02
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ネイトが俺を構うたびにこいつが嫌そうな顔をするのはいつものこと。
だけどその不機嫌さなんて及ばないくらい底冷えのするような憎しみさえ感じさせる光が目に浮かんで揺れている。
ネイトがこいつがいるときに必要以上に俺に構ってくるから、怪しまれていることは知っていた。
頷くべきか否か。もちろんそれは否で。
だが嘘をつくこともできずに俺はただ黙った。
―――正直言えば、苛立ち程度の生温いものじゃない向けられる激情に怯んでしまったというのもある。
俺が黙っているとリュートは目を眇め皮肉気に笑った。
「お前、兄さんにずいぶん気に入られてるよな。兄さんが一人のヤツに執着するなんて珍しいのに」
執着されてるわけじゃない。
俺たちは互いに、吐き出すことのないだろう想いを、欲に変えて吐き出しているだけの関係。
それだけなんだから。
「……リュート」
「なぁ、秋野」
ネイトと何があった。
問いかける前にリュートが手を伸ばし俺の眼鏡を取った。
「俺ともシようぜ」
嘲笑にも似た笑みを浮かべるリュートに、俺の思考は完全に止まった。
「……な、に?」
「兄さんはお前を気に入ってる。俺よりお前を選ぶくらいに」
ネイトが弟より俺を選ぶ?
そんなの……。
「ありえない」
呟けば、リュートは口元を歪めた。
「ありえるよ。今日、兄さんは俺が止めたのにお前のところに行くって言ったんだ」
「……ネイトは来て……ない」
「お前が断ったからだろ?」
「……」
「でも兄さんが俺よりお前を選んだのは事実だ」
「……」
違う、と言いたいけれどどう言えばいいのかわからない。
あいつが弟以外を見るはずがない。
あいつにとっては弟が特別で唯一、だ。
「だからさ。俺もお前とヤれば、いいだろ?」
「……なにが」
「兄さんはお前を気に入ってる。俺はお前なんか嫌いだけど、兄さんのためにお前と仲良くしてやろうって言ってんだよ。俺とお前がヤれば、兄さんも俺を置いていかずに、仲間に入れてくれるかもしれない。兄さんと俺とお前で、三人でこれからスりゃいいだろ?」
―――こいつ、なにを言ってるんだ?
呆然とリュートを見つめる。
俺は両手を後ろで拘束され、こいつに跨られ身動きのとれない状態。
それは全部、俺とセックスをするため?
ここは俺の部屋で、俺のベッドの上なのに、なんでこんな非現実的な状況が広がっているのか。
「お前……なに、言って……」
出した声は震えていた。
恐怖と言うよりも驚きが大きすぎて。
「だから、ヤるんだよ」
ほんの少しリュートは身体の位置を後ろへとずらすと、俺のズボンに手をかけた。
ベルトを緩められ慌てて身体を動かし抵抗しようとするがリュートは俺の脚の上に体重をかけて乗っていて、後手に縛られた状態では振りほどくこともできない。
「やめろっ」
ズボンの前が寛がされ、そして躊躇いなくリュートの手が触れてくるのはボクサーパンツの中。
「おいっ!!」
いい加減にしろと怒鳴っても冷たい表情のままリュートはあっさりと俺のモノを掴んだ。
「っ……」
萎えたままの俺のを取り出し、じっと見つめられる。
他人が触っている。しかもそれはネイトならまだしも、その弟で、俺にしてみれば信じられない相手のリュート。
「離せ!」
必死で身体をバウンドさせ、逃れようとした。
けどその反動でスイッチが入ったようにリュートの手が動きだす。
上下に俺のに摩擦を送る、掌。
ぞわり、と鳥肌がたつ。
気持ちよさなんてあるはずがない。
信じられなくて、やめろ、と繰り返した。
「とっとと勃せろよ」
反応を示さない俺のものに苛立たしげに呟いたリュートは、次の瞬間上半身を倒してきた。
「っ!! おい、リュートっ……あ!!」
何が起こったのか。
視界に映る光景が理解できない。
ただわかるのは―――生ぬるい咥内と、俺のに絡みついてくるざらついた舌の動き。
根本は扱きながら、唾液を垂らされ吸いつき舐めまわされる。
「ッ、やめろっ」
夢中で身体を捩る俺を押さえつけて口淫を続けるリュート。
それは決してうまくなんてない。
ネイトと比べるまでもない稚拙さ。
なのに、嫌なのに、ありえないと思っているのに、棹を擦られ先端を吸い上げられるたびにじょじょに芯を持ち始める。
熱が生まれて俺のがどんどん硬度を増していく。
「……ん……っふ……」
俺よりも華奢な身体、小さな口が質量を増した半身を咥え込んでいる。
その唇の隙間からこぼれる声に、びくりびくりと俺のが震える。
「やめろッ」
最悪、だ。
やめろと言いながら感じている俺の身体。
相手がいつも悪態をつきあっているリュートだというのに、奉仕してくる姿に煽られ疼きを感じている俺の身体。
最悪、だ。
くちゅ、くちゅ、と俺から出てるものなのかリュートの唾液なのか、それとも全部が混ざり合っているのか、水音が響く。
眉を寄せながらも深く咥えたり舐めまわしたりと刺激を送りつづけてくる。
「……っ、リュート……っ、やめろ……」
目を覆いたいが出来ずに目をきつく閉じる。
だけれどそうすれば逆にさらに敏感に感じてしまうことになってしまう。
なんでこんなことになっているんだ。
夢ならいいのにと願っても、俺の息は煽られるままにあがり、吐き出すごとに熱を帯びてしまう。
認めたくない快感の中でじくじくとゆっくりせり上がってくる吐射感。
それだけは嫌だと必死に耐えるが執拗に続けられる口淫に半身は脈動しはち切れんばかりに膨張する。
「も、っ……ほんと……に、やめろっ」
同じ言葉ばかり繰り返すことしかできない。
欲を吐き出すまで続けられるのか。
絶望を感じた瞬間―――突然解放された。
唾液と先走りで濡れた半身は空気にさらされひくひくと震える。
完勃ちし天を仰ぐその先端からはわずかに濁った液体が溢れていた。
終わったのか?
熱に犯されかけていた思考がほんの少し冷静さを取り戻そうとしたが、それも一瞬。
カチャカチャとベルトを緩める音と、衣擦れの音が響いて極限まで目を見開いた。
「……なに、してるんだ」
唖然とする俺の目の前で……リュートはズボンを下着ごと脱いだ。
そして俺に跨る。
その後孔に俺のを宛がって。
「だから―――言ったろ。セックスするって」
「……な」
俺の半身を掴んで固定しながらリュートは腰を下ろした。

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