変態注意報

これから俺の生徒になる下忍、うずまきナルトの家に俺はいた。
これといって何もない、ただ賞味期限切れの牛乳が少し気になる…そんな部屋だ。

その少年を本当の孫のように思っている火影様の話を、もうその場で小一時間は聞いていた。
あんたがどれだけそのガキを心配してるかは十分わかったから、そろそろ帰らせてほしい。
もう集合時間も近いし。…まぁ別にそれは時間通りに行くつもりもないからどうでもいいが。


「まぬけな奴だがカカシ、お前に見張らせるのが一番だ。お前は鼻が利く。それから…お前の受け持つ班には例のうちは一族のサスケと小柳一族のリンもいるぞ」
「小柳のって…ああ、あの小柳一族の人間にも関わらず頭悪いって有名な」
「……そやつじゃ」


小柳といえばその頭脳を買われて木の葉の政治顧問として長く栄えた一族だ。
しかし結局頭がいいんだか悪いんだか、その一族に純血ではない子孫があってはならないという理由で一族間で交配を続けた結果彼らは滅んだ。
しかも不運なことに、唯一の生き残りは生まれながらの馬鹿だったという。
一部では"小柳の悲劇"として有名な話だ。


「では健闘を祈る」
「了解」


なーにが健闘を祈るだ面倒くさそうなのばっかり押しつけやがって。
うちはに九尾に小柳…よくもまぁこんだけ濃い面子を揃えてくれたものだ。
厄介なのをまとめて凝縮した感じだな。
そして俺はその重荷を背負う生贄か。

まあ担当するかどうかは、これからの試験次第だけど…



変態注意報14 side カカシ



ボスッッ

―――教室の扉を開けて早々、黒板消しによる襲撃を食らった。


「きゃははは!!引っかかった引っかかった!!」
「先生ごめんなさい、私は止めたんですけがナルト君が…」


俺を指さして笑う九尾のガキに、裏側が見え見えなしおらしさを演じる女の子、俺に対して訝しげな眼を向けてくるうちは…
ダメだ俺さっそくこいつらと上手くやっていけそうな気がしなくなってきた。
ていうか一人足りないし。この子たちは女子二人男子二人のフォーマンセルのはず…

…小柳の子か。
俺以上に遅刻してくるなんてなかなかじゃないの。俺も相当遅れてきたよ?集合時間から…1時間は過ぎてるね。
ははは、笑えてくるよまったく。


「んー…なんて言うのかな。お前らの第一印象は…」


この場にいない小柳も含め…


「嫌いだ!」


笑顔できっぱりと言ってやると、すっと教室の空気が冷えた。
それに「よし」と一人内心満足する。
その時、ちょんちょんと何者かに背中をつつかれた。

振り返ると、そこには俺を見上げる女の子。
小柳のか。特に警戒等はしていなかったが俺に気付かせずに背後をとるとは、忍としての素質は割と期待できそうだな。
まあ、何にしろまずは遅刻を謝ってもらって…


「おにーさん、邪魔です入れないですどいてください」
「…は?」


…ナチュラルに邪魔扱いされた。
え、何この子。


「あ、みんなごめんごめん遅れた」
「お、遅れたってあんたねぇ…今まで一体どこで何してたのよ」
「シカマルの班の会合見てたんだー。担当のせんせーいい人そうだった」
「…まぁそんなとこだろうと思ったわ…」
「ところで、まだ私たちのせんせーは来てない感じ?セーフ?」
「アウトよ思いっきり」
「リン…お前が今邪魔つったその兄ちゃんが、俺たちの先生だってばよ」
「…うっそだー」


ぐりんと振り返って向けられた目には、明らかに疑いの色。
こら、さっさと取り繕って謝るぐらいしなさい。
かなり頭の弱い子だって聞いてたけど、やっぱその通りなわけね。


「なんで疑われなきゃいけないの俺。間違いなく、君らの担当上忍は俺ですよー?」
「ふっ、上忍が頭チョークの粉まみれにしてるわけないじゃないですか」
「な゛」
「本当にあなたが上忍だとしたらそれは何がしたいんですか、どんなプレイですか。この子たちに悪影響なんでやめてもらえますか」


こんのクソガキ……!!!

