BOOK AND YOUTH | ナノ


  日常での遭遇




ここ最近は、暇があれば図書館に行くというのが基本になっていた。けれどあくまで私は大学生。毎日行けるわけでもない。
今現在、私は大学の方の図書館でレポート制作に勤しんでいた。


正直なところ、私はここの図書館はあまり好きじゃない。


目立つグループが溜まっていたり、騒いでいたりで集中出来ないのだ。本来ならここでしたくなかったけれど、このレポートの提出は今日中。調べものもあるので、ここでするしかないのだ。

相変わらずの騒がしさに少し苛立ちながらも、資料のある棚へ移動した時に、ふと誰かの視線を感じた。その方向をなんとなく辿ってみると、そこには、先日からちょくちょく図書館(ここじゃない)でお目にかかることがあった石田さんがいた。



「い…石田さん!?」



ここはあの図書館ではないし、本来なら彼がこの場にいる筈はない。けれどよくよく考えてみれば、答えはすぐに出た。

初めて石田さんを見たのは、大学が休講だった日。だとしたら、平日の昼間にあの場所にいたのも頷ける。それに見たところ、石田さんとは年も近いし、この近隣の大学はここしかない。つまり、同じ大学でもなんら不思議はないのだ。

石田さんはというと、私と目があって暫し停止したのち、仏頂面のまま下を向いて何かを書き始めた。
あれから会っても会釈程度しかしないので、わざわざ話しかけに行くのもどうかと思う。それにあちらも話しかけてほしいというわけでもなさそうなので、私は大人しく必要な資料を取って、またレポート制作に勤しむことにした。


























結局完成したのは午後7時過ぎ。春とはいっても、まだ日はそれほど長くはない。外はすっかり暗くなっていた。いつの間にか騒がしくしていた人も去り、図書館内は静寂に包まれていた。
さっさとレポートを提出して帰ろうと思い、荷物を纏めた。そこで、持ってきたままだった資料の存在を思い出した。



「戻しとかなきゃ」



それを手に取り、その資料があった棚へと向かった。資料を棚へ戻したところで、石田さんのことをなんともなしに思い出した。チラリと居た場所を見たが、既にそこには誰も座っていなかった。



「…帰ったのかな」



挨拶ぐらいはしておくべきだったろうか、と少し考えもしたけれど、帰ってしまったものは仕方がない。鞄を肩に引っ掛け、私はレポートを提出しに行った。



ようやくキャンパスを出た時には既に7時半だった。夜は更に色を濃くし、最早真っ暗だ。



「…暗いなぁ」

「暗いのは貴様だ」

「えっ」



突如、暗闇から声が聞こえてきたと思ったら、ゆらりと銀髪が闇夜から現れた。それは先程図書館にいた石田さんで、通用門の前で待ち構えていたかのようだった。



「こ…こんばんは」

「挨拶など求めていない根暗が」

「ね…根暗!?」

「そんなことはいい。貴様、私を待たせるとはいい度胸だな」

「は?え?え?」



流石にこれは意味がわからない。何故私は怒られているのか。何故石田さんは私を待っていたのか。



「貴様に言おうと思っていたことがある…」

「へ?な、なんですか?」

「さっさと本を返却しろ!!!」

「えっ」

「貴様が持っているんだろう、あの小説の5巻を!」

「あ、ああ…そういうことですか」



彼が待っていた理由は、どうやら私に本の返却を促す為だったようです。
そう言われてみれば、石田さんも今私が借りているシリーズを借りていた気がする。



「貴様がこの二、三日向こうの図書館に来ないから言えなかった。だがようやくこの時が来た!」

「はあ、すいません」

「なんでもいい、さっさと返却しろ!でなければ斬滅してやる!」

「えええええ」



かなり理不尽ではある。
けれど石田さんはただ、本が読みたいだけなのだ。そう考えるとなんだか笑えた。



「今日はもう図書館閉まってますし、明日返しますね」

「…ふん、わかればいい」



石田さんは満足したのかそのまま帰っていく、かと思いきや、足を止めて振り返った。何事かと思っていると、予想外の言葉を投げ掛けられた。



「なにをしている。帰るぞ」

「え?」

「ついでだ。途中までなら…送ってやる」



最後に照れたように顔をそらして呟く石田さんに、こっちまで照れてしまった帰り道。


(120611)

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