小説(クリパー) | ナノ


「またせたな、皆」

「なんだ、まだ半数程しか集まっていないのか」

「寺門、万丈!遅いぞ!!」

『だから佐久間くんが早いだけだってば!!大丈夫だよ、まだ約束の時間にはなってないか…ら……』



私は彼らを見て衝撃を受けた。
いや、正確には寺門くんを見て、だ。


佐久間くんの最早お決まりの台詞に再びつっこんだ後、来たばかりの二人に挨拶をしようと振り返った私。
そこには一緒に来たらしい万丈くんと寺門くんが並んでいた。
二人の新鮮なコート姿を眺めていたわけだけど、目線を下に下げた途端に寺門くんがとんでもない格好をしていることに気が付いた。
季節感を丸無視した、嫌でも目につくそれ。





『何で短パン!?!?』



寺門くんがなんとまさかの短パンを履いて来ました。
真冬に生足曝すなんて小学生男子じゃあるまいし、とんだ命知らずだ。

寒くないの!?と訊けば、当たり前のように寒いと返す寺門くん。じゃあもっと長いの履いて来なよ!正直寺門くんの生足サービスとかどうでも良いから!要らないから!!


激しく動揺する私を他所に、寺門くんは何事も無かったかのように皆の輪の中に入って行った。
当然、一緒に来た万丈くん以外は寺門くんのあまりに無謀な格好を見て一斉に騒ぎ立てる。



「何で短パンなんだよ!?部活しに来たわけじゃないんだぞお前!!」

「なっ、この御神足(おみあし)を人前で曝さずしていつ曝せというんだ!」

「何が御神足だ!!そんな大層な物でもないだろ!?」

「酷い!!名字、お前は俺の味方だよな!?」

『ごめん、今回ばかりは皆が正しいよ』

「そんな馬鹿な!?」



今の服装をはっきりと否定すると、寺門くんはショックを受けたのかその場に膝をついた。
こちらとしては何故今の自分の可笑しさに気付かないんだ、という疑問で一杯である。

内心あの短パンをスルーされてしまったらどうしようかと不安だった私は、奇天烈な格好の寺門くんを前に皆が当たり前の反応を示してくれて、自分は正しかったのだと安堵した。
これだけ非難されて、それでも尚あの短パン姿を貫こうという彼の鋼の精神には畏れ入った。決して見習いたいとは思わないけれど。


(なんか寺門くんの登場でちょっとだけ疲れたなぁ。まだパーティー始まってもないのに…)

『皆は元気だね…はぁ』



若干の疲労感を覚えた私は椅子に腰掛け、未だ騒ぎの治まらない皆を尻目に鬼道くんが出してくれた紅茶を一口頂いた。口一杯に広がる上品な味に、値の張る茶葉を使っているのだろうと踏んだ。尤も、あの鬼道くんが客人に安物を振る舞うとは到底思えないけれど。


ふと時計を見れば針は8時5分前を知らせていた。そろそろ約束の時間だ。

まだ到着しない三人にメールをしてみようかと携帯を開いたところで、タイミング良くチャイムが鳴った。
家主の鬼道くんの姿を探したら、何やら佐久間くん達と忙しそうに机に料理を並べていた。



『鬼道くーん、今誰か来たみたいなの!忙しそうだし、私が代わりに迎えに行こうか?』

「すまない、そうしてくれると助かる」

『分かった。じゃ、行ってくるね』



席を立ってリビングを出ると、意外にも辺りは静かだった。
さっきまで煩かった辺見くん達の喧騒が今では凄く遠く感じる。ちょっぴり寂しくなった。


長い廊下を来た時とは逆に進めば、幾つもの靴が並んだ玄関へ辿り着く。靴を散乱させずにしっかりと揃えてある辺りはやはり帝国の生徒だとでも言うべきか。

この時間だし残りの参加者の内の誰かだろうと思い込んでいた私は軽い気持ちで扉を開けた。



刹那、私は恐怖のどん底へと落とされた――。





「グフ、グフフフ…」

『きゃあああぁああああぁぁああ!!!!!』



そこに立っていたのは前をしっかり閉じた真っ黒なコートを着た長身の男。コートと同じ真っ黒なブーツと手袋、ニット帽にサングラス、さらにはマスクと一切肌を見せない出で立ちのその男はどこからどう見ても犯罪者か不審者、ないしは変質者だ。

