小説(クリパー) | ナノ


帝国学園も冬休みに入り、午前は課外授業やサッカー部の特別練習があったりするものの、私達はいつものギスギスした生活から少しだけ解放されゆとりのある日々を満喫していた。


そして今日、12月24日――言わずと知れたクリスマスイブは、部のレギュラーメンバーとマネージャーとで鬼道邸に泊まり込みのクリスマスパーティーをすることになっている。誰が言い出したのかはもう覚えていないけれど。

学校側も流石に空気を読んだのか、今日と明日の二日間は課外も部活も無い。
だから私は朝からゆっくりと出掛ける準備をすることが出来た。ケーキも焼いたことだし、完璧だ。

予定時間よりはまだ少し早いけれど、皆が来るまで鬼道くんを手伝えばいいかなと考えた私は衣服の入ったケースとケーキが入ったバッグを持って家を出た。


だって気になって気になって、大人しく時間を待ってなんていられなかったんだもん。

気にならない?





エリート中のエリートである、帝国サッカー部の皆の私服姿。










1. 










『こんばんは、鬼道くん!』

「あぁ。ここまでご苦労だったな名字」

『ごめん、ちょっと早めに来ちゃった。あっ、ケーキ焼いたから良かったら皆で食べよう』

「わざわざすまない。きっと皆喜ぶぞ」

『だと良いんだけど…。何か手伝おうか?』

「いや、見ての通り飾り付けも殆ど終わっている。大丈夫だ。それより中に入ってお茶でも飲んでくれ。名字に風邪をひかすわけにはいかない」



予定よりも30分近く早く来てしまったけれど、鬼道くんは扉を開けて快く迎えてくれた。
中に通されて改めて思ったけれど、鬼道くんの家凄すぎる…。


鬼道くんの私服姿は流石と言うべきか、とても素敵でした。
二年間も一緒に居ながら皆の私服を一度も見たことがなかったから、今日の雰囲気の違う鬼道くんにはちょっとドキリとしてしまった。

私服はこんなに格好良いのに、なんでユニフォームや制服の時はマント着けちゃうんだろう…。しかも現在確認されてるだけでも赤と青の二色が存在する。
う〜ん、天才の考えることは計り知れない。



(はっ…もしかしたらマントオンリーのタンスとかあるかもしれない!!)



ふと脳裏を過った一つの可能性に何故か全身に緊張が走る。これはこのパーティー内で確認しろ、ということなのか…!?



それにしても鬼道くんの家は広いなぁ。

迷わないように鬼道くんの後を着いて行き、リビングに案内されるとそこには――





「よぉ!遅かったな名字!!」

『佐久間くんが早すぎるだけだと思うよ』



既に佐久間くんが来ていた。


佐久間くんは何やらせっせと部屋を飾り付けていた。もしかして玄関からずっと続いてた綺麗な飾りは全部佐久間くんがやってくれたのかな?



「早いなんてものじゃないぞ名字。こいつは今から約8時間前に家のチャイムを鳴らしてきたんだからな」

「そんなに褒めるなよ鬼道〜!!」

(約8時間前って昼にもなってない時間だよ!?佐久間くんそれは早く来すぎだと思う。逆に迷惑だと思う)



鬼道くんの言葉を聞いてモービル片手にデレデレし始めた佐久間くんに胸中でそっとツッコんでおく。
口で言わないのは多分今の佐久間くんに言っても無駄だから。だって鬼道くんが絡むと周りの話聞かないでしょ。
折角容姿も私服も格好良いのに、なんだか台無しだなぁこの人。

現に鬼道くんは無表情のまま「褒めてないからな」と呟いている。鬼道くん、遠慮しないでもっと大きい声で言っていいよ。



「あっ、その…似合ってるな、その白いワンピース…」

『えっ?あ、これ…?』

「あぁ。名字らしくて良いな」

『そ、そうかな…?ありがとう…。鬼道くんも佐久間くんも格好良いよ!』



二人に素直にそう告げると、照れたのか佐久間くんは私の服を褒めた時よりも顔を紅くし、鬼道くんの頬にも少しだけ朱が差した。
こんな鬼道くんはレアだ!カメラを持って来ればよかったと後悔した。



暫く佐久間くんの飾り付けを(正直もう充分だと思うけれど本人がやると言って聞かないので)手伝っていると、インターホンが鳴ったから鬼道くんが玄関へ行った。恐らくパーティー参加者の誰かだろう。

壁に掛けてある時計を見ると約束の8時にはまだ時間がある。



「おっ、早いな二人とも!」

「遅いぞ源田!!」

『いや、まだ約束した時間の前だから!こんばんは源田くん』



颯爽と現れたのは源田くん。

まさかあのフェイスペイントがオフでも健在だとは思わなかったけれど、見慣れている所為かそんなに驚きはしなかった。

それよりも私は源田くんの中学生らしからぬ大人っぽさの方に気がいってしまう。
元々身長の高い源田くんが落ち着いた色合いの服を着ると実年齢よりも年上に見えてしまう。誰も高校生以上だと信じて疑わないだろう。
あれ、この人本当に私と同じ歳の源田くん?先輩の間違いじゃないだろうか。


まあそこまでは良いんだ。

私は先程からどうやっても視界に入ってくる、ある物について尋ねた。



『ところで源田くん…その両手の袋、何?』

「これか?」



軽々しく腕を挙げてみせるけど、明らかに重そうなスーパーの袋が片手に3つずつぶら下がっている。流石はKOG……ってそうじゃない!