子供の無知さ故のバカかと思えばこいつ、そこそこの知恵を持ってそこそこの思考を巡らせてんのに、何故かそれでもバカな結論に至る正真正銘のバカなんだな。
ほんととんでもねーガキ押し付けられた。



***



「そうだな…まずは自己紹介をしてもらおう」


とりあえず屋外に場所を移した。
そして自己紹介を促すと、九尾の子供に俺の自己紹介を先に要求された。面倒くさいなぁ。


「あ…オレか?オレははたけ カカシって名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢…って言われてもなぁ…ま!趣味は色々だ」
「ねェ…結局わかったの…名前だけじゃない?」


俺の次は九尾の子供―――ナルトが威勢よく自分のラーメン好きっぷりをアピールする。
趣味は悪戯という子供らしくてかわいいような悪質なような紹介で締められた。
その次は、うちはのガキ。


「名はうちはサスケ。嫌いなものはたくさんあるが好きなものは別に無い。それから…夢なんて言葉で終わらす気は無いが、野望はある!一族の復興とある男を必ず…殺すことだ」


復讐心に溢れた瞳で発せられた台詞に、その場は一瞬沈黙へと還った。
他の子供たちの反応はまちまちで、ピンクの髪の女の子は何故か頬を赤らめ、ナルトは何故か顔を青ざめさせ、小柳のガキはそんな台詞には一切興味なさそうに、一人空を見上げていた。

だがそいつは、女の子―――サクラの自己紹介になると、空に向けていた視線を、サスケを見ながら「キャー!」と何やら一人興奮している彼女の方に向け、その様子を微笑ましげに見つめ始めた。
サクラが恋する乙女なのはわかった。だがこっちのガキはさっきから何を考えてんだかさっぱりわからん。


「嫌いなものは、ナルトです!」


そしてサクラが最後にそうきっぱりと言いきれば、あからさまにショックを受けるナルト。
なるほどこいつらの関係図は、
サスケ←サクラ←ナルト
簡単にいえばこんな感じらしい。


「はい、じゃあ最後はお前」
「会ったばっかりでお前ってしつれーですせんせー」
「"失礼"と"先生"ぐらい漢字使いなさい」
「…リン、なんかさっきから機嫌悪いんだってばよ?」
「うう、わかる…?今日ね、今日ね、シカマルが家来いって言ってくれたんだけど、私今日は先約があったの。すっかり忘れてたんだけど、ついさっき思い出した。くそもったいねー…!シカマルがあんなこと言ってくれる機会なんてもう二度とないかもしれないのに…」
「へー…」
「…どーでもいいけど、自己紹介まだ?」
「どーでもよくないよせんせー!超大事!私の人生の分かれ道!かもしれない!」


本当にどーでもいいしそんなに人生にころころ分かれ道転がってないよ。


「…ねぇサスケ…」
「また今度に…とか言い出したら許さねぇぞ、俺との約束の方が先なんだろーが」
「はい…」
「え、なに、何なのリン!サスケ君とどんな約束してんのよ!」
「卒業祝いに何か豪華なもの食べにいこっかってことになってるんだー。あ、サクラも一緒に行く?」
「やめろリン」
「なんで、別にいいじゃん」
「俺は大人数で飯を食うのは好きじゃない。わかってんだろ」
「…うん」


しゅん、としながらリンとやらは頷いた。
サスケの目がマジだからか、サクラの方もそれ以上食い下がりはしない。
なるほど…さっきの訂正。
シカマルとやら←リン←サスケ←サクラ←ナルト
―――が正しかった。

…なんか…めんどくさいなこいつら。


「…で、自己紹介は?」
「ああ…えーっと、名前は小柳リン。嫌いなものは結構いろいろ。好きなものも結構いろいろ。趣味はシカマルの観察で、将来の夢はシカマルのお嫁さん」


…観察?

何ソレこの子ストーカーでもしてんの?
うわぁ…どうしようこれバカな子どころかイタい子だ。


「お嫁さんって、結婚したら忍やめるつもりなの?」
「いや?忍もするしお嫁さんもする」
「母ちゃんになっても忍はすんのか?」
「するー。戦う母ちゃんかっこよくね?」
「かっこいいってばよ!」


そんでもってそのイタさがここまでナチュラルってどーなのよ。
誰も『観察』って部分には引っかからないわけね、これがこの子の標準なのね。

…こりゃ慣れる努力しなきゃ駄目だな。




(あ、せんせーもう帰っていいですか?)
(いいわけないでしょ、まだ何の話もしてないんだから…)
(えー何してんのせんせー、さっさとしてよ)
(…このクソガキ…)

私はまるで生贄
(誰か代わってくれませんか)
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