03
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双丘の間に埋まる俺の半身。
先端が肌に触れ、くぼみにほんの少しハマる。
「……ッ」
漏れたのはリュートの声だ。その顔が歪む。
ぐっと腰を沈めようとし、また少し先端が埋まり、またその顔が苦痛に歪む。
苦しげな吐息がリュートの唇からこぼれた。
……当たり前だ。
ほぐしもしていないのに入るはずがない。
しかもリュートに経験がないのは明らかだ。
ローションもなにもなく慣らしていない後孔に挿れようとしたところで無理に決まっている。
リュートは舌打ちをしながら挿入しようと必死で腰を動かすが―――……。
「ちゃんと勃たせてろよッ」
苛立ち紛れに叫ばれたって、無理に決まってる。
口淫で勃ちあがっていた半身はあっというまに萎えていっていた。
刺激が与えられ続けているならまだしも、それもなく、無理やり挿れされられようとしたって硬度を保てるわけがない。
「……無理だ」
「うるさいっ! 挿れるんだよ!」
腰を落としてくるが萎えた半身を導くことはもうできない。
さっきまでの冷たさが苛々と落ちつきのない表情へと変化していく。
その様子に反比例するように混乱していた俺は冷静さを取り戻していった。
本当に何をしてるんだろう。
「……こんなことしてなんになる。お前が俺とセックスしてどうなるんだ」
お互い無様な格好だ。
ベッドの上で拘束され半身を握りこまれてる俺と、萎え切ったものを挿入しようとしているリュート。
友情といえるほどのものさえない俺たちがなにをしているんだろうと、滑稽でしかたない。
「だから言ったろ、お前とセックスすれば兄さんはきっと俺を見捨てない」
「……」
何故そうなるんだろう。
セックスだとか関係なく、もとよりネイトがリュートを見捨てることなんてない。
睨みつけてくるリュートに俺はなんと返せばいいのかと逡巡する。
「兄さんはいままで一人のヤツに執着するようなことなんてなかった。なのに、お前とは何回も、何回もっ」
俺が言葉を探している間に忌々しげにリュートが続ける。
ブラコン、と言ってしまうには強すぎる感情、依存?
リュートが求めるのは兄としてのネイト?
だがネイトは弟のことが好き、いや愛している。
だけど想いを告げる気も、その先もなにも望んじゃないない。
だから俺たちは互いに"その相手"じゃないとわかって、わかってるからこそセックスをしている。
意味がないことかもしれないけれど、俺たちには必要なことだった。
「兄さんはお前が特別なんだっ」
思考を断ち切る、悲鳴じみた声。
「お前なんて俺にはどうでもいいっ。だけど、だけどっ! 兄さんがお前が必要だっていうならっ」
俺とセックスをして、ネイトとの距離が離れないようにする?
「馬鹿げてる」
自分から出た声がやけに冷えて聞こえた。
「俺とお前がセックスして、それをネイトが喜ぶと思うのか。そうかそりゃよかったって、三人でセックスする? そんなわけない」
逆に俺はあいつに殺されるんじゃないのかという気さえした。
ため息がでそうになるのをかろうじてこらえ、睨み続けているリュートと視線を真っ直ぐに合わせる。
「セックスしてそれでなんになるんだ。そんなことで相手を繋ぎ止めれると思っているのか?」
本当のところを言えば、ネイトはリュートのことを"好き"なのだし、リュートが迫れば受け入れる―――のかもと、そんな気が一瞬したがふと思い出した"こと"に打ち消す。
そもそもリュートの気持ちはネイトとイコールじゃないはずだ。
こいつは確かに守に惹かれている。
いまは暴走してそのことを忘れているのかどうなのか。
だけどネイトとの感情がイコールじゃない以上、身体が繋がったところで先なんてありえない。
俺の言葉にリュートは口をつぐんで視線を泳がせた。

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