かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ 閑話・ヒュースと鬼

玉狛支部地下の一室。暗い印象を与える地下というそこには、捕虜というこれまた暗い印象の人物の部屋があった。

「先輩だからな!」

そんな部屋から、暗さのない子供の声が聞こえてきた。それに続いて「わー陽太郎せんぱーい」と暢気な女の声がした。

玉狛第二のB級上位との戦いに向け、先輩である陽太郎は新しく玉狛に来た後輩に解説をしてやるつもりらしく、名前は解説の特別隊員として陽太郎先輩直々にお呼ばれした。

名前がぱちぱちと手を叩くと、「くだらん」と男に言われてしまった。その男こそ、陽太郎が解説をしてやろうとしていたヒュースなる後輩であった。

「おいおい、後輩態度でかいな。陽太郎先輩の解説を聞かんか」

「誰が後輩だ」

ずるるとヒュースがカップ麺をすする。随分とこの世界の食べ物に慣れたものだと名前がその様子を見ていると「やらんぞ」といわれた。

開いたパソコンをカタカタと名前が操作して映像を流す。まずは、現在B級一位部隊、二宮隊が映った。

「これがニノミヤだ!」

陽太郎が映像の中で戦っている、明らかに隊服というかスーツの男を指差した。ヒュースもその服の異様さがわかったのか、「何故こいつはトリオン体にならず生身で戦っているんだ?」と心の中で疑問に思った。

「てごわい相手だ……名前隊員! こいつの紹介をしてやれ!」

「了解です先輩」

しっかりとした返事を返して名前が解説を始めた。

「二宮匡貴。現在ボーダー内で射手ランク一位。さらにB級一位を率いるムカつ……仕事のできる男です」

陽太郎がふむふむと頷く。ヒュースもカップ麺を食しながらも偶に映像に視線をやるので、一応話は聞いているようだった。それを見て、「あと、」と名前が付け加えた。

「奴は人間に見えますが、実は鬼です」

「おに……?」

ぴくりとヒュースが反応した。先日陽太郎から聞かされた絵本に、確か出てきていたはずだ。人間の頬を引きちぎり、宴会を好むバケモノだ。ちなみに読んだ本のタイトルは「こぶとりじいさん」だった。

「ええ。日本に古くから伝わる妖怪で、特技は1000タイタオシテコイ。ジンジャエールと焼き肉で釣れます」

「ニノミヤはおにだったのか……!それはしらなかったぞ……!」

つらつらと名前が言った言葉を陽太郎が鵜呑みにして試合のログを見ながらごくりと喉を鳴らした。なお「1000体倒してこい」とは名前が二宮の指導を受けているときに言われた台詞であり、覚えたての技を使って一週間で1000体のトリオン兵を倒してこいという中々ヘビーな言葉であった。

「……本当だろうな?」

一度騙されていることもあり疑い深くヒュースが名前をじい……っと目を細めて見る。名前は「大事な後輩に嘘なんてつかないよ」と笑顔で嘘をついた。

「本で見たのとまるで姿が違うが」

「それは昔話の中ででしょ。現代まであんな姿だったら世界に溶け込んで生きていけないって」

「……」

……確かに。ヒュースは少しだけふむ、とあごに手を添えた。名前はさすがに「そんなわけないだろ」と怒られると思っていたが、騙されかけているヒュースを見て「現に私みたいに正体を偽っている人間がいるんだよ? 他に正体を隠してるのがいてもおかしくないって」と彼にだけ聞こえるように追い打ちをかけた。

「私は弟子だから知ってるだけで、本部もしらないの。だからこれはここの3人だけの秘密ね?」

しーっというジェスチャーで秘密であることを伝えると、「了解した!」と陽太郎が元気に返事をした。


「………………妖怪……こいつが……」


ヒュースが小さくこぼした言葉に、名前は「こんなに騙されやすくて大丈夫なんだろうか」と心の中で心配した。だがしかし、もちろん嘘だよなんてのは教えてあげなかった。







数日後、玉狛第二と上位チームとの戦いが始まった。先日の映像で見たとおりとても強い二宮の存在に、陽太郎は「やはりおには強いな……」とこぼした。

「鬼?」

話の内容を知らなかった迅が聞くと、陽太郎がふむ?と首を傾げた。

「ジン、知らないのか? ニノミヤはおになんだぞ」

「ヨータロー。あれは秘密事項だ」

「はっ!! そうだったなヒュース……!」

「ジン、忘れてくれ……」とハードボイルドな雰囲気で陽太郎が言う。迅はまるでヒュースと陽太郎が重大な秘密を知っているかのような感じになっているのを交互に見た。

「あー……」

普段から二宮の悪口を言う時鬼という単語を使う名前を思い出しながら、「何か吹き込まれたな」と迅が乾いた笑いを浮かべた。


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