09


恋―――ってどんなのなのかな。

ミートドリアを口に運びながらそれでも僕の口から出てきたのはやっぱり嘉信くんの"王道"さについてで。
嫌がることなく話を聞いてくれるゴローちゃんに瓶底眼鏡とカツラの下がどうなっているのか、を妄想しつづけた。
そのあと食べ終わってゴローちゃんと別れて部屋に戻る。
嘉信くんオムライス残しちゃったけどお腹空いてないかなぁ?
部屋では自炊もできるから、もしお腹空いてるようだったら簡単になにかつくってあげようかなぁ?

"王道転校生"の格好をしてはいるけど、きっと嘉信くんはその言葉さえ知らない普通の人なんだろうから、あんまりじろじろ見ちゃわないようにしなきゃだよね。
不躾に見られたら不快だろうし。
でも―――本当に見事なまでの王道スタイルだったよねぇ。
あれで眼鏡外して超美形だったらもう本物って感じだけど。
そうだったら面白いなぁ、でもそんなに現実甘くないけど、でも、って口元が緩むのを抑えきれずに部屋に戻ってきた。

カードキーで鍵をあけて、ドアを開ける。
寮の部屋はミニキッチンにユニットバス、リビングとそれぞれの自室。なんて私立のお金持ち学校だからか結構ひろかったりする。
入ってすぐのリビングにドアに背を向けて立って携帯電話で喋ってる嘉信くんがいた。
嘉信くんの邪魔にならないように部屋に入っておこうかな、とそっと奥の僕の部屋に向かってると―――。


「ごちゃごちゃウッセェんだよ。三日だ、いーか。三日だからな」

別人じゃないのかなってくらいに低く怖い嘉信くんの声が響いて思わず足を止めてしまった。


「あ? 分かったっつってんだろ。ちゃんとケジメはつける。だから、とっとと来い」

いいな、涼―――、と地を這うような低音ボイスで言うと携帯を切り、ソファーに携帯を投げつけた。
嘉信くんの背中から滲みでるオーラがなんだか怖くって、気づかれないうちに部屋に入ろうってこそこそ足を動かす。
でも見つからないはずなんてないし、しかも、


「きゃわっ」

なにもないところなのに躓いて顔から転んでしまった。


「ったぁい」
「忍ちん!? 大丈夫!?」

すかさず飛んでくる嘉信くんの声と足音。
その声は大きいけどさっきまでの声とは違って、それに少しホッとしつつ"忍ちん?"って疑問に思いながら差し出された手に顔を上げた。


「ご、ごめん。だいじょー……」
「……忍ちん?」


不思議そうに首を傾げる嘉信くんはあの瓶底眼鏡を取っていて―――。
その素顔に僕は息を飲んで、そしてそしてつい叫んでしまった。


「王道転校生スタイルで素顔が美形!? リアルなの!? リアルだよね!? え、なにこれ、なに、どっきり!? え、なんで美形!? なにそのエメラルドみたいな目、カラコン!? え、なになになに、なに!? え、何得? 俺得!? も、萌え!???」


興奮しすぎて何を言ってるのか僕自身わからなかった。
とりあえず嘉信くんは冗談抜きで美形だった。
ゴローちゃんも美形だけどそれよりも上。

男らしいけど綺麗に整ってて、ど、どうしよう! 僕の語彙力じゃうまく説明できないけど、絶対抱かれたいランキングあったら一位になってそうな、そうまさしく―――。


「俺様美形ktkr!!!」


ドキ胸きゅんきゅんきゅんで叫んだ僕に、嘉信くんがぽかんと口を開けて。


「……」
「……」


そこで僕は自分がとんでもないことを口走って醜態をさらしてることに気づいた。



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