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蒼井露草特集のグラビア撮影が無事終わり、次はと言えば…

「斬魄刀紹介ねぇ…別に修兵にそんな改めて説明するほどのこともないけど…」

そう、斬魄刀紹介ページを作成すべく、修兵は露草本人への聞き取りに勤しんでいた。
本当は露草本人に記事を書いてもらいたかったのだが(修兵が楽するため)、身内相手の雑誌とは言え手の内を明かしすぎるようなことは書けないし、何を書けばいいかわからないと露草に言われてしまった。
ならば仕方ない、これは敏腕記者檜佐木修兵の腕の見せどころだと取材を始めた次第である。

「取材なくても修兵ならなんかいい感じに書けるんじゃない?」
「そうか?液体を操る刀だってことぐらいしか知らねぇんだが。」
「…それ以上に何が必要…?」
「そうだな、見た目のウリとかポイントとか。」
「ウリ…」
「それで一発芸やるとしたらどんなことができるかとか。」
「………それ本気で聞いてる……?」
「一瞬で風呂が沸かせて便利、ってのは外せないよな。」
「………………」

露草の履歴に深く触れるような記事が書けない以上、ここはもう斬魄刀についてを深掘るぐらいしか安全なネタがない。
執務室で露草の向かいに座る修兵は早くもメモ帳片手にこの取材への意気込みを見せていたが、露草からすれば大分空回っているような印象だ。
斬魄刀使って一発芸なんかやらねーよ。風呂沸かしたこともねーよ。

「そういやそもそも斬魄刀の名前って何だった?」
「赤花<せっか>だよ。装飾にこだわった事ないから見た目のウリとか特にないな…ごめん。どシンプルな刀です。」
「うーん、そうか…あ、解放した状態の写真も撮らせてくれよ。」
「うん、いいよ。」

露草は徐にその場に立ち上がると刀を抜いて構えた。

「“遊べ” “赤花”」
「解号は『遊べ』…と。」
「……………」

解号なんて別に自分が考えたわけじゃないのに、なんか改めて他人に口にされると恥ずかしいな。メモを取るほどの言葉でもないだろって感じもなんか恥ずかしい。
露草は微妙な面持ちだった。

始解した赤花の刀身を大気中の水が覆う。間合いも鋭さも変幻自在な水の刃だ。
修兵はあらゆる角度からその写真を撮った。

「便利だよな、どんな液体でも操れるなんて。」
「案外そうでもないよ。これは記事に書かないでほしいけど…実は私の間合いってめちゃくちゃ狭いの。」
「そうなのか?遠距離でこそ生きそうなのにもったいねーな。」
「便利な力には制約が付きものってことかな。だから敵の血を操るのだって、とにかく間合いに入らないと始まらない。」
「でも逆に言えば間合いにさえ入れば終わりだろ。十分こえーよ。…あ、そういや黒崎と戦った時は刀身が赤くなってたじゃねぇか。あっちのバージョンも撮らせろよ。」
「あ、ああ、うん…」

刀身を覆っていた水が空気中に霧散し、それと同時に次は刀身が赤く染まった。
修兵は再びカメラを向ける。

「そもそもなんで始解に二種類あるんだ?」
「別にそういうわけじゃないよ。纏う液体が変わってるだけで、刀身そのものの色が変わってるわけじゃないから。」
「え?」
「水を操るときには水が刀身を覆うのと同じで、血を操る時には血が刀身を覆うの。それだけだよ。ほら、よく見たら血の流れが見えるでしょ。」
「おい、これ…誰の血だ?」
「…私のだよ。さっきの水で手のひらちょっと切っといたからそこから…」
「はあ!?言えよ!誰がお前に怪我までさせて写真撮りたいって言ったよ!」
「いや、ただでさえ記事の内容不足なんだから写真のかさ増しぐらいしないとさ…」
「変なところで編集者根性出してんじゃねぇ!」

修兵はため息をつくとがしがしと頭をかいた。
卍解の写真も欲しかったが、あの時も確か刀身は赤かった。なんなら攻撃の時に刀身から伸びていた手のようなものも赤かった。嫌な予感がする。卍解の写真は諦めよう。
たしかに露草の言う通り、便利な力にはそれ相応のリスクがあるようだ。

「ごめん…これぐらいの傷なら私の鬼道でも治せるからそんな怒んないで。」
「わかったよ、撮影はここまでだ。あとは、そうだな……あ、そうだ!露草、卍解ができるなら斬魄刀の具象化もできるよな?具象化した斬魄刀って写真に写るのか?試していいか?」
「ああー、なるほど…じゃあちょっと出てきてもらうよ。」

斬魄刀の姿なんて別に公開して困る情報でもない割に、レア度は高くてなかなかネタとしてはおもしろい。斬魄刀に独占インタビュー!ってのも見出しとしてインパクトがあっていい。斬魄刀と持ち主の対談記事とかもいいんじゃないか?
日番谷の時には思いつかなかったのがもったいないと思うぐらい修兵の中で可能性が広がりまくる。
わくわくしながら露草と斬魄刀の対話が終わるのを待った。
しかし徐々に露草の顔が怪訝なものになったため、修兵はどうかしたのかと声をかけた。

「いくら呼んでも赤花から返事がない…なんでだろ…」
「仲悪いのか?」
「そんなことは…。気まぐれな子ではあるけど、今までこんなことなかったのに…。何か怒らせるようなことしたかな……」
「ま、まぁたまにはそんなこともあるんじゃねぇか。…えっと…俺はよくあるぜ…?」
「………そっちは仲良くないんだね…」

私はそんなことないもん、と露草が落ち込んでしまったためとりあえずこの日の取材はここまでということになった。
何があったかは知らないが赤花の機嫌が早く治ればいいなと、この時はそれぐらいの気持ちだった。

しかしこれが、後に瀞霊廷を揺るがすある大事件の予兆だったのだ。
それを二人が身をもって理解することになるのは、この二日後の夜である。





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