変態注意報

今日は、アカデミーの卒業試験。

私はアカデミーで習得する術は全てマスターできている。卒業できないわけがない。
でも私は朝からドッキドキだ。
なぜって?

そりゃあ…
ナルトが卒業できるかどうか、でしょ。



変態注意報12 side リン



「分身の術!」


ボフンと音を立て、現れたのは五人の私。
当然、合格だった。


「卒業おめでとう、リン」
「ありがとうイルカせんせー!」


額当てを受け取ってから、先生にハグ。
やさしく受け止めてくれた先生は、何故か涙ぐんでいた。


「なんで泣いてるの先生、私が合格できないと思ってたの?」
「いやそうじゃないよ…リンがアカデミーからいなくなると寂しくなるなと思ってな」
「せんせー…」
「お前、卒業試験が筆記じゃなくて本当によかったな」
「………うん」


否定はしない。


「ねぇせんせー」
「何だ?」
「ちゃんとナルトも卒業させてね」
「…シカマルはいいのか?」
「シカマルは心配しなくても卒業確実だし」


そうか、とイルカ先生は笑った。
私のお願いに対して、返事はしてくれなかった。



***



「遅いなナルト…」


校舎の外に出、私は一人ナルトを待っていた。

周囲には、共に卒業を喜ぶ親子の姿。
きっと今日はお寿司か赤飯なんだろうな、いいな。

そうだ私はナルトが来たら、あそこのお母さんたちみたいに「卒業おめでとう」って言ってあげて、一緒に一楽のラーメンでも食べに行こうかって誘うんだ。
卒業したって言ったら、おじさんチャーシューおまけしてくれるかもしれない。楽しみ。


「あ!」


校舎から出てきた派手なオレンジ。
さらに目立つ金髪を目に留め、ナルトだと確信して駆け寄った。


「ナルト!」


きっと私の声には喜色が混じっていた。
いろんな妄想を繰り広げて勝手に二人揃っての卒業を疑わなかった私は、朝まで抱えていた"ナルトは卒業できるだろうか"という不安をすっかり忘れていたのだ。
それを私は、すぐさま後悔する。

私の右手には、真新しい額当て。
でもナルトの両手には、何もない。


「リン…」


ナルトの声が、震えている。
私は何を言ったらいいのかわからなくて、ただただ戸惑って、立ちすくんだ。


「リン、卒業おめでとう!」
「…ナルト、今からもっかい試験受けさせてもらおう。大丈夫、次は絶対成功するよ」
「…いいんだってばよ、リン。ありがとう」
「いいって顔してないじゃん!」
「っ仕方ねぇだろ!だって―――」
「なら私も卒業しない。ここに残る」
「な!何言ってんだ!」


うん、何言ってんのかな。ナルト困らせてどうするんだ私。
そんな選択は正しくない。わかってる、わかってる。
だけど、


「私、ナルトを一人にさせたくない」
「…俺なんかになんでそこまで…」


…それはだって、お前が"俺なんか"なんて言うような奴だから。


「ねェ、あの子…」
「例の子よ。一人だけ落ちたらしいわ」


少し離れた場所で大人たちによって交わされる会話が耳に入り、びくっと一瞬ナルトの肩がゆれた。


「フン!いい気味だわ…」
「あんなのが忍になったら大変よ。だって、本当はあの子…」
「ちょっと、それより先は禁句よ」
「禁句?なーに、それ?私に教えてよおばさん」


瞬身で大人たちのところに移動した私。
目を丸くしながら私を見降ろす彼女たちは、目に見えて動揺していた。
今は少し離れてしまったナルトに至っては、なんと言うか今にも窒息しそうな顔。

ナルトは一体何を心配してるんだろう。
その"禁句"を、お前自身知りもしない癖に。

怯えないでよ。
私は今更、お前を見離したりなんかしない。


「あら、何のことかしら、私たちは別に何も…」
「ふーん…何もないのにあんたらは、反抗一つしない子供にあえて聞こえるような陰口を叩くんだ」
「な…!」
「私は将来、そんな大人には絶対なりたくないなー」


邪気がないように見えるであろう子どもらしい笑顔でそう言うと、その空間一帯の大人が固まり、顔を引き攣らせた。
それに満足した私は再び瞬身でナルトの元に戻り、彼の手を引いて歩きだした。
きっと大人たちの話題はナルトから私に移っているだろう。
"小柳の悲劇"として、私もこの里ではそこそこに有名だ。
話の種は尽きないに違いない。


「…リン」
「なに」
「ありがとな」
「……私、卒業する。忍になる」
「うん。がんばれ」


―――ナルト、私本当は知ってるんだ。

本人すら知らない、あの"禁句"ってやつ。
それを知ってて私、ナルトと友達になったんだよ。

私と同じ一人ぼっちの人間だって知って、放っておけなくて。
"俺なんか"なんて自分を卑下する男の子が痛々しくて。
私みたいにもっとバカになって生きられたら幸せなのに、なんて憐れんだりして。

間違いなく同情だった。
6年前、初めてナルトに近づいたのは。

でも私ね、思うんだ。
今ナルトと一緒にいるのは、いたいと思うのは、間違っても同情なんかじゃない。
ナルトはきっと、本当は誰からも愛されるすっごくいい奴なんだ。
"俺なんか"なんて、言うな、思うな。

だってナルトは、出来そこないで役立たずで一族の恥さらしだった、"悲劇"の私とは違う。
誇っていいんだ、自分自身を。

ナルトは、里の英雄じゃないか。




翌日。
(リン!俺卒業できたってばよぉぉ!)
(ええ!?お、おめでとう!)
(ありがとぉぉぉ!)
(…で、なんで?)

邪魔する奴はみんな敵
(黙らせる術はもう知っている)
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