かくして迷子は家に帰った | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


▼ おそろいの檻

私の扱いは「他国から、何らかの形で迷い込んだ子供」という認識をされており、その異端さからか風当たりは強かった。スパイの可能性もあると思われていたらしい。

トリオン器官、という聞き覚えの無い器官が体内にあることが当たり前のように言われていた。私がそれを知らないと言うと、大人たちはまたひそひそと話を始めた。

ほとんど聞こえないなか僅かに聞き取れたのは、「ミデン」という単語くらいなものだった。

国の名前など碌に知らなかった私は、この国の名前を言われてどこか遠い外国なのだろうと思った。知らなくて当然だ。世界がそもそも違うのだから。

「わたしはそのとりおんを使って、戦えばいいの?」

話された内容を要約して聞き返す。子供相手だからか回りくどく諭すようにされた説明が、どうにも気持ち悪かった。







太刀川が名前と会ったのは、彼女が高校一年生の頃。B級にかなりの逸材が来たという話は聞いていた。

だがその隊員は、隊も組まずフラフラとランク戦漬けの毎日を送っていた。彼女を見に行く者は多かったが、彼女は「まずはランク戦してたいんで」と断っていたらしい。

だから太刀川が彼女に会ったのはスカウト目的というよりも、どれくらいできる奴なのだろうかという興味本位で見に行ったものであった。

「あれ、お兄さんも見に来てくれた人? いやー人気者でまいっちゃうなぁ」

会ったとき、加古のように面倒なタイプだったらどうしようかと思っていたので普通の軽いノリの女の子で拍子抜けしたのを覚えている。名前は太刀川と少し話して、「太刀川さんって隊長さんとかやってませんよね?」と疑問をとなえた。

「これから隊作るんだ。お前も入るか?」

「じゃあ入る」

「お、マジで」

軽いノリの女子をスカウトした男もまた、軽い男であった。C級ブースにて、のちにA級トップクラスになる隊が結成されたことを、このとき周りの人間は気付かなかった。


名前は仕事ができた。


戦闘も勿論強いのだが、それよりも隊全体の利益を第一に考えた戦闘が素晴らしかった。

彼女は、いわゆるアドリブが上手かった。予想外の状況下になったとき、敵の作戦を見越してすぐに行動し、情報をいち早く太刀川に伝えた。あくまで戦闘員として駒として働く彼女は実に優秀な駒であった。

言ってしまえば、名前は場馴れしていたのだなと太刀川は思う。この少女が一体どこでどんな経験から戦闘に慣れたのかは知らなかったが、知らなくてもいいと思っていた。

近界遠征を決める試験に出る時、まず隊の全員に出陣確認を取った。遠征は死の危険性も伴う。少女は二つ返事で行くと言った。次、その次と、彼女は常に遠征に対して前向きであった。

しかし今回、彼女は首を横に振ったらしかった。あれだけ積極的だった近界民への興味、それが削がれていることが太刀川には気がかりだった。


▽▼▽


『東さんの実況なう。防衛任務どんまい(笑)』

「なあこれどう思うよ」

「反抗期なんじゃない?」

「いつになったらあいつの反抗期治るんだよ。俺あいつに反抗されなかったことないんだけど」

次の玉狛第二、鈴鳴第一、那須隊のランク戦実況の解説席に向かう迅と太刀川は先日名前から届いたメールについて話していた。

「なんて返したの?」

「『東さんの実況なう。武富から借りたわ(笑)』って返した」

太刀川の言葉に「同じレベルだから喧嘩するんだろうな」と迅はぼりっとぼんち揚げを食った。太刀川は名前の元上司だったが、まるで彼女から尊敬されていなかった。

「あ、そうだ。最近あいつに会ったか?」

「名前?」

「俺会ってねーんだよ。避けられてる気さえする」

「んー……」

「俺も避けられてんのかなぁ」と小さく心の中で言った。彼女には大規模侵攻以前に会ってから、あまり顔を合わせていなかった。会っても本部ですれ違う程度である。


(……いや、違うか)

避けているのは俺の方か。迅には未来視というサイドエフェクトがあった。どこに行けば会えるかなんてのは彼には手に取るようにわかるのだ。それがわかった上で会っていないということは、避けてるのは自分の方であった。

「どうした?」

急に黙った迅に太刀川が聞く。迅は「太刀川さんに会いたくないんじゃない?」と酷い冗談を言ってごまかした。


(おそろいの檻 笑ってごまかして、もう出られない)

prev / next

[ back to top ]