かくして迷子は家に帰った | ナノ
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▼ あのことは当分ひみつ

トリガーを渡された。これからは、これを使って「げーと」から侵入してきた人を斬ればいいらしい。そんなことをしたら死んでしまう、と言うと、「死ぬことはないから大丈夫だ」と言われた。死なない体で戦う、らしい。

だからずっと、相手も自分も死ぬことはないと思って戦っていた。そもそも悪いのは、こちらに侵入して来る敵なのだ。それを追い払うことはいい事なのだと、本気でそう思っていた。やるべきことを与えられているそのときは、自分のこの理不尽な現状を考えずに済んだ。

何もわからない世界の中で、戦っている間だけは正義の味方に変身できたような、そんな気がしていた。







防衛任務を終えた名前は、今日も今日とて玉狛に向かっていた。最近なんだか招集が多いなと思っていれば「京介が呼んでやれと言うからな」とレイジに言われてしまった。なんだかんだ気遣い屋な後輩が自分を気にかけてくれているのだと思うと、どうしようもない罪悪感に苦笑しかでなかった。

「お邪魔しまーす」

慣れたもので、名前は自分の靴を揃えて端に寄せた。そこで、はたと一組の靴に目がいった。

革靴なんて珍しい。林道にしても、なんというか、こうしてきっちり端に並べられているというのには少しだけ違和感があった。宇佐美にでも並べ直されたのかもしれない。

ダイニングに向かう道をゆるやかに歩く。本日のメニューはなんだろうか。レイジが担当なはずなのでなんだって美味しいが、名前は彼のオムライスが一番好きであった。

しかしお腹の空きそうなその妄想も、ダイニングより手前の部屋から出てきた人物によって吹き飛ばされてしまった。


「二宮さん?」


ダイニングよりも玄関に近い部屋は、応接室だった。玉狛の特殊な面からか、あまり使われているのを見たことはない。そこから出てきた、自分の師匠と呼ぶべき男の姿に名前は目を見開いた。

「……お前か」

二宮は名前の顔を一瞥してそう呟くと、すぐに玄関に向かってしまった。去って行った男の背中を、名前は呆気に取られて見ていた。後ろにいた三雲たちに、すぐには気付けないほどに。


▽▼▽


「二宮さん、何しにきたの」

出てきた晩御飯は彼女の好物であった。しかし名前は出されたオムライスにすぐ手を付けることなく、三雲たちに二宮の件を聞いた。

二宮と玉狛なんて、どう考えたって結びつかない組み合わせだった。彼が遊びに来たなんてことはまずないだろう。しかも応対をしたのが古株ではなく三雲たち新隊員であったのだからなおさら。

三雲は閉ざしていた口を少しだけ開いて「それは……」と少しだけキッチンのほうを盗み見た。レイジに何かしらのコンタクトを取ったようで、本当になんなんだろうかと興味と、少しの疑惑が浮かんだ。

OKのサインが出たのか、三雲がゆっくりと口を開いた。

「……鳩原さんって人の件で、僕たちに話があったみたいで」

言われた言葉に、思わず手に取ったままだったスプーンを落としそうになった。

「何で三雲くんたちに?」

ちゃんと言葉を返せて、ほっとしてスプーンを握りなおす。「チカの兄さんと関係があったらしい」と今度は空閑が質問に答えた。三雲たちが遠征に選ばれる目標であった雨取の兄が、鳩原の失踪の件と関係があった、と。

話を聞いた名前が目を丸くする。二宮が鳩原について調べていたなんて。もう、いなくなった人間のことなど気にしていないのだと思っていた。

前に聞かせてもらった雨取麟児という名を思い出す。二宮は確か、調査で雨取麟児の自宅まで行っていた。住所記録等から、兄妹を割り出すことも可能だった。

「……そっかぁ」

3人から詳しい話を聞いた名前は、驚きと、それから少し、暖かいような不思議な気持ちになった。

二宮は鳩原を口悪く言っていたらしいし、実際すごく恨んでいるんだろうけれど。上のように鳩原が主犯だとは思わなかったのだ。その事実が、なんだか心の中をじんわりとさせた。

「ありがとう」と教えてくれた礼を言った名前はオムライスを一口頬張った。当然のように美味しいそれが、まるで今の自分の気持ちのように暖かかった。


(あのことは当分ひみつ いなくなった女の子の話)

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