源田くんはテーブルに袋を置くと、その中から一つずつ物を取り出し説明し始めた。



「ジュースにポテチにクッキーだろ…あぁ、勿論名字の大好きなチョコもあるから心配しなくていいぞ。大丈夫だ、罰ゲーム用のポッキーもある。未成年だからシャンパンはノンアルコールだ。それから全員分のパーティー用の帽子とクラッカー、あとはこれ、今朝作った肉じゃがと金平ごぼうとふろふき大根と切り干し大根と……」

『も、もういいよ源田くん!』

「そうか?」



にこにこしながら次から次へと手品のようにスーパーの袋から物を取り出す源田くんを慌てて止めた。
まだ二袋目だというのに、既にテーブルの上は一杯だ。

よくこれだけ買うお金があったものだと思う反面、何でこんなに買い込んで来たんだろうとも思う。一般家庭と違ってお金持ちの鬼道くんの家なんだから、お菓子とか飲み物は充分あることくらい分かってるはずなのに。

しかも何だこの料理の品数は。いつ嫁に出ても恥ずかしくないレベルじゃないか。というか後半は大根だらけだな。


当の源田くんはいつの間にかいなくなっていて、部屋を見渡せば離れた所で買ってきた円錐型の派手な帽子を早速佐久間くんに無理矢理被せようとしていた。

私の目の前には源田くんが作った見事な料理達。なんだか自分がちょっぴり惨めに思えた。
いや、私だってケーキを作ってきたじゃないか!それに源田くんは将来主夫希望なのかもしれないじゃない!そうだ、きっとそうに違いない。だから普通の女の子より料理が上手なんだよ、うん。



納得出来る理由をこじつけて必死に自分に言い聞かせている間にどうやら鬼道くんは次の来客を迎えに行ったようだ。

佐久間くんと源田くんの攻防がヒートアップしていた為なかなか気が付かなかったけれど、扉の向こうの廊下からこの二人とは別の喧騒が近づいてきていた。
扉を開けて現れたのは姿を消していた鬼道くんと、その後ろで言い合いをしている緑の髪とオールバックの二人。



「テメー咲山!!今日という今日は許さねぇ!!!」

「煩ぇぞデコ見、喧嘩上等だコラ」

「デコッ…咲山ァァァアア!!!」

『辺見くん、咲山くん、こんばんは!』

「、あ…あぁ!名字か…。よぉ…、」

「……!!」



何で揉めているのか知らないけれど、どうせいつもの売り言葉に買い言葉、だろう。
相変わらず仲が良い二人に挨拶すると、目が合うなりすぐに顔を背けられた。咲山くんに至っては顔のパーツで唯一隠されていない右目を私のいる方向の反対に向けている為、どんな表情をしているか一切読み取れなくなっている。



『どうしたの二人とも…?』

「いや、その…名字が…鬼道さんの言った通りだったから、よ……」

『鬼道くんが私のことで何か言ってたの?』



いつもと様子が違う辺見くんにそう問えば、「咲山が言えよ〜!」と、どつきながら咲山くんに話を振った。
その瞬間さっきから無言を貫いていた咲山くんの肩が大きく跳ねた。煩ぇ!だなんて言い返しつつも、咲山くんはゆっくりとこちらに向き直る。



「あ、ええと…」

『うん、』

「鬼道さんがさっきその〜、あー、今日の名字は…今日の名字、は……」

『うん、』

「今日の名字は私……」

「そういえば名字の私服なんて初めて見るな。そのワンピース、似合ってるぞ!」

「「源田テメェェェエエ!!!」」

「うわっ、何だ!?」



どうやら言いたかった台詞を源田くんに取られてしまったらしく、激怒した二人はバッグを投げ捨ててそのまま源田くんに飛び掛かった。
息ぴったりの二人を見て、やっぱり仲が良いなぁと思った。お陰で二人も素敵だと伝え損ねたけれど。


咲山くんは予想通りというか、黒を基調とした服装。男の子の中では人目を惹く方ではないだろうか。あとアクセサリーが多かった。
凄く格好良いけれど、もし私が他人だったら私服の咲山くんは少し怖かっただろう。

辺見くんも咲山くん程ではないけれど似たような感じだった。
普段よくことある毎にからかわれている辺見くんだけど、実はかなり格好良いことを私はちゃんと知っている。
咲山くんと二人セットで女子の間で密かに“イケメン漫才コンビ”だなんて呼ばれていることを本人達は全く知らないんだろうなぁ。



「あーあ、またやってるよ先輩達」

『あっ、洞面くん!』



あまりにも煩すぎて最早インターホンすら聞こえなくなっていたようだ。

振り返って少し下に視線を落とせば、そこにはサッカー部一の可愛さを持つ私の癒しがいた。



『可愛い――!!!』

「うわぁっ!!?」



もこもこしたポンチョにマフラーに手袋、さらには耳当てと、完璧に防寒対策をしてきた洞面くんは最強に可愛かった。天使のようだった。だから思わず抱き締めた。そうしたら他の皆から全力で引き剥がされた。
酷くない皆?良いじゃないか少しくらい癒されたって!



「何やってんだよ名字!!」

『なんで佐久間くんが怒るのよー』

「そうだよー、邪魔しないでよね先輩」

「洞面お前なぁ…!」

『大体私は悪くない、可愛い洞面くんがいけないんだ』

「またそんなこと言って〜。ボクなんかより名字先輩の方がずっと可愛いのに」

『洞面くん…!!』

「…洞面爆発しろぉぉお!!!」

『何てこと言うの辺見くん!』



口々に物騒なことを言う皆を叱っていたら一瞬洞面くんが酷く顔を歪めて笑っていたように見えたけれど、きっと私の見間違えに決まっている。洞面くんに限ってそんなことは有り得ない。

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