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  解けゆく零下




シックに揃えたインテリアや絨毯。それでいてどこかお金持ちのような部屋にずっとそわそわしっぱなしで、落ち着いた雰囲気の筈なのにまったく落ち着かない。
これ以上座り続けていたら、緊張でどうにかなってしまいそうだ。



「どうしてこんなことになったんだろう…」



ボソッと独り言を呟いて思い出してみるけれど、今ぱっと出てくるのは毛利さんの私を引き摺る姿だけだった。
そうしてしばらく頭を抱えていると、扉が開く音がした。そちらに顔を向けるとなんと驚き。片手にお盆とお茶セットを持った毛利さん。



「…なんだ、その顔は」

「あ、いえ、ごめんなさい」



そのミスマッチ過ぎる光景が衝撃で、驚きが顔に出てしまったらしい。一先ず落ち着くために自分の頬を押さえて、毛利さんが向かい側のソファに座る姿を見ていた。
見ていると、次はお茶を丁寧な動作で淹れ始めた。もう一度言うけど、あの毛利さんが、お茶を淹れ始めたのだ…!



「紅茶は飲めるか」

「え?紅茶?」

「…早く答えよ」

「だ、大丈夫です問題ないです」



一瞬眉間にシワが寄ったのが見えた。そこで思い出したが、今日は冷たい視線はやたら感じたけれど眉間にシワを寄せて睨むようなことは一度もなかった。
毛利さん本人も機嫌が良いと言っていたし、私を家に招いた位なんだから本当に機嫌は悪くないのかもしれない。

ここで初めて、毛利さんがシワを寄せていない時は機嫌が悪くないということを知った。
そうやって一人で勝手に納得していると、毛利さんが目の前に紅茶とミルクと砂糖を差し出してきた。



「ダージリンだ。他は好きに使うが良い」

「あ、りがとう、ございます」



それだけ言って、自分の分を淹れてとっとと飲み始めている毛利さん。多分私のお礼は聞いていない。

とりあえず、毛利さんがお茶を用意してくれるなんてこの先あるかないかわからないので、言われるがままにミルクと砂糖を入れて頂いた。



「…あ、美味しいですね」

「当たり前であろう。我が淹れたのだから、不味いわけがない」



ただ紅茶を淹れただけだけど、自信満々に言う毛利さんがなんだか少し面白かったけど、笑ったら殴られそうなので堪えた。
だけどこの紅茶は本当に美味しい。やはり高いお茶葉を使っていたりするのだろうか?だとしたらこれは二度と飲めない。

またもやそんなことを考えながらも、カップを一旦置いて一息ついた。



「……」

「……」



一息ついたところで、会話が無くて困った。もしここで下手なことを話せば機嫌を損ねてしまうし、かといってなにか話さなければこの空気に私が耐えられない。

なにか話そう、そう思い、なんとか話題を探して頭をフル回転させていたところで、毛利さんが今度はどこからともなく本を出し、私に差し出した。
ビックリして思わず受け取ってしまったけど、これはなんなのかと疑問符を頭に浮かべた。



「これは?」

「貴様はそのような本が好きであろう。くれてやる」

「あっ、これ…もしかして…」



毛利さんと本を見比べてから本を改めて見てみると、そこには新書で、私が大好きな作家の名前があった。それを毛利さんは、私にくれると言うらしい。
新しい本は一人暮らしの私には買えないと思っていただけに、すごく嬉しい。



「でもこれ…本当に貰っていいんですか?」

「たまたま買ったが我には合わなかった。無駄なものはいらぬ。だからくれてやる。それだけよ」

「…っあ、ありがとうございます毛利さん!あの、本当に…嬉しいです」

「ふん、貴様の感想など求めておらぬわ」



そっぽを向いて吐き捨てるように言っているけれど、微かに頬が赤くなっていたのはきっと気のせいじゃない。



「ありがとうございます、毛利さん」

「……黙れ」



そんな毛利さんについ、感謝の言葉が口に出てしまった。それに対して、そんなことを言いはするけど、やっぱりまだ顔は赤いのでもう怖くはなかった。


いつもとは違う毛利さんの姿を見ることができて、なんだか少し、毛利さんとの距離が縮まったような気がした。
そんな、ある日の休日。


(121028)

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