trick02


「……ちょ、晄人?」
「お菓子くれないんだろう? じゃあ、悪戯な?」

色気をたっぷり含んだ笑みを浮かべ、晄人が俺の手をとると指先を舐めた。


「ちょ、ちょっと待て! どうした……ッ!」

様子が変だ、と思う間もなく顔を近づけてきた晄人が俺の首筋に顔を埋める。
ざらりと舌が這い、そして甘噛みされた。


「おいっ、晄人! ふざけるのもいい加減にっ! わっ、おいって!」

慌てる俺にかまわず晄人は俺のネクタイを緩めボタンを外しだす。


「お菓子をくれないお前が悪い」
「はぁ?!」

じたばたもがくけれど晄人の力は妙に強くて抜け出せない。
その間にもどんどんボタンは外されていって、素肌に手が滑ってきた。


「たっぷり悪戯シてやる」

にやり、と笑う晄人の口に鋭い牙。
それは本当の吸血鬼のようで―――。


「ちょっと待て!! お菓子あるから!!」

ものすごい身の危険を感じて叫んだ。
するとぴたりと手が止まる。
その隙に手を伸ばして当たりを探ると俺の鞄があった。
そこから慌てて捺くんに用意していたクッキーを晄人に渡す。


「これ! これでいいだろ!?」
「ふうん。クッキーか。いいだろう」


……いいんだ。
ホッとしながらもあっさりと頷いてくれたことに拍子抜けしていたらいきなり顔が近づいて唇に温かいものが触れた。


「っ!?」
「じゃあまた来年な? 次は悪戯させろよ?」

ふっと笑ったかと思うとまたどこからか弾ける音がして一瞬のうちに晄人の姿が消えた。


「……え」

しばらく呆然として、俺はようやくあることに気がついて脱力した。


「……夢、か」

どう考えても夢だろう。
いきなり人が消えるなんてないし、不思議なことが多すぎる。
夢だとすれば納得もいく。
そう思えばさっきの晄人がおかしいのも理解できた。
それでも夢にしても疲れを感じてベッドに沈み、ため息を吐き出す。


「大丈夫ですか?」
「はい……。え」

俺しかいなかったはずなのに気づけばすぐそばに人影がある。
誰、と思うまでもなくその声はよく知るもの。


「……智紀」

思わずまたため息がでた。
聖書を片手に持った神父姿の智紀がベッドサイドに腰掛けていた。


「あなたが吸血鬼に悪戯されなくて本当によかったです」
「……」

キャラも神父モードなんだろうか。
いつも通りの爽やかな笑顔を浮かべ敬語で話しかけてくる。
正直こんなことは思いたくないけど、どうしても胡散臭く感じてしまう。
どう対応すればいいのか悩んでいたら、にこり、と智紀が笑い手を差し出してきた。


「trick or treat!」
「……」
「trick or treat!」
「……ごめん、もうお菓子ないんだ」

胡散臭い、とは感じても神父コスチュームで敬語。
謝ればきっと許してくれるだろう。


「……お菓子ないんですか?」
「ごめん」
「そうですか。……じゃあお仕置き……いえ、悪戯しなきゃですね」
「……」

いまお仕置きって聞こえたのはきのせい?
疑問に思った瞬間、つい数分前のデジャブ。
爽やかスマイルだけれど妖しく目を細めた智紀が俺に跨っている。


「……この夢早く覚めないかな」

立て続けにこういう状況になる夢なんて……。
俺どこか体調悪いんだろうか?
捺くんが相手ならともかく晄人や智紀まで出てくるなんて。


「……っ、わ!」

ぼーっとしていたら腹部を指でなぞられて我に返った。

prev next

TOP][しおりを挟む]

<