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修兵から提出された、次号の瀞霊廷通信の特集案のタイトルを見て露草は絶句する。

「蒼井露草特集…」

しかも表紙も巻頭数ページも全部蒼井露草のグラビアページだと。なんで私がグラビア写真なんか撮らなきゃならないんだ。
編集長を特集する、センスがないにも程がある機関誌なんかが一体どこにあるというのか。ここか。

「ああ!9月号でやった日番谷冬獅郎特集が評判よかったからな。次は蒼井露草特集に決まりだ!」
「なんで…別の人にしようよ…檜佐木修兵特集にしようよ…」
「まぁそれはまた今度な!お前が隊長になってまぁまぁ経つけど、言ってもまだお前が一番新参者なわけだろ。広くお前のことを知ってもらうには丁度いいじゃねぇか」

ほかの誰の目にも触れないところに閉じ込めておきたいとかなんとか言ってたくせに、瀞霊廷通信のこととなれば簡単に売ってしまうのか。
瀞霊廷通信の一体何が彼をそこまで駆り立ててしまうのか知れないが、記者・編集者としての彼は普段とは一味違う。視線はプロのそれだ。
あと自分のこともいずれは特集する気なのちょっとおもしろい。

「やだよー冬獅郎くんの、桃ちゃんに結構過去話とか赤裸々に暴露されてて可哀想だったもん」
「ああ。お前の場合は浮竹隊長に京楽隊長に卯ノ花隊長にと確かな筋の関係者も多いし、たぶんネタには事欠かなさそうで記事にしやすくていいよな」
「聞いてる?それがやだっつってんだけど。てか私を特集したい本心それか」
「さっそく明日からインタビューに行ってくるぜ!」
「いや、ちょ…」

修兵のことだからもちろん露草が本当に困るようなことは記事にしないだろうし、特集のネタとして露草が一番おいしいのもよくわかった。
けどだからってじゃあ私の特集しましょう!なんて言えるほど面の皮は厚くない。
露草はノリノリな修兵をなんとか止めようとその後も説得を続けたが、敏腕副編集長の耳には届かなかった。
誰も当たり障りないこと以外は何も言ってくれるなと祈るばかりである。


「そういやちゃんと聞いた事なかったけど、露草はあの家に一人で住んでるってことは瀞霊廷に他に身内はいないのか?流魂街出身か?」
「身内はいないけど、流魂街出身ではないよ。…私は死神の子だから」



◇◇◇



「お時間いただきありがとうございます、卯ノ花隊長」

修兵は特集のインタビューのため、まず四番隊隊舎を訪れた。
事前に蒼井露草特集の取材だと伝えていたためか、卯ノ花はにこにこと楽しげに修兵を隊首室に通し、お茶と茶請けを出してくれた。

「あの子が瀞霊廷通信で特集記事を組まれるまで成長するなんて…感慨深いものですね」
「さっそくいいですか?そもそも卯ノ花隊長と蒼井隊長のご関係は?蒼井隊長は卯ノ花隊長のことを姉さんと呼んでますよね?」

今回蒼井露草特集を提案した理由は先日露草に説明した通りではあるが、合法的にこうして露草のことを人に聞いて回れることがまず修兵個人的には魅力であった。
愛の重い修兵にとって、愛しい恋人の思い出話なんていくら聞いても聞き足りないぐらいだ。

「露草が真央霊術院を卒業して、一番最初に所属した隊がここ、四番隊なんですよ」
「へぇ…!なんか意外でした」
「そうでしょうね。あの子、鬼道は苦手でしょう」

たしかに露草は隊長なだけあって並の鬼道なら問題なく使えるが、率先して戦闘で使用する様子はないし、治癒の鬼道は苦手だと以前一度言っていたことがある。

「普通、院を卒業する者は自ら配属希望を出して、それが受け入れられて初めて隊に所属するものですが…露草は当時それはもう将来を期待されていたものですから、本人に配属先の選択権はなく、あえて苦手分野を補うようにとまず四番隊へ配属されたんです」
「そんなことが…」

露草は山本総隊長をじじいと呼び、本人は否定しているが隠し子だの孫だのと周りの噂は絶えない。
やはりその頃から既になんらかの因果があったのだろうか。

「けど周りの期待によるプレッシャーも大きい中、なかなか鬼道の上達はせずあの子は泣き暮らす毎日で…私も総隊長のめいを受けて相当あの子には付きっきりで指導もしましたが、一年ほど経っても四番隊で戦力になれる程成長はしませんでした」
「それで…?」
「クビにしました」

柔和な微笑みでふふ、と卯ノ花は茶を啜る。
これは記事にしてもいいものか。まさかの初っ端からのネガティブキャンペーンに修兵は悩んでしまった。

「世話を焼いているうちにいつの間にか姉さんと呼ばれるようになっていましたね。まだ幼かったあの子にとっては自分の世話を焼いてくれる大人は皆兄さん、姉さんだったのでしょう」

露草が現世任務に就いたのが少なくとも110年以上前で、四番隊への配属がそれよりさらに前となると、たしかに露草はまだ相当子どもだったはずだ。

その頃の自分は何をしていただろうかと修兵は少し思いを馳せる。
たしかまだ死神になろうなんて考えたことも腹がすくこともなく、流魂街で毎日友人たちと遊んで暮らしていたはずだ。
そんな頃から露草は毎日苦手な環境で泣き暮らし、努力の末に才能なしと捨てられたのかと思うとすごくかわいそうで、今すぐ彼女を抱きしめたい。

「えっと…露草がここをクビになった後は、どこへ配属になったかわかりますか?」
「ええ。露草を憐れんだ浮竹隊長に拾われて、十三番隊へ」

配属先の選択権もなかった期待の星がいつの間にかリサイクル品として拾われている。
これ俺が聞いて本当に露草は怒らないか?
特集をなんとか却下しようと必死だった露草を思い出し、修兵は今更不安になった。

その後四番隊でのかつての露草の話を掘り下げてみるものの、期待していた『天才はこの頃から天才だった!』みたいな逸話や周囲があっと驚くような話も、少し笑えるほんわかエピソード的なのすらも卯ノ花の口から一切出てくることはなく、どうやら四番隊での露草はひたすらに失敗と挫折の繰り返しのようだった。
ここから現世任務の小隊長に任命され、後に九番隊隊長に抜擢されるようなサクセスストーリーがあるようには到底思えない。
…ある意味波乱万丈大逆転ストーリーとしてはおいしいか。

「いい記事にしてくださいね」

今の話だけでいい記事にするのはどう考えても難しいだろうに、卯ノ花はそう言って笑った。
露草が彼女のことを姉さんと呼び慕う割に、いつも彼女の前では異常に怯えた様子だった理由がなんとなくわかった修兵だった。


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