朝起きたら視線がいつもより少し上だった。背が伸びたのかと一瞬思ったけど、でも違った。不思議の国のアリスみたいに大きくなったのかとも思ったけどそれも違った。
起き上がってふと横を見てみると下のほうに大勢の人たちが倒れているのが見えた。
最初は誰だか認識できなかったけれど、だんだんと覚めてくる意識と共に情報が次々に頭の中に入ってくる。
たぶん、
これは、
下の方で倒れている人たちは、
まさに帝国サッカー部である!
最終話
サンタやろうぜ!
こ、これは……と、わたしは状況を飲み込めずにいた。確か眠りについたときは何も普通の部屋だったはずだ。
今わたしの状態はというと、ベッドの足がなぜかこおりついているのである。しかも、足が直接床についているのではなく、すこし床から離れているのだ。降りようと思えば降りれるのだけれども、でも勇気が出ないので降りることができない。
床の下に倒れている帝国サッカー部を見てますます困惑するばかりだった。なぜみんなここで寝ているんだ。
どうしようかと戸惑っていたそのとき、11人の中の一人がむくりと起き上がった。彼は眠そうに目をこすりながらあくびをした。
「ふあー、いつの間に寝ていたんだ? みんな風邪引くだろ」
「げ、源田くん!」
そんなわたしの声に源田くんをハッと顔をこちらに向ける。源田くんは驚いたようにこちらを見上げていた。
「源田くんどうしよう!降りられないの!助けて!」
「な、なに!? 今行くから待ってろ!」
源田くんは慌てたようにベッドのすぐ下へ走ってくる。何をするのかと思えば、源田くんは大きく手を広げた。これはまさか……
「よし、俺の胸に飛び込んで来い!」
「え、ええ!?」
これはこれで助かるが、次元が別である。源田くんの胸に飛び込むのはなんというか、恥ずかしい。
なかなか降りてこようとしないわたしに、源田くんは痺れを切らせたのか催促をかけてくる。いや、でも、飛び込んだら源田くんに抱きついちゃうってカタチになるというか……。
「どうした! 飛び込んで来い名字!」
「あのね源田くん、それはちょっと!」
「なにが問題なんだ!」
源田くん分かってないのー!?と思わず心の中でツッコミをしてしまう。考えるだけでも恥ずかしいというのに、降りてこいと催促してくるなんて、源田くんはまるでわたしの心を分かっちゃいない。
そのときだった。ロミオとジュリエット状態だったわたしたちの間を裂くかのような、遮る声が聞こえた。
源田くんの背後から現れたのは、ペンギンの帽子をかぶった佐久間くんだった。
「おめーら何ラブラブしてんだ!源田、お前らバカだろ!名字が嫌がってるじゃないか!」
「え、そうだったのか名字……」
「いっ、いや、そんな意味ではないんだけど……」
はは、と苦笑いしながら誤魔化していると、佐久間くんは周りのみんなを起こし始めた。けれどもみんなはピクリともせず、ずっと眠ったままである。
大野くんに至っては未だに大きくいびきをかいて眠り続けていた。
「くっ、みんなこんな大事なときに起きないのかよ……」
「何が大事なんだ? だから飛び込んでくればいい話じゃないか」
「源田は女心をわかっちゃいないんだよ! ちくしょう……これはしたくなかったけど、鬼道ごめんな!」
佐久間くんは謝りながら、うつぶせになっている鬼道くんを無理やり仰向けにする。
鬼道くんの腰には、あのプレゼント回しのときに大野くんから貰ったベルトが未だにつけられていた。あんなにいやだいやだと言ってた割にはわたしと別れる間際までベルトをつけていたし、鬼道くんはどれだけこのベルトが好きなんだろうとふと思ってしまった。
そんなベルトに佐久間くんはそろりと手を伸ばす。
「みんな目を覚ませー!」
佐久間くんが何かのスイッチを押すと、ギュインギュインギュイーン!!!とベルトに内臓されていた音が鳴り響く。しかも大音量すぎて、思わず耳をふさいでしまった。
だがその大きなベルト音のお陰で、倒れていたみんなはゆっくりと目を覚まし始める。鬼道くんだけ飛び起きていた。
「うおおお! な、なんだ!」
「あっ、鬼道おはよう! この一張羅のベルト、少し借りたぜ!」
「は!? というかこれ一張羅じゃない! だ、大伝が勝手に……」
鬼道くんは佐久間くんに向かって一生懸命に弁解するも、マントとベルトという最強の組み合わせのせいで全く誤魔化せていなかった。ちょっとだけ、鬼道くんってそっちの気あるのかなあ、なんて思ってしまう。
そんな二人の声とともに、だんだんと帝国イレブンの声も聞こえてきたのだった。
「ふあー、もうなんなんスか佐久間先輩。朝からうるさいっス」
「つうか未だに目がチカチカすんだけど。おいハゲてめーのせいだぞ起きろ」
「ウガッ!け、蹴るなよ咲山!」
咲山くんは眠気眼な辺見くんを見るなり、いきなりガスっと蹴りを入れる。飛び起きた辺見くんは咲山くんに喰らいつくも、わたしの異変に気がついたのか、咲山くんをおいてこちらを振り向いた。
「お、おい名字! どうしたんだよそこで!」
「どうしたもなにも、朝起きたらこうなっていたの!どうして!?」
「そっ、それは……! それより、早くおろすから待ってろ!」
辺見くんは何かを言いかけたが、言葉を飲み込んでしまった。話をそらされてしまったことに少し不満を抱きつつも、わたしは早く降りたかったために辺見くんの行動を見守ることにした。
「よし、今からこのベッドの足元に大伝連れてくるから、そこに飛び降りろ!」
「お前ー!チームメイトをトランポリン代わりにするな!」
「うるせえな寺門! 雷門中だってイナズマ落としで壁山をトランポリン代わりにしてただろ!?」
「いやそれとこれとはちげーよ!つーかトランポリン言うな!あれはジャンプ台だ!」
……だめだ、辺見くんはやっぱりだめだ……。
なんて心のそこでひっそりとそう思ってしまった。ちょっとは期待したのだけれど、打開策が大野くんに飛び込むだなんて……。
大野くんの場合、源田くんのときとは少し違う何かを感じるのだ。なんというか、遠慮したいというか…。さっきの後ろめたさとは全く違うと言うか。
「へ、辺見くん!それだめだよ!」
「名字までそう言うのか!?いい案だと思ったのによー」
そんなときだった。一つの黒い影が大野くんに迫っていたのである。
17
← →