何故扉を開ける前によく相手を確認しなかったのだろう。来訪者は必ずしも知り合いだとは限らないのに。

身の危険を感じた私はすぐさま皆の元へ駆け寄りたかったのだけれど、生憎腰が抜けてしまって立ち上がることすら儘ならない。



「どうした名字!?」

『みっ、みんなぁ!!!』

「貴様、誰だ!!名字に何をした!?」

「えっ?あの…」

「佐久間、いくぞ!!」

「ああ!」

「ちょっ、待…っ」

「「ツインブースト!!!」」

「ぐおっ!!?」



どこからかサッカーボールを取り出し、鬼道くんと佐久間くんが謎の男に見事必殺技をヒットさせた。
男は何か言いかけたものの、そのまま外へ飛ばされた。
その隙に私は未だ短パン姿の寺門くんの手を借りて立ち上がり、急いで皆の後ろに下がる。もう短パンとかどうでもよかった!それどころじゃなかった!!

さっきの技が効いたのか、男は呻き声を上げる。
体を擦りながらのそりと起き上がるとマスクを取り払った。



「皆酷いですね、オレを忘れたんですか?」



そう言うと続け様にニット帽とサングラスを外す。
するとそこには馴染みのあるあの独特の笑みが浮かんでいた。極めつけはサングラスの下から現れたつるなし眼鏡。



『…五条くん!?』



名前を呼べばニヤリと不敵に笑う彼。間違いない、ウチの背番号5番――五条勝だ。



『なんて格好してるの!?吃驚するじゃない!!』

「驚いたのはこっちですよ。名字にはいきなり叫ばれるし、鬼道さん達からは攻撃受けるし」

「そんな格好されたら誰でも驚くわ!!」

「ていうか遅いぞ五条!」

『いや、来るには丁度良いくらいの時間だよ!そこは問題ないよ!』



論点がずれつつある佐久間くんを制して、未だ家に上げてもらえず寒空の下に立ったままの五条くんに向き直って最終確認。うん、犯罪者でもなければ不審者でも変質者でもない。確かに我々が知る五条くんだ。

取り敢えず家に上げてあげなければと鬼道くんを促し、色々訊きたいことはあるものの一旦リビングへ戻ることにした。


一同に多大なまでの衝撃…いや、笑撃を与えた彼だけれど、これで終わりではなかった。

リビングに通され、ごく普通の流れであの真っ黒のコートを脱いだと同時に事態は起こる。



「な、なんだこれは!?」

「うわっ、五条先輩が光ってます!!」

「よく分からんが五条がいつもは目立たないくせに今日は鬱陶しいくらい輝いている!!」

「お前のそれ服に電球でも仕込んでるのか!?」

「まっ、眩しい…!辺見が横にいる所為で余計眩しい…ぐああああっ」

「それは俺のデコの反射が眩しいって言いたいのか咲山ー!?」

『ていうか何でコートの下全身ゴールドなの!?そもそも金ってこんなに反射しないでしょ!!』

「この服は今朝方オレの家の前に匿名で置かれていたものです。付属の手紙によると、どうやらこれはオレのファンからの贈り物のようですね。クックック…」

「五条のファン!?」

「何でも良いから取り敢えずコートを着てくれ五条!!俺はともかく、これじゃ他の皆が何も見えない!」


鬼道くんの声に「仕方がありませんねぇ…クククッ」と不気味に笑いながらもコートを着直す五条くん。

光りも無事治まって、私は溜め息を一つついて目を開けた。
隣では辺見くんが先の発言について咲山くんに早速突っ掛かっていた。この人元気よすぎる。

帝国サッカー部一の不思議さんで、いつも掴み所の無い変わった人だというのは知っていたけれど、今日の彼はいつになく分からない。一体何が五条くんをここまで変えてしまったのか。

因みにコートの下にどんな形の服を着ていたのかは、眩しくて直視出来なかった為謎である。黄金のスーツとかだったらどうしよう。



『ファンがいるなんて、五条くんって意外と人気者なんだね』

「それが最近急に人気が出たみたいなんですよ。お陰でほら、こうして変装しないと外にも出られません。ヒヒヒ…」

「あぁ、だからあんな黒づくめの格好してたのか!五条も大変だな」

『逆効果!!それ絶対逆に目立ってるから!』



うんうん頷く源田くんに代わって五条くんの今後の為にもはっきりと真実を告げる。
源田くん、そこは納得しないでほしい。彼は時々天然だから困る。

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