決定された。
なんだ、結局カンニングも何も必要なかったんじゃねぇか。

マジで無駄にリンの心配なんかしちまった、めんどくせー。
試験終了後、俺は後ろを振り返る。とりあえずこいつはカンニングができてたんだかどうか確かめようと思った。


「…お前どうやってカンニングしたんだ?」


リンの答案は、俺が書いた答案とまったく同じ出来だった。俺が解いた問題は俺とまったく同じやり方で解いていて、俺が投げた問題は同じところまで解いて投げている。
俺の答案を真似したんだろうことは間違いない。


「答案は見てないよーずっとシカマルの肩から手にかけての動きを見てた」
「…は?」
「ふっふっふ、他の人は無理だけどシカマルなら私、手の動かし方を見るだけでどの字を書いてるかがわかるんだよ。シカマルの字のクセは全部把握してるもの。それ必死で写した」
「……………」


久々に俺はこの変態が心底きもいと思った。




(えへへ、これってば愛のなせるわざだよね)
(きもい黙れしばらく俺を見るな)
(ええ!久しぶりに毒舌ぅ!)

背中に走る悪寒
(原因はお前)
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