04

「腕だけで振るなー!そんなヤワな剣しか振れないなら九番隊追い出すからなー!」

九番隊の朝の日課の訓練のさなか、露草は真剣な面持ちである。
日課とはいえ隊長である露草がそれに参加するのはまれなことで、彼女がいるだけで訓練の雰囲気はいつもとがらりと変わる。
もちろん隊士達はいつでも真剣なのだが、露草は訓練に関しては特に厳しいため、次に怒号が飛ぶのはどこかと空気はぴりぴりしていた。

露草は時に隊士の刀を受け止め、さばき、打ち込んでは細かにアドバイスを繰り返した。
護廷十三隊隊長としては当たり前といえば当たり前なのだが、彼女は当然腕が立ち、隊士達から見ればその強さは圧倒的で、憧れであり目標だ。
いつも朝は眠たげで気だるげで活力不足に見える彼女も、刀を持った時だけは凛としていた。
そんな彼女の背中を見つめ、修兵は思う。

昨日はあんなにエロい顔してたのになー…。

「修兵!今サボってたでしょ!修兵だけ今から素振り五百回!!」



さすがに五百は多いって、五百はさ。

五百回の素振りのおかげでパンパンに張った二の腕を揉みながら、修兵は露草の卓の前で彼女が書類に判を押し終わるのを待っていた。

「なに、当てつけのつもり?訓練中にぼーっとしてた修兵がわるいんでしょ」
「へいへい、まったくもってその通りです」

あの夜からまだ数時間しか経っていないにも関わらず、露草はいたっていつも通りの様子だ。
まるで昨日のことなどなかったかのような振る舞いに、これが昨日言ってた『平然と見えるようにしてる』演技ならなかなかすごいと密かに感心した。

「…昨日はよく眠れたか?」

ぴく、と露草の指先が一瞬震えたのを修兵は見逃さなかった。

「…いつもどおりだよ。はい、これ」

執務室には今二人きりしかいないし、別にそこまで公私分離しなくたっていいんじゃねーか?なんて修兵は思うが、なんとなくそれを言ったら怒られそうな気がしていた。
だまって差し出された書類を受け取ろうと手を伸ばす。その指先が一瞬だけ露草の手に触れた。

びくっ

「「…………」」

手放された書類ははらりと地面に落ち、二人の間にはなんとも言えない沈黙が流れる。

「…あー…なぁ、あの」
「な!何も!言わないで!」

露草は頬を蒸気させて、先程までの平然とした表情とは打って変わって、気まずげに視線の先をさ迷わせていた。
それを見て修兵は思わず軽く吹き出す。より露草の顔が赤くなった。

「ったく、かわいすぎだろ」

修兵は落ちた書類を拾い、ぽんぽんと露草の頭を撫でた。

「別に誰に言いふらすでもなし、誰に見られてるわけでもないんだからさ、もっと普通にしてたらいいじゃん」
「普通でしょ、私は。いつもどおり…」
「あー…無理にいつも通りにしようとするんじゃなくて、自然体でいいんじゃね?ってこと」
「…いや無理、自然体なんて仕事にならないから」

そもそも今までは隙あらばサボろうともしてたのに、えらく真面目になったものだ。

「自由にしていいって言われたら、修兵の傍から離れたく無くなっちゃう」

一呼吸置いて自分のペースを取り戻した露草とは打って変わって、次は修兵の方が顔を赤くする番だった。


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