「おい、大伝起きろよ」
大野くんに歩み寄る影、それは見た目は不良 中身も荒ぶる不良の咲山くんだった。
背後にゴゴゴ……というような擬音をつけられるような雰囲気をかもし出しているというのに、大野くんはびくりともせず、ずっと鼾をかいて寝続けている。
そんな大野くんにブチっと切れたのか、咲山くんは手にもっていた何かを大野くんの顔にベチィ!と当てたのだった。
「起きろっつってんだろこの野郎ー!さっきからいびきうるせーんだよ!」
「咲山くんそれは!?」
「それを使ってはだめだ咲山ー!」
わたしの疑問の声と、鬼道くんの悲痛な叫び声が部屋にこだまする。
鬼道くんの忠告ともいえよう叫びは虚しく、咲山くんがナイキの靴下を大野くんに叩きつけた瞬間、なんともいえない臭いが部屋に充満しはじめたのだった。
「うっ、何この臭い!」
「おええええ、くっせー!」
「換気するんだー!そうじゃないとしぬー!」
思わぬ悪臭に、後輩組が思わず根をあげた。
換気をしようと寺門くんが窓へ走って行ったが、この部屋の窓は高い場所にとりつけられている為に開けられない。
寺門くんはぴょいっと御神足ジャンプをしたが、残念ながら届かず、そこで力尽いてぐたっと倒れてしまった。
「だから言っただろう!それは使ってはいけないんだ!」
パタパタとマントを上下させている鬼道くんを見て、思わずモモンガに見えてしまったのは内緒にしておこう。
たぶん本人は一生懸命換気をしようとしているつもりなんだろうけど、やっぱりどこかダサい……。
「ぐっ……、この臭い、フルパワーシールドは通用しないのか……!?」
「通用するわけねーから! さっきから何言ってんだよ源田!」
「この状況を突破するにはただ一つ……!万丈、サイクロンだ!」
「お、おお!?うっしゃー!サイクロン!」
万丈くんは突然声をかけられたことに驚きつつも、サイクロンをやり遂げる。あたりに竜巻が巻き起こったが、それらが消えた瞬間、さきほどまで部屋に立ち込めていた悪臭はすっかりとなくなっていた。さすがは天才ゲームメーカーである。
「万丈、見事だ」
「そんなことないですよ鬼道さん」
はははは、と安穏な空気が流れる中、むくりと巨体が起き上がった。
その光景に、この部屋にいる全員が恐る恐る顔を向ける。
「おお〜!いい朝でござるな〜!あ、おはようございます隊長殿!今日もいい天気でありまするな!」
奴が、起きた。
「あ、名字殿〜!おはよう!」
「おはよ……」
「あれ?元気ないな〜!もう一回SAY!おはよう!」
「……おはよう……」
う、うざー!
内心ちょっとそう思ってしまった。この二日間一緒に過ごしてきて思ったのは、サッカーをしているときの大野くんはまじめでいいけれども、プライベートがこんなのだなんて、ということ。
こんなにオタクで、そしてこんな喋り方をするなんて……まるでオタクである。いや、オタクだ。しかもちょっと調子に乗るタイプの。
「あれ〜?なんでこんなところにオレの靴下が? まあいいや履こう」
「大伝先輩、それって洗濯してますか?」
「してるけど。なんで?」
「いや……臭いから」
ズバッと本音を言ってしまう洞面くん。やっぱり今年の一年生は勇者だ。いや勇者というより、常識を知らない。なにがあっても先輩にはそんなことを言ってはいけないのに!絶対大野くんのハートを傷つけたよ!と思った瞬間、彼は口を開いた。
「臭いだと? いやだな〜、はじける汗の香りって咲山殿がクリパー前に言ってたじゃないか!」
前言撤回、大野くんには何を言ってもいい。
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