圧倒的な存在感を解き放つ大野くんをなんとかし、部屋の隅っこで倒れていた寺門くんも源田くんが起こして、なんとか平和が戻ってきた。
まあ、平和とかそういうのはないのだけれど、大野くんが喋ると碌なことがない。
というか早くここからおろして欲しいのが本音である。
「で、どうしたら名字を安全に降ろせるかということか……」
マントを着こなした鬼道くんを中心に丸くなって話を聞く姿は、まさに試合前の光景とソックリである。
違うといえば、鬼道くんのベルトと大野くんの意味不明な迷彩柄のコスチュームだということだろうか。
あのタンクトップで来るよりも、この格好で来たほうがよかったんじゃないかと思った。
「で、俺の胸にとびこんでこい!って言っても、名字は降りてこないんだよ」
「いやあれは恥ずかしいからだよ!」
「つーか、源田先輩のこと嫌だったんじゃないっスか〜?」
「俺が嫌!? なんということだー!」
「いやそんなことないよ源田くん!誤解だから!成神くんも変なこと言わないでよ!」
フルパワーシールドをしそうな勢いで、源田くんはその場にうずくまる。やっぱり今年の後輩は強い。ズバズバとものを言う。
どうしたらわたしを少し高い場所から降ろせるかという議論をしていると、ある声が一つ案を出した。
「みんな、賭けをしませんか?」
「ご、五条!?」
そういえば五条くんは今日初めて姿を見せる。先ほどまで存在というものを完全に消し去っていた。
いきなり鬼道くんの後ろにニョキッと現れるものだから、鬼道くんはびくりと肩を揺らして後ろを振り返ったのだった。
「ご、五条、いつからそこに!?」
「いやあ、みなさん起こしてくれないですから……」
「ていうかいたのかよ!存在感ゼロだったぜ!?」
「グフフッ……。私は辺見のようにトレードマークはありませんからね。そのおでこのように……」
「なっ、なんだとー!?つーかお前の方が個性ありすぎだろ!」
「それにしても、お前はどこで寝てたんだ?」
噛みつかんばかりの辺見くんをスルーし、佐久間くんはそう五条くんに問いかける。
すると、ツルなしのメガネがキラーンと光った。そして得意げにクイっとメガネを上げ、ある方向を指差した。
「私はあそこで寝ていたのですよ」
指差された先にあったのは黒い布のような物体だった。
気味の悪い雰囲気を自然に醸し出しているため、みんなはゴクリと唾を飲みこむ。
「あれはファンから貰った……寝袋です」
みんながなんだ寝袋かよー!と漏らし始める。
まあ、遠くというか上から見ているわたしは、その黒い物体が何かがすぐわかったのだけれど、五条くんだけに何かがありそうだと思っていた。
たとえばその黒い物体が意味不明の未確認生物だったらだとか。いやそんなことはないか。
「それで五条、賭けというのは何だ?」
「そう焦らないでください……」
五条くんにそう聞いたのは寺門くんだった。
寺門くんは相変わらず御神足をみせつけるかのように短パンのパジャマを着ている。上は普通に長袖なのに、なぜ下は短いのだろうか……。というかこんなパジャマ見たことがない。
「名前を一番に助けた人が王子様とかいうのはどうですか?」
「王子様ー!?というか、わたしのこと名前呼び!?」
いつもなら名字呼びの五条くんが、いきなり呼び捨てしてくるなんて。しかも王子様とかいきなり言ってくるあたり、ちょっと五条くんが正常か心配になる。
ここで誰かがツっこんでくれれば……!と思ったものの、彼らの様子は違った。
「そうと決まればオレが一番乗りだー!」
「待て辺見!小生が最初でござるよウガアアアア〜!」
「ちょ、オタクは黙ってフィギュア見てろよ!名前先輩いま行くっス!」
「こうなれば仕方が無い……。待っていろ名前」
「みんなどうしたの!?え、きゃああああ」
辺見くんを先頭に、ベッドの足には帝国イレブンが走り迫ってくる。鬼道くんも成神くんの後ろに迫り、追い抜こうとばかりにタックルをし始める。まるでドリブルをしているような光景だ。
そしてツっこみたいことが二つ。
まず一つがいつのまにか呼び捨てで名前呼びになっていること。別にいいんだけど、急にで驚くというか。
そして二つ目が、足下に迫ってもみくちゃとしている帝国イレブンが、まるで地獄絵図のように見えて仕方が無いこと。
ちょっとこれは、怖い……!
「や、やめて!みんな落ち着こう!なんか地獄絵図みたいだから!」
それでもやめない帝国イレブンたちに、思わず一言言い放ってしまう。
「き、気持ち悪い……」
彼らの動きが瞬く間に止まった。
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