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あれから二人がどうなったかというと、

「あー…ごめん今日もちょっと予定があって…」

御影との秘密の特訓も終わり、特に仕事を溜め込んでいる様子もない露草だが、修兵が仕事終わりのデートに誘ってもなんやかんやと断られるという相変わらずの日々が続いていた。
職場で迫れば怒られるし、デートには応じて貰えないし、修兵としては正直なところ不満で仕方がない。

しかも露草はその予定とやらを一切明かさないのだ。
恋人とのデートより優先すべき用事がどうしてそんな頻繁に発生するのかと一度問いただしたこともあったが、返答はうやむやにされた。はっきり言って不自然だしあやしい。
なんだかそれに触れてほしくない様子なのはわかる。しかし予定がある、用事があるとだけ言われて、はいそうですかと引き下がるやりとりにも飽きてきた。

ということで修兵はついに露草の尾行を始めることにした。
以前にも露草の隠し撮りをするために尾行を決行し、すぐさまバレて叱られたのは記憶に新しいが、同じ轍を踏むほど馬鹿ではないと今度は最初から徹底的に霊圧を隠し、気配を気取られないようかなりの距離も取った。浅はかな行為にも関わらず悲しくも前回の教訓が活かされている。

そしてその努力の甲斐あってか、今回はバレることなく露草の行先を突き止めることに成功した。
しかし成功したにも関わらず、かえって修兵の疑問と不安は大きくなった。
どうして露草は自分の誘いを断り続けてまでここへ来たのか、考えても考えてもわからない。
露草が消えた先…それは並の一般人なら近づくこともままならない、四大貴族の大屋敷であり六番隊隊長朽木白哉の自宅でもある、朽木邸だった。


「どういうことだ?なんで露草が、こんな時間に朽木隊長の家に?」
「知らないっすよそんなこと。本人に聞きゃいいでしょう」
「お前の隊長のことだろうが!副隊長なら隊長の動向ぐらい把握しとけよ!」
「その言葉そっくりそのまま返しますけど」

急に呼び出されたかと思えば面倒な絡み方をされて、阿散井は呆れながら至極真っ当な返事をした。
恋人をわざわざ尾行するような恥ずかしい真似はできるのに、さすがに、これはどういうことだ!と乗り込んでいく勇気はなかったらしい。
まぁ場所が場所だしな。これは俺、八つ当たりのために呼ばれたなとため息をついた。

「いっつもどこに行ってんだって一回聞いたことはあるけど、はぐらかされたんだよ。あんまりしつこく聞くとプライベート全て把握しときたい、束縛激しい奴みたいじゃねぇか」

あと今日のことを問い詰めたら尾行してたのがバレるだろ。
と付け足す修兵に、阿散井はバレたくないならそもそも尾行なんてするなよと言いたくなるのをなんとか飲み込んだ。

「束縛激しいのは事実でしょ。生涯愛するのはあなただけ、とか隊士の前で言っちゃうようなくそ重女と丁度釣り合い取れていいじゃないすか」
「それ他の隊にまで広まってんのか…しかも絶妙により恥ずかしい方向に間違ってるし。てか人の彼女をくそ重女って言うんじゃねぇよ」

露草が知ったらまた頭を抱えそうだ、と修兵はこの噂が彼女の耳に入らないことを願った。

「俺は別に、浮気を疑ってるとかそーゆーのじゃねぇんだよ。露草が俺にゾッコンなのはわかってるし。」
「うわ、うざ。じゃあ別に気にする必要もないじゃないすか。」
「けど何か隠し事されてるってのは、いい気しねーだろ。あと露草の方にその気がなくても、向こうがその気になってるパターンはこれまでの経験上大いにあるからそのへんは心配だ。だって露草かわいいから。」
「はいはいはいはい」

一方通行の想いだと思い込んでいた頃からずっと、こんなに重症なのに本人には本当に自覚がないのだろうか?
阿散井は疑問だった。
相手は同じくくそ重感情を爆発させてる女なんだから、これぐらいで束縛がどうとか思うわけもないのがなんでわからないのか。くだらないことで何をぐずぐず悩む必要があるのか。俺と話す時間があるなら当の恋人と話す方が有意義だろうに。

「なにしろ重い男になる覚悟がねーなら黙っとくしかないっすね。なーにかっこつけてんだか。」

本音も尾行したことも話せないなら仕方ない。
それがまぎれもない事実なのに、なぜか阿散井は修兵に気に入らなさげに足を踏まれた。
一体俺にどうしろってんだ。



その翌日も修兵は仕事終わりの露草の後をつけた。
なぜ昨日朽木邸に行ったのかと、日中何度も問いかけようと思ったがついぞそれはできないまま、結局同じことを繰り返している。

修兵は昨日と同じく朽木邸に向かうのかと思っていた。
しかしどうにも違うようで、露草は朽木邸とは真逆の方向に歩いていく。
そして今日の露草はそのまま、なんと穿界門の向こうに消えたのだった。

「黒崎か!?黒崎のところか!?ああ!?」
「だから知らねーつってんでしょうが!」

二日続けて絡まれる阿散井。またもや急な呼び出しに嫌な予感はしたが、やっぱりこんなことだったとまた大きなため息を吐き出した。
露草は事前に申請をしていたようだが、修兵はそうではないためすぐに穿界門を通ることは出来なかった。だから穿界門の先、露草の本当の目的地まではわからないままだ。
なのに黒崎一護のところに違いないと勝手に決めつけてさっきから暴れている。

「浮気は疑ってないって言ってませんでしたっけ?」
「疑ってねーよ!?疑ってねーけどさ!!」

そうは言うものの酒を煽る手が止まらない。
これは酔いつぶれたこの人を家まで送るコースだな。

「先輩、もう尾行なんてやめましょうよ。それやってもいいことないっすから。」
「いいや、ここまで来たらとことんやる。あいつの尻尾を掴んでやるぜ。」

それ犯罪者とかに使うセリフな。
間違った方向に愛が重い先輩の様子に、阿散井は不安が募るばかりだった。



それから有言実行とばかりに修兵は露草の尾行を続けた。
朽木邸に穿界門、ときた時は嫌な想像が一瞬でも巡らなかったと言えば嘘になるが、それ以降はというとただただ不思議なものだった。
露草が向かう先はいつもバラバラ。一昨日は四番隊隊舎、昨日は一番隊隊舎、今日は再び穿界門。

行先に共通点があるようには思えない。
ただ単に友人巡りでもしているように見えるが、それはそれで自分が蔑ろにされる納得がいかない。
しっぽを掴んでやるぜと意気込んだものの、このままではいつまで経っても露草の目的が見えてこないのは明らかで、もはや修兵は腹を括るしかなかった。




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