変態注意報

俺がリンの見舞いに行ったあの日から、今日で一週間が経った。

その一週間の間で、俺たちの会話はほぼゼロ。
こんなことは初めてだ。

平和だと言えば平和。
だが何か足りないといえば、足りない。

毎日がひどく味気ないものに思える。



変態注意報10 side シカマル



ナルトが外で飯食おうなんて言い出したから、そいつと俺とチョウジは男三人で青空の下弁当を食べた。
わざわざ外に移動するなんざめんどくせぇと思ったが、今日は風が気持ちいい日だから良しとする。

チョウジはさっさと飯を終え、今は既にポテチをバリバリと頬張っている。
俺もそれに少し手を伸ばしかけたその時、そいつが呟いた。


「シカマル…リンと喧嘩したんでしょ」
「あ!それ俺も思ってたってばよ!」
「は?な、何言って…」


中途半端に伸ばしていた手を咄嗟に引っ込めた。
怒ったようなチョウジと興奮気味のナルトの前で、顔が引きつる。


「前々から気付いてはいたけど、その内戻ってるかなと思って放っておいたのに…たぶんもう一週間ぐらい、あいつシカマルのとこ来てないでしょ。長引かせ過ぎだよ」
「シカマルさっさと謝ってこいって!どーせお前がリンに何かひどいこと言ったんだろ!」
「何勝手に決めつけてんだよ…」
「違うのか?」
「……………いや…」
「ほーらやっぱりそうじゃん!ならさっさと許してもらってこい!いつまでもリンがいねーと俺もつまんねぇってばよ!」


…別に喧嘩したわけじゃねぇし。あいつが勝手に俺を避けてるんだ。
俺が謝るんだとしたら、何て謝るんだ?口移しなんてして悪かった?
いやいやおかしいだろ、あれはあいつがしろって言ったんだ。
言うこと聞いてやった俺がなんで許しを乞わなきゃならねぇんだよ。


「…あいつはもう、俺なんかどうでもよくなったんだろ」
「「は?」」


声を掛けただけで身構えられるわ、少しでも手を伸ばせば逃げられるわ。
さすがの俺でもあれは傷つく。


「バカ言ってねーでさっさと謝ってこい」
「いたっ!」


ナルトに背中を蹴り飛ばされた。
意味わかんねぇ、何キレてんだよ。


「何勝手なこと言ってんだ、あいつはお前のことめちゃくちゃ好きだってばよ!嫌いになんかなるわけねぇ!」
「…んなもんわかんねぇだろ。実際あいつ、俺のこと避けまくりだぜ?」


この一週間でした会話と言えば、

『おいパンツ見えてんぞ』
『…パンツならセーフ』

これだけだ。
おはよう、とかでもなくこれだ。

…さすがに、なんか見逃してんじゃねぇのか…?
…いやこれだけだ。間違いない。


「っていうか、じゃあシカマルは、別に今のまんまでいいと思ってるの?」
「…は?」
「だってシカマル、リンのこと好きでしょ?」
「んなぁ!?」


チョウジの奴、何当然のようにふざけたこと言ってんだ…んなもんありえねぇっつの。
あの変態になびくような人間が、この世界に存在すると思ってんのか。いるとすればそれは変態仲間のみだ。

絶対の自信を持って言う。俺は変態じゃない。
よってあれに好意を持ったりなんかしない。


「ったく、今までの俺の何を見てきたらそんな考えに辿り着くってんだ」
「え、だってリンが来なくなって寂しいんでしょ?」
「…俺がいつんなこと言ったんだよ」
「だって…」
「いいじゃねぇか、うぜぇのがいなくなって清々すらぁ」


本当にそうか?

表面には出さないが、内心己にそう問いかける。
毎日毎日うんざりもし尽くした接触がなくなって、イライラすることが減ったのは確かだ。
だが清々したなんて思ったことはない。

むしろ、どんどん俺の心は曇っていく。
これがどうしてなのかはいまいちわからない。
ただわかるのは、俺は今嘘を言ったんだという…それだけだ。


「ばか!俺はリンがいないとつまんねーっつってんだってばよ!」
「ならてめーがあいつに会いに行けばいいじゃねぇか」
「たまには行ってるってばよ。でもあいつ…なんか元気ねぇし。だからつまんねー」
「…マジかよ」
「いつも通りにしようとはしてるみてーだけど、なんかやっぱ無理してるってのがわかる。あいつ嘘とか下手だから」
「………」


なんだよ、なんなんだよあいつは。
てめーで俺を避けといて元気ねぇって何がしたいんだ一体。しょぼくれてぇのは俺の方――――
―――って、何言ってんだ俺。

あいつが元気ない原因イコール俺だなんて誰が決めた。
しかもなんだ、俺はやっぱ落ち込んでんのか?
あれに会いたいってのかよ。

…くそっ、わけわかんねー…


「…俺もう教室戻るわ」
「あ、おい!ちょ、待てよシカマル!」


空の弁当を持って、一人先に俺はそこを発った。
教室に戻って寝よう。そう思ったがやっぱり気が変わって、どこか風にあたれる外で寝ようと思った。
場所を探すため、そこらへんをうろつく。

そこでふと、別に視線を感じたからとかでもなく普通になんとなく、建物を振り返ってみて。
一つの窓に視線を向けた。
そしてその中にいた人間と、目が合った。


「リン…」


視線が絡んだのはほんの一瞬だ。
俺が顔を逸らしたから。それは故意ではなく反射的なもの。
すぐに、しまったと思った。これはもう振り返れない。
しかし一度その視線に気付いてしまうと、振り払うことはなかなかできない。
今も尚俺の背中に向けられているその視線を…意識しないわけがない。


「なんなんだよ…」


なんで俺なんか見てんだ。
目が合ったってことは、少なくとも俺が窓を見るその前から俺を見てたんだろう。
俺がわざと顔を逸らしたのもわかってんだろ、なんでまだこっち見てんだよ。

避けるくせに。
逃げるくせに。

俺を追うのはなんでだよ。


気が付いたら俺は走っていた。

避けられてもいい、逃げられてもいい。
面倒だが捕まえてやる。


ただ今は、何故だか無性にお前に会いたい。




(なぁなぁチョウジ、シカマルってばリンのとこ行ったんだと思う?)
(そうじゃないかなぁ。シカマル自覚ないみたいだけど、相当キテるし)
(あいつも結構にぶいよな)
(だからリンは大変なんでしょ)

近づくだけで身構えられ、
触れようとすると逃げられる

(だからどうした知ったことか)
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