BOOK AND YOUTH | ナノ


  灰と黒の境界線




辞書が当たった足が物凄く痛いが、石田さんの突き刺すような視線がそれ以上に痛かったので、さっさと大谷さんに用件を伝えることにした。



「大谷さん、この前の本なんですけど」

「ああこれのことか?」

「あっそれです!」



大谷さんは何処からともなく、先日華麗に持ち去っていった本を取りだした。その本を石田さんはチラリと見て、どうでもいいと判断したのか、下を向いて自分が持っていた本を読み始めた。



「だがちと待て。まだ返却手続きをしておらぬ」

「なら私が手続きしますから」

「よいよい。ぬしの手を煩わせるのは悪かろ?」

「は、はあ…」

「ではな、われはこれを返却しに行くとしよう。ぬしは三成としばし話して待つがよかろ」



大谷さんはそう言いながら、のんびりとカウンターの方へと向かっていった。その時の大谷さんはニヤリと笑みを溢していた。それを見て悟った。

あの人、私が石田さんにビビってることを知っててわざと残していった…

大谷さんのことはほとんどわからないけど、あの人の性格が悪いことだけは理解しているつもりだ。
そしてあの人の性格上、さっきから私が石田さんの一挙手一投足にビクビクしていることに気付いている。

つまり、わざと放置していったのだ。



「………」

「!?」



石田さんがこっちをものすごい睨んでる。
初対面の人に睨まれたら誰だってすくむし、人見知りならば尚更だと思う。この時、蛇に睨まれた蛙の気持ちがよくわかった気がした。



「怯えるな」

「…え?」

「別に貴様をどうこうしようという気はない」

「は…はあ…」



興味無さげにまた本へ視線を落とし、ページを捲り始めた石田さん。どうやら、悪い人ではなさそうだ。



「あの…石田、さん?」

「なんだ」

「その、…すいません。怖がったりして」

「…謝罪される意味がわからんな」



本から視線をはずすことなく、淡々と返す様子はどことなく毛利さんに似ていたけれど、なんとなく石田さんの方が優しい気がした。

そうこうしている内に大谷さんが戻ってきた、と思ったら本を投げてきた。



「なっ…にするんですかっ!」

「チッ」

「舌打ち!?」



投げられた本を咄嗟に真剣白羽取りの如くキャッチしたら、大谷さんは盛大な舌打ちをしてきた。本当なんなのこの人。



「おい刑部。やめておけ。体に障る」

「ぬしに心配されるとは思わなんだ」

「そっちの心配ですか」



前言撤回、やっぱり石田さんは毛利さんと同じで冷たい。全然優しくない。
本を腕に持ち、少しばかりの抵抗として大谷さんを睨み付けていると、その大谷さんはこっちを見てヒヒッと笑った。



「それが読みたかったのだろう?」

「そうですけど、渡し方が酷すぎやしないですか」

「ヒヒッ、少しばかりな、手が滑った」

「今日はよく手が滑るんですね!」



皮肉を込めて全力で返して、私はそのまま「失礼します」とだけ行ってその場を離れた。

とりあえず、大谷さんは性格が悪くて危ないことがよくわかった1日でした。



ちなみにあのあと、私は他にも数冊の本をカウンターに持っていったのだけど、そこで毛利さんに盛大な舌打ちをされたのは言うまでもありません。



「チッ、我の仕事を増やすな」

「お、横暴ですよ…」



ここの人達はみんな性格歪んでる気がする。


(120607)

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