trick01


*パラレルです*




「trick or treat!!」


声とともにパーンとクラッカーの弾ける音が響き渡った。
仕事から帰ってきてドアを開けるなりの出来ごと。
驚きながらもイベントが好きな捺くんならありえる、とやたらと紙のリボンが飛んできてそれを取りながら笑った。


「びっくりした」

捺くんに向かって言った―――俺は、そのまま固まった。
目の前には確かに捺くんがいる。
けど、その両隣には晄人と智紀がいて。
いや、それだけならいいんだけど、三人とも仮装をしていた。


「……どうしたの」

いくらハロウィンとはいっても今日は週初めの月曜日。
月末だし智紀や晄人も忙しいんじゃないのか。
三人のばっちり完璧な仮装に困惑してしまう。
捺くんはアリスの仮装だった。
金色のウェーブがかかったウィッグをつけてブルーのワンピースに白のフリルたっぷりのエプロン。
白のニーハイに、と目の色さえ抜けば映画から抜け出てきたんじゃないかっていうくらいに可愛い。
そして隣の晄人は髪をオールバックにした、たぶん吸血鬼だ。
真っ黒なマントに中はパープルのベストをつけて、妖しいというか色気がはんぱない吸血鬼。
それから智紀は神父だと思う。
似合っているけど……ものすごく怪しい。
俺はとりあえず呆けてしまって立ちつくした。


「すごい格好だね」

そう言った俺に、三人が声を揃えて、


「trick or treat!」

とまた言ってくる。


「え、あ……」

戸惑いながら軽くパニクって視線をさまよわせると晄人と目があった。
だから自然と「晄人、あの」と俺は単純にこの仮装のことを聞こうとしたんだけど。
いきなりまたパーンとなにか弾けるような音がして、暗転した。
身体がぐらっと揺れてなにもしてないはずなのに後に倒れる感覚。
というか明らかに倒れてかけている俺。

あわてて宙をつかむように手を伸ばす―――と、その手がぐっとつかまれて、背中にも手が回って倒れる寸前で支えられた。
それはちょうど、抱きかかえられた格好で。


「……ありがとう、晄人」

どうしてか暗い空間で助けてくれたのは晄人だった。
ほっとしてお礼を言い、起き上がろうと思った。
けど晄人はそのままの姿勢で口角を上げ俺に顔を近づける。
顔と顔の距離がほんの数センチというところで止まる。


「trick or treat」

やけに甘く低い声で囁いてきた。


「え、あ、お菓子だよね。ごめん、な―――」

ハロウィンのお菓子、じつは捺くんにと思ってパンプキンのクッキーを買ってきていた。
それは一個だけしかないから晄人にはあげられない。
だから"ない"って言おうとしたんだけど。


「ナイか?」
「う、うん」
「じゃあ悪戯、シていいんだな?」
「……は?」

晄人の目が妖しく光る。
なに、と妙な胸騒ぎを感じた途端背中から晄人の腕が離れ、そして倒れ込んだ。
だけど固い地面じゃなくやわらかい感触。
それはベッドで―――……というか智紀や捺くんは?
左右を見回しているとベッドが軋む音がして、俺の身体を囲うように吸血鬼、もとい晄人が覆いかぶさってきた。